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「アデリーナ様。アデリーナ様」
アデリーナは自身の名前を何度も呼ばれていることに気がつき、ようやく目を覚ました。馬車の窓から見える風景はすっかり変わっており、荒れた地が早速お出迎えしてくれている。
「ありがとう。これをあなたに授けます」
彼女は馬車から降りるとチップの代わりに忍ばせていた宝石の一つをここまで送ってくれた彼に渡す。彼は恐れ多いと言い、受け取ろうとしなかったが、最終的には彼女に押されて受けとってくれた。
馬車が次第に離れていくのを見てアデリーナはなんともいえない気持ちになりつつ、もといた国に見切りをつけるために荒廃した土地に足をつけた。
「荒れているとは聞いていたけれど、想像しているより随分と廃れているみたいですね」
街と呼ぶべきなのか活気がない道を歩き、自室から見ていて煌びやかな街とは全く違う彩りのない街を見て、そう呟く。この国がどうなっているのかこの目で確かめてみると、どれだけここが想像よりもはるかに貧しい暮らしをしているのかが分かった。
それはさておき、アデリーナは十数分歩いてようやく見つけた宝石店へと足を運ぶ。馬車の操縦者に渡したチップのように彼女にはまだ持ってきていた宝石があった。それでもそれほど高価なものはなく交換したとしても一ヶ月ほどしか暮らしてはいけないだろう。それに家もない今、ずっと宿に泊まるとなるとその分宿代が無視できないほどかかり、生活が苦しくなってしまう。だから、なんとかして資金を募らせたい。彼女はその思いを胸に街を散策することにした。
宝石を換金して出来たのは一ヶ月ほどは耐えれるような資金。しかし、出来るのであれば、資金を少なく使いたいと思い、泊まらせてくれる家はないかと彼女は辺りを見渡す。そして、そこでようやく彼女はここの住人の残状をこの目で見ることとなる。
アデリーナが聞いていた噂通りに人々は貧しい暮らしを強いられているようだった。活力もなければ、ただ死を待っているような状態であり、彼女はその人が多くいることに気がつくと、胸が痛んだ。そして、彼女はある決意をして彼女は軒下で横になって苦痛の表情を浮かべているお婆さんに声をかけた。
「どこか痛むんですか?」
「足が痛くての」
「分かりました。少し見せてください」
摩った場所を見てみると確かに腫れ上がり、痛そうであった。彼女はその箇所に手を添える。
「あれ痛みが……」
「これでも大丈夫でしょう。他に困ってる人はいませんか?」
「主人も体が痛いと言っておりまして」
「分かりました。その人のところに案内してください」
こういう時、聖女の力というのは便利である。すぐにこうして人を助けることができ、信頼を得れる。足の痛むが消えたお婆さんはすぐに家の中にアデリーナを入れてベッドで横になっている主人の元へと案内した。彼は慌ててくる愛人の存在に気がつくとゆっくりと目を開けてこちらを見る。
「誰だ?そやつは」
「こんにちは。お体が悪いと聞いたので少し見に来ました」
「また、あのヤブ医者の仲間か!もう金はないと言ってるだろ!ゲホゲホッ」
「いえ、お金は取りません。だから、少し落ち着いてください」
激昂し、咳き込む彼を落ち着かせてひとまず体の容態を見ることにした。特に腫れ上がっているところは見られなかったが彼の痛みというのは疲労の蓄積や栄養不足であることが原因だと思われる。しかし、そんな内部的要因だとしても聖女の力があればなんとかなる。彼女は彼の胸に手を当てる。
「はい、もう大丈夫ですよ」
「おぉ、体が治った」
「他に何かあれば言ってくださいね」
「お金は本当に取らないのか?」
「ええ、もちろん。ただ、寝る場所さえ提供してくれれば嬉しいのですが」
「だったら使っていない部屋が一部屋あるのでそこを使ってもいいですよ」
「本当ですか?ありがとうございます」
無事に信頼を勝ち取って、なんとかアデリーナは寝る場所を確保し、内心安堵した。
案内された部屋は確かに使われていないようでベッドや机に埃を被り、荷物はほとんどなかった。彼女は部屋に入るや否や掃除に取り掛かる。潔癖症な彼女は流石にこの状態のまま寝ることはできなかった。
一時間ほどだろうか。少し疲れが出てきた掃除をしていた手を止めて外の空気を吸おうとした。その時、外が妙に騒がしくなっていることに気がついた。
「何かあったんですか?」
アデリーナは疑問に思い、外に出ると何故か人溜まりが出来ていた。その光景を見て更に疑問に思うとそう聞かずにはいられなかった。
「私を助けてください!」
「俺の親父も!」
「助けてくれ!」
棚になっていた民衆はアデリーナが見えるとすぐにそう口々に言う。そこで彼女はようやく気がついた。彼らはお婆さんやその主人を助けたアデリーナに救いを求めていることを。
彼女は掃除をやめて、一人一人対処することにした。この出来事こそが彼女の生活を安定させた。
数日かけてこの地域周辺の困っている人を助けて、アデリーナは『何でも屋』としての地位を築いた。そして、この地域限定だが荒れた土地を治すことにも成功した。そのおかげもあってここの人たちは活力を戻してきている。
彼女は『何でも屋』という地位に満足していた。日の目に浴びないところで地域のために貢献するということはかつての聖女としての仕事と通ずることがあり、助けていると実感できるほど、彼女はこの仕事にやりがいを感じていた。この安寧がいつまでも続いてくれることを願った。
アデリーナは自身の名前を何度も呼ばれていることに気がつき、ようやく目を覚ました。馬車の窓から見える風景はすっかり変わっており、荒れた地が早速お出迎えしてくれている。
「ありがとう。これをあなたに授けます」
彼女は馬車から降りるとチップの代わりに忍ばせていた宝石の一つをここまで送ってくれた彼に渡す。彼は恐れ多いと言い、受け取ろうとしなかったが、最終的には彼女に押されて受けとってくれた。
馬車が次第に離れていくのを見てアデリーナはなんともいえない気持ちになりつつ、もといた国に見切りをつけるために荒廃した土地に足をつけた。
「荒れているとは聞いていたけれど、想像しているより随分と廃れているみたいですね」
街と呼ぶべきなのか活気がない道を歩き、自室から見ていて煌びやかな街とは全く違う彩りのない街を見て、そう呟く。この国がどうなっているのかこの目で確かめてみると、どれだけここが想像よりもはるかに貧しい暮らしをしているのかが分かった。
それはさておき、アデリーナは十数分歩いてようやく見つけた宝石店へと足を運ぶ。馬車の操縦者に渡したチップのように彼女にはまだ持ってきていた宝石があった。それでもそれほど高価なものはなく交換したとしても一ヶ月ほどしか暮らしてはいけないだろう。それに家もない今、ずっと宿に泊まるとなるとその分宿代が無視できないほどかかり、生活が苦しくなってしまう。だから、なんとかして資金を募らせたい。彼女はその思いを胸に街を散策することにした。
宝石を換金して出来たのは一ヶ月ほどは耐えれるような資金。しかし、出来るのであれば、資金を少なく使いたいと思い、泊まらせてくれる家はないかと彼女は辺りを見渡す。そして、そこでようやく彼女はここの住人の残状をこの目で見ることとなる。
アデリーナが聞いていた噂通りに人々は貧しい暮らしを強いられているようだった。活力もなければ、ただ死を待っているような状態であり、彼女はその人が多くいることに気がつくと、胸が痛んだ。そして、彼女はある決意をして彼女は軒下で横になって苦痛の表情を浮かべているお婆さんに声をかけた。
「どこか痛むんですか?」
「足が痛くての」
「分かりました。少し見せてください」
摩った場所を見てみると確かに腫れ上がり、痛そうであった。彼女はその箇所に手を添える。
「あれ痛みが……」
「これでも大丈夫でしょう。他に困ってる人はいませんか?」
「主人も体が痛いと言っておりまして」
「分かりました。その人のところに案内してください」
こういう時、聖女の力というのは便利である。すぐにこうして人を助けることができ、信頼を得れる。足の痛むが消えたお婆さんはすぐに家の中にアデリーナを入れてベッドで横になっている主人の元へと案内した。彼は慌ててくる愛人の存在に気がつくとゆっくりと目を開けてこちらを見る。
「誰だ?そやつは」
「こんにちは。お体が悪いと聞いたので少し見に来ました」
「また、あのヤブ医者の仲間か!もう金はないと言ってるだろ!ゲホゲホッ」
「いえ、お金は取りません。だから、少し落ち着いてください」
激昂し、咳き込む彼を落ち着かせてひとまず体の容態を見ることにした。特に腫れ上がっているところは見られなかったが彼の痛みというのは疲労の蓄積や栄養不足であることが原因だと思われる。しかし、そんな内部的要因だとしても聖女の力があればなんとかなる。彼女は彼の胸に手を当てる。
「はい、もう大丈夫ですよ」
「おぉ、体が治った」
「他に何かあれば言ってくださいね」
「お金は本当に取らないのか?」
「ええ、もちろん。ただ、寝る場所さえ提供してくれれば嬉しいのですが」
「だったら使っていない部屋が一部屋あるのでそこを使ってもいいですよ」
「本当ですか?ありがとうございます」
無事に信頼を勝ち取って、なんとかアデリーナは寝る場所を確保し、内心安堵した。
案内された部屋は確かに使われていないようでベッドや机に埃を被り、荷物はほとんどなかった。彼女は部屋に入るや否や掃除に取り掛かる。潔癖症な彼女は流石にこの状態のまま寝ることはできなかった。
一時間ほどだろうか。少し疲れが出てきた掃除をしていた手を止めて外の空気を吸おうとした。その時、外が妙に騒がしくなっていることに気がついた。
「何かあったんですか?」
アデリーナは疑問に思い、外に出ると何故か人溜まりが出来ていた。その光景を見て更に疑問に思うとそう聞かずにはいられなかった。
「私を助けてください!」
「俺の親父も!」
「助けてくれ!」
棚になっていた民衆はアデリーナが見えるとすぐにそう口々に言う。そこで彼女はようやく気がついた。彼らはお婆さんやその主人を助けたアデリーナに救いを求めていることを。
彼女は掃除をやめて、一人一人対処することにした。この出来事こそが彼女の生活を安定させた。
数日かけてこの地域周辺の困っている人を助けて、アデリーナは『何でも屋』としての地位を築いた。そして、この地域限定だが荒れた土地を治すことにも成功した。そのおかげもあってここの人たちは活力を戻してきている。
彼女は『何でも屋』という地位に満足していた。日の目に浴びないところで地域のために貢献するということはかつての聖女としての仕事と通ずることがあり、助けていると実感できるほど、彼女はこの仕事にやりがいを感じていた。この安寧がいつまでも続いてくれることを願った。
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