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 長い髪を持つというのは朝支度で時間がかかるという点では不利である。

「ごめんなさいね。手伝ってもらって」
「いえ、こういった身の回りのことをするのもメイドの勤めですから」

 長い髪を櫛で解くには一人だと大変である。長い間一人で髪を手入れしていたからアデリーナもその気持ちが分かるが侍女が一ついるだけでその大変さというのはだいぶ緩和される。髪を手入れしている間に簡単な身支度を済ませることだって出来るし、大幅な時間短縮につながる。

「朝食を食べ終えましたら、公爵の部屋に向かってください」
「ええ、分かりました」

 一切れのパンを頬張り、身支度を済ませると公爵の部屋へと向かう。

「随分と早かったな」
「侍女の方が慣れていたようですんなりと終えることが出来ました。それでどうしたのですか?」
「いや、ただそろそろ行くということを伝えたかっただけだ。また裏庭の方からひっそりと行く」
「はい、分かりました」
「ついて来い」

 また同じように裏庭から出て用意された馬車に乗る。鬱蒼として一見手入れされていないように見える裏庭は民衆にバレないような工夫が施されている。周りから見えないように生えた蔦や花、迷路のような複雑な道。この工夫は全て安全を守るためのものである。

「では、出発してくれ」

 公爵の呼びかけと共に馬車がゆっくりと動き出す。迷路のように曲がり曲がった道をゆっくりと進み、クラベン地区へと向かった。

 皇居から出て数十分。あたりは途端に貧しさを表した。先程まで草木が生えていたというのに乾いた黄土色の風景へと変わる。この地区の一部にしか水が流れていないというのは確かなようだった。

「今回行く場所はこの地区でも一番の町だ。主要なものは全てそこに集約されてある」
「言ってしまえば、そこが機能しなくなったら本格的にこの地区はダメになるということですね」
「そういうことだ」

 一箇所に集めるというのは管理しやすいが、そこが機能しなくなると一気に全ての機能が失われてしまうというのがデメリットである。集約しているのだから、ひとまずその町は強固なものにしなくてはいけない。

「そろそろ着くぞ」
「あの建物が密集している場所がそうですね」

 遠くに見える集落。一番の町であるからか一応水は届いている様子で、それにまだ活気はある方で少しの賑わいも感じられた。
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