42 / 49
第捌話
4
しおりを挟む「だったら、皇帝の姿になれば、皇帝の思惑も知ることが出来るんじゃないんですか?」
「残念ながら、異性に変化することだけは出来ないのです」
言われて、何て馬鹿な質問をしてしまったのだろうかと恥ずかしくなる。
理由が分からないのは仕方ないとしても、私が思い付くよりも先に、出来ることであったなら試さなかった訳がないのに。
「異性の姿を真似ることくらいならば、問題はないのですが」
と、栞梠さんがくるりと回れば、朱皇皇子に似た可愛らしい少年に変化する。
「……あ」
成程、と思った。
体つきが女の子のものだ。肩は薄く首もほっそりとしていて、喉仏も見られない。
「このように、中途半端な姿になってしまいます。ただ男装しているようにしか見えないのです。ですから、真似た相手の声にはならず、思惑など読み取れる筈もありません」
そこでちょっと項垂れた後に、またくるりと回って、元の姿に戻ってしまう。
皇子に似た美少女をもう少し見ていたかったのだけれど、呑気なことを考えるのは不謹慎だと自分を戒める。
誘惑が多い所為なのか、私の意志が脆弱なのか、ついつい緊張感を失ってしまっている気がする。
そう思って、不意に気付いた。
栞梠さんがこうして色々話してくれているものだから、すっかり全て終わったことのように思っていたのだと。
「皇帝は、朋澪さんまで利用して、何をさせようとしていたのですか?」
気持ちを切り替える為に、背筋を伸ばして話を戻してみる。
「彼女が丹思様と同じく妖狐族の血を引いていることは、ご存知でありましたでしょうか?」
「はい。確か蒼慈さんから聞いたんだと思います」
「そうでしたか。あの方もやはり青子様には甘くていらっしゃるようですね」
甘い、と言うのだろうか? ただ必要だったから教えてくれただけだと思うのだけれど。…………多分。
「丹思様の母君程ではありませんが、彼女の母君は三尾でありましたので、妖狐族を従えるだけの力はありました。それを利用されたのです」
「……」
「彼女は千茜様と結ばれることを望んでおりました。あのお声に酔わされているだけではなく、本当に愛していらっしゃるようでした」
胸が痛くなった。同時に、自分が予想しただけのものに気分が悪くなって来てしまう。
「皇帝は、千茜様を餌として、彼女と彼女に従う妖狐族を手に入れたことになります」
「……っ……」
やっぱり、と思った。
純粋な想いを利用するなんて酷すぎる。
それが皇帝のすること? 本当に朱皇皇子たちのお父さんなの……?
「義憤に駆られていらっしゃるところ、大変申し訳ありませんが、この程度のことは非道のうちに入りません。彼女が皇帝に騙されて凌辱されたのであれば、同性として哀れに思うところであります。しかし、そのような事実はなく、彼女は千茜様の側室になると目されるまでになっておりますので、取引として成立しているのです。そのお陰もあり、わたくしが彼女の姿となって千茜様に近付くことが容易くなったのですが」
「……」
「権力のある者が弱い立場の異性、或いは同性に屈辱を与えるのは、歴史の中で珍しいことではありません。わたくしの先程の発言は、決してそういったことに理解を示している訳ではありませんので、誤解なきようお願い致します」
私がいた世界にそういったことはなかった。とは言えない。けれど、自分が知っている人で例を出されるのは、たとえばの話でもして欲しくなかったというのが本音だ。
けれどそんな話をさせてしまう程に、私の態度が、多分栞梠さんの気に障る類いのものだったのだ。
「ごめんなさい、私――」
「謝っていただくことではありません。ご理解いただけたなら良いのです」
「――はい……」
「青子様は別の世界からいらしたのですから、わたくしたちと感じることが異なっても仕方のないことなのです。……責めたり突き放しているつもりはございません。どのように広げてしまった溝を埋めればよいのか、分からないのです」
気に障った……つまり、怒っていた訳ではなかったらしい。
私は情けない表情になってしまっただろうけれど、どうにか笑顔を作った。
――と、書庫の扉が開く音がする。
近付いて来る足音の方に顔を向けると、理杜くんが姿を見せた。
「青子様、栞梠さん、殿下がお待ちです」
「わたくしも、ですか?」
「はい」
栞梠さんが迷うような素振りを見せているのは、やはりここに丹思様が来ていることを承知しているからだろう。
「今から皆様でご一緒に、潭赫様に会いに行かれるようですよ」
「……えっ?」
それがどういう事態に繋がるのか、理杜くんは知らされていないのだろうか。何だか楽しいことが起きそうで羨ましいといった雰囲気だ。
「ご安心を。彼は全て知っておりますから」
「!?」
知っててその言い方? とビックリしながら見ると、理杜くんは恥ずかしそうな可愛らしい笑顔を浮かべた。
「だって、千茜殿下を中心に大捕物が行われるんですよね? 僕も行きたいです。相手は皇帝ですよ? 皇帝の罪を殿下たちが糾弾するんですよ? 見たいです!」
気が付いたら、ぽかんと口を開けてしまっていた。
理杜くんが無邪気すぎる。きっと彼の中で千茜様はヒーローだったりするのだろう。
「お遊びではないのですよ? あなたはここで待っていなさい」
「はーい」
「青子様、行きましょう」
「はい」
栞梠さんに促されて、私は理杜くんに軽く手を振ってから書庫を後にする。
途端に緊張してきてしまって、結末を見届けたい気持ちもあったけれど、何か怖いことが起きてしまうような気がして、押し寄せる不安を払う方法を懸命に考え続けた。
0
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜
具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。
主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。
みたいなはなし
※表紙はAIです
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル
14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった
とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり
奥さんも少女もいなくなっていた
若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました
いや~自炊をしていてよかったです
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム)
目を覚ますとそこは石畳の町だった
異世界の中世ヨーロッパの街並み
僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた
案の定この世界はステータスのある世界
村スキルというもの以外は平凡なステータス
終わったと思ったら村スキルがスタートする
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる