14 / 19
雨
9
しおりを挟む智はあれから休み時間の度、多田や他のクラスメイトに捕まりホモ弄りをされた。
智が無理やり帰ろうとすると、多田に肩を組まれ、耳元で「逃げんなや、動画晒しちゃっていい?」と脅され帰ることを許されず、放課後を待ちわびながらひたすら耐えた。
放課後。
1部のお調子者達が『明日はゲイ雑誌持ってくんよ(笑)』『じゃぁな~ホモ』と智の肩を叩きながら帰っていく。
智も手早く準備を終わらせ、足早に教室を出た。
早くこの空間から逃げ出したいという思いと、
またこの間みたいに、多田に廃工場に連れていかれるかもしれない恐怖があったからだ。
智は半ば走るようにして校門を出ると、ようやく少しほっと出来た。
疲れもあり、いつものペースで歩き始めた時。
ガッ、と誰かに肩を掴まれた。
「ひっ!!?」
(嘘っ…た、多田?!)
智は恐る恐る後ろを振り返る。
「智くん帰るの早いねぇ!」
手の主は綾野だった。
少し息を乱してる様子から、走って智を追いかけたのだろうか。
「あ、綾野…」
「もう体調良さそうで安心したよ!一緒に帰ろ♪」
綾野はニコニコして智の隣に立つ。
嬉しそうな綾野とは対照的に、智は非常に焦っていた。
智は元々綾野が苦手なので絶対一緒に帰りたくないが、それ以上に多田から関わるなと言われている。
万が一、多田に見られたら非常マズイ。
「あ…でも、えっと…1人で帰りたい気分、というか…」
「え~?良いじゃん~。俺話したいことあるし一緒に帰ろーよっ」
しどろもどろになりながら、どうにか断ったつもりの智の頑張りも虚しく、綾野は智の腕を引っ張って歩き出した。
「えっ、ま、」
(まじかコイツぅぅぅ)
智は内心悪態をつき、断れそうにないと観念した。
多田に見られていないか辺りを見回しつつ、綾野に引きずられるようにして歩きだす。
「は、話って…何?」
智はなるべく早く切り上げたくて、早速本題に入った。
「あぁ、今日の昼休みの事なんだけど、俺電話してて見てなかったんだけど…。智くんゲイ雑誌の事、多田に言われて騒ぎになったって?」
「っ…あ、あれ俺のじゃない!」
昼間の嫌な記憶が蘇り、大声で否定する。
「そうだよね、この間ホモじゃないって言ってたもんね。」
「…っうん」
綾野のは、興奮する智を宥めるような優しい声で言った。
綾野がすぐに智を信じてくれたことに、智は少し驚きつつもホッとして泣きたくなった。
「多田達がやったのかな~?ゴメンね…。すぐに気づいて止めてあげられなくて。」
綾野は申し訳なさそうな顔をしている。
「う、ううん…。綾野ありがとう。」
智は誰か一人でも理解して寄り添ってくれる人が居て嬉しくてお礼を言うと、綾野は一瞬目を丸くした後、申し訳なさそうな顔から一転、満面の笑顔になった。
「智くん、明日から俺と過ごそうよ!」
「え…」
綾野が智の手を握ってくる。
智は何故かゾクッと悪寒が走った。
「俺が智君と仲良くしてたら、多田とかも嫌がらせしないと思うし!俺…智くんの事守ってあげたい。」
「っ………」
綾野は真剣な顔で智を見つめる。
智がこれ以上虐められないように、協力してくれようとしている。
なのに、
(きもちわるい)
そう感じて、思わず綾野の手を振り払ってしまった。
「あ…」
謝らなくては。と思うと同時に、元凶である綾野に謝る必要は無いと思う自分がいる。
そもそも多田からは、何でか綾野に近寄って欲しくないという理由で智はあんな事をされたし、
先程のゲイ雑誌の件も、綾野が見なかった事にするか黙って捨ててくれてば、クラス中にホモだと勘違いされることもなかったはずだ。
考えれば考えるほど、智は綾野への憎しみが募っていった。
「智くん…何で?」
綾野は悲しげな顔で智を見つめてくる。
智は綾野のその顔が、被害者ヅラしているように見えて苛立った。
「俺に…今後関わらないで!綾野のせいみたいな所あるしっ。LINEもしないで。一人で帰るから着いてこないで。」
智は吹っ切れ一方的に捲し立てる。
「と、智くんっ…」
「うるさい!!」
綾野が喋るのを制して、智は逃げるように帰路に着いた。
10
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる