晴れのち智くん

豪雨

1

「………は？」

綾野統万あやのとうまは、青木智あおきともの小さくなっていく背中を呆然と見送った。

(なんで…？智くんに優しいの俺だけじゃん。何で智くん俺に怒ってんの？訳分かんないんだけど。)

統万は、今の今まで上手く運んでると思っていた事が、急に崩れ去り憤っていた。

統万はしばらく1人でイライラしながら、今までの出来事を振り返ってみた。
何が悪かったのか、何であの漫画みたいにいかないのか。
今日の出来事を思い出したところで、統万は閃いた。

(…いや、クラスの皆からホモ弄りされて、俺に八つ当たりしただけかもっ…！)

今日は智の事をそっとしておいて、明日になれば智の気持ちも落ち着いている頃だろうと考え、明日に希望を託し帰路に着いた。


しかし翌日、早くも統万の思惑は外れた。
たまたま朝一緒になったので、「おはよー」と挨拶をしたが、見事に無視を決め込まれたのだ。

(ま、まぁ昨日の今日の、しかも朝イチだから…！)

と、前向きに考え、めげずに接触を試みるも統万の惨敗だった。

そもそも近づくと逃げるので、話しかけることすらままならない。
LINEはブロックされているようで未読のままだ。

昼休みの今、智は多田にパシられて売店に走ってるしく不在だ。

(虐めてくる多田の言うことは聞くくせに。)

統万は腹の底にフツフツとした怒りや嫉妬を感じながら、智へのアプローチの仕方を考える為に1人になりたくて、騒がしい教室から屋上に移動することにした。

屋上に着いて暫く、思考しながらモソモソ昼食を取っていると、ぴこんとメッセージが届いた。

よくつるむメンツとのグループチャットに多田が画像を送信したようだ。

何となしにメッセージを表示した統万は驚いた。

「！！」

男子トイレらしき写真には、多田の手に掴まれたパンツと、その背後にピンぼけした智くんが、股間を隠すようにして写っていた。

続けて多田からメッセージが入る。

『俺の補習課題終わらせるまでパンツ没収の刑(笑)』

ほら、多田みたいな鬼畜に付いて行くからこんな事になるのだ。

そんな事を考えていると、統万はふと閃いた。

ボケてはいるが下半身裸の智が写っているのだ、きっと智はこの写真を消して欲しいだろう。
この写真を見せて、智の目の前で消すように取り持ってあげれば、智も統万に心を開くのではないか。

(…いや、ボヤけてるし、これじゃ弱いか？)

統万は先程のグループチャットを開くと、『もっとこんな感じの写真とかあったりするの？あったら送ってー。』
とメッセージを送信した。

すぐさま多田から返信が来る。
『何でそんなの欲しいんだよ😂』

多田に続いて他のメンツからも、笑いや爆笑といったスタンプが送られるのみで、統万の目当てのものは送られてこなかった。

「…ッチ」

統万が舌打ちすると、ぴこんとメッセージの受信音が鳴る。

林からだ。

開くと、『多田には秘密な🤫』というメッセージと共に2つの動画が受信される。

容量が重く読み込みに時間がかかったが、再生できるようになると統万は驚愕した。

「な、なんだコレっ？！」

動画は、1つは智が自慰をしている物と、2つ目は男の性器をシャブっているものだった。

2個目の動画は、性器の主はお腹の辺りまでしか映ってないが、十中八九多田だ。
時折映る、腕のアクセサリーも多田の物だし、林が多田には秘密というから間違いないだろう。

(クソ！死ね！死ね死ね死ね死ねクソ多田！！！智くんは俺のなのに！！智くん智くん智くん…！智くんのバカ！)

統万は脳内で幼子のように暴れ回る。

「…は、ハハハッ」

何だか笑えてきた。
1度笑うと、壊れたように笑いが止まらない。

「ぁはは！あははははハハ！！ハーっ…あー、そうだ。そうしよう。そうするしかないし。」

統万は大笑いによる酸欠の為か、それとも心に渦巻き荒れ狂う嫉妬のせいか、目に涙を滲ませブツブツと呟く。

もう、ゆっくり智くんが心開くのを待ってる場合じゃない。
だって智くんは男のチンコしゃぶれるんだもん。早くしないと多田とヤッちゃうかも。

だから

俺も多田みたいにするしかないよね。


「あー、でも俺優しいし、智くん大好きだから最後にチャンスあげようかな～」

統万は一人晴れやかに笑った。