晴れのち智くん

ももゆき

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あれから智は、帰宅して猛烈に吐いた。

色んな意味で汚れた体を洗おうと風呂に入り、鏡に映った自身の性器をみてアレを思い出しては何度も吐いた。

そんな智の様子を母親が心配し、翌日は学校を休ませてくれた。

一日の殆どをベッドで寝たり起きたりして過ごしていた智は、スマホの通知音で目が覚めた。

誰かからメッセージが届いてるようだ。
智は寝ぼけ眼でロックを解除する。

綾野『智くん今日休んでるけど風邪?大丈夫?』


「!!!」

昨日の思い出したくも無い行為の元凶からのメッセージに、智は動悸がするの感じた。

多田達に、綾野と関わるなと言われてるので無視を決め込んだが、智はその日一日、綾野の事を思い出しては嫌な気持ちになった。




昨日一日休んで、吐き気などは無くなったが、智は当たり前に学校へ行きたくなかった。
母親には、『治ったんだから行きなさい!』と強く言われたが、智は頑なに部屋にとじこもり、最終的には『勝手にしなさい』と言い捨てると、仕事のために家を出た。

(俺…このまま引きこもりになるのかな…)

智は何を考えてもマイナスな想像しかできないのが嫌になって、惰眠をむさぼった。


どれくらい時間が経ったのか、智は時刻を確認するためにスマホを開くが
時刻を確認する間もなく、ポポポポポポと通知が連続してなる。


綾野『智くん今日も休み?!』
綾野『風邪こじらせちゃった?大丈夫?』
綾野『俺お見舞い行こーか??』
綾野『そういえば昨日、提出期限短いプリント配られてたよ!俺届けに行く??』
綾野『先生に聞いたら住所教えてくれた✌学校終わったらお見舞い行くね!』
綾野『何か欲しいものあるー?』
綾野『やっぱりマジ心配だし、お昼で帰っちゃおうかな?!』



「?!!!」

智は綾野からの最後のメッセージを見て、焦って時間を確認する。
11:58分。
智達の学校は12時から昼休憩だ。

「や、や、やばい。コイツやばい!…くそっくそくそ!綾野のクソ!!!」

智は口汚く綾野を罵りながらメッセージの返信画面を開く。
一瞬、多田に関わるなと言われたことが頭に過ぎるも、迷ってる時間はなかった。

『大丈夫!今から学校行くから!』

智は焦りながら打ち込むと、送信ボタンを押した。

送ると同時に既読がつき、智は鳥肌が立った。

1分と経たずに、
『そうなのー?無理しないでね~。』
と返信が来る。

智は一息つくと、既読のつかない相手に、あんなに連続で送る綾野の無神経さに恐怖を感じた。

(というか、昨日未読無視された相手によく送れるな。)
と智は恐怖を通り越して最早関心していた。

智は、放課後にでも取りに行けばいいかと布団に潜っだが、早く学校に行かないと綾野が家に来そうな気がして、渋々準備を済ませ学校へ向かった。



智が学校に着いたのは、お昼休憩も終わりまじかの頃だった。

多田達と話す綾野の姿をみつけ心臓がはねる。

綾野の事だから『智くんおはよー!』と声をかけてくるのではと思ったからだ。
多田達の目の前でそんな事されたら…と智は気が気ではなかった。

が、意外にも綾野はチラリと智を見ただけで特に話しかけてくることは無かった。


智は机の中に入ったプリントをカバンに入れると、今日もう帰ろうと踵を返した。

「青木ぃー!」

突然呼ばれ振り向く。

「ぁ…」

声の主は多田だった。
智の、逃げ出したいという思いとは裏腹に、足が床に引っ付いたように動かない。

多田が智の元へ歩いてくる。

「重役出勤じゃん笑」

多田は智を馬鹿にして笑うと、バサッと智の机に何かの雑誌を置いた。

「?………っ!?」


智は一瞬、それがなんの雑誌か分からなかったが、下着姿の男性2人が絡み合っているのを見てゲイ雑誌だと気づいた。
途端に顔を真っ赤にする智を見て、多田はニヤニヤと笑っている。

「なっなにこれ!?要らないしっ!」

智が大きな声を出して雑誌を突き返したので、周りの生徒も何だと近寄り、ゲイ雑誌を見つけて騒ぎ出した。

「いや、要らないも何も。これ、お前の机から出てきたし(笑)」

多田は、プリント入れる時に綾野が見つけてた~。と周りに説明するように言う。

「は?!そんなは…」

「「「 え~~~!! 」」」

智の否定の言葉は、周囲の悲鳴にかき消された。

『青木ってホモってこと?!』『男とヤッた事ある?(笑)』『しょっちゅう顔赤いのって、男見て興奮してたから?』

周りから容赦のない言葉が、次々と智に浴びせられる。

(誰か、誰か助けて。…本田っ)

智は本田の席を向くと、智と目のあった本田は慌ててそっぽを向いてしまった。
智は泣きそうになりながら、"たすけて"と頭の中で何度も反芻する。

ふと、綾野が思い浮かんだ。
関わるなとは言われたが、この状況を見れば、智が何も言わなくても綾野自ら助けてくれるのでは?
そう願って綾野の席に目を向ける。

綾野は笑っていた。

一瞬、智の事を笑っているのかと思ったが、よく見ると通話中のようだ。
とても楽しげで、こんなに騒がしい智の席には目も向けない。

(…ほんとクソ)

智は再び綾野を恨み、心で悪態をついた。


結局、智をこの状況から救い出してくれたのは『授業始めるぞー』と入ってきた先生だった。
元々、昼休憩も終わりに近づいていたので、時間にすれば大した事は無かったのだろうが、智にとっては何時間にも感じる苦痛の時間だった。


授業中、講義内容は1ミリも頭に入らず、智は先程の事で頭がいっぱいだった。

(あの雑誌、多田は綾野が見つけたって言ってた…。入れたのは誰だろう…?)

昨日まなみで抜けなかった事を怒ったまなみ?
それとも、多田に便乗してる林や渡辺?
いや、多田の自作自演かもしれない。
…まさか、本田…?

知りようがない。

(てか綾野が、見つけても黙ってればこんな事にはならなかったのに…!)

あのクソ!と智は本日三回目の逆恨みをして、授業は過ぎていった。



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