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「聖女のあなたが手伝ってくれるのは心強いわね。今日で入院していた患者は全員元気になってしまうかも」
「ドロシーさんは私が病院に来ることが嫌じゃないのですか?」
「どうして?」
「だって、私は医者の仕事を奪ってしまうような力を持っているわけですし、そうなれば医者としての役割が消えてしまうじゃないですか」
「大丈夫よ。聖女がいるからって医者の仕事はなくならない。それどころか、補助まで出るっていう噂があるから、私としては大歓迎かな。それにあまり医者という職業に執着はないから辞めることになったとしても平気だし」

 病院に着き、白衣を着るドロシーに彼女は自分がいることで医者の立場が危ぶまれることについて話した。聖女の力というものは怪我すら治せる便利なものであり、それは医者の立場を奪ってしまう。だから、彼女に病院に行ってもいいかと聞いたとき、すぐに了承したのは意外だった。

 しかし、ドロシーはあまりそれを気にしていない様子だった。聖女がいるからと言って決して医者がいなくなるわけではない。それに医者というのは大変難しい職業であり、時には聖女のサポート的なこともするわけで、その活動を円滑に進めるために補助が出たりする。だから、ドロシーのように聖女が来たことに対して楽観視するのも無理はなかった。

 それとドロシーは別に医者になりたかったわけではない。医者を本望する人たちからは怒られるかもしれないが、それは事実であった。

「医者って大変ですよね。何かあれば手伝いますので、そのときは声をかけてください」
「じゃあ、早速お願いしようかな。ちょっと来て」

 ドロシーはアデリーナを連れてある病室に連れた。そこの部屋には一つベッドがあるだけで、とても静まり返っていた。

「この方は?」
「事故に巻き込まれて一年ぐらいずっと眠ってるの。この人の妻も子どもも起きてくれることを願ってる。だから、あなたの力で救ってくれないかしら」
「ええ、任せてください」

 それならお安いご用である。自身の得意分野のことで自信を持った彼女は寝ている彼の胸にそっと手を置いた。

 その後すぐに彼はかすかに動き出した。息遣いが感じられ、先ほどまでの死んだかのように眠っている状態から一変し、生きている感じがする。そして、ついには目を覚ましたのであった。

 医者の力ではどうにもならなかった患者を一瞬で治して見せた聖女の力を目の当たりにしたドロシーはつくづく、その力が不思議なものであると思う。確かにこんなことをされれば、医者なんていらないのではないかと思えてくる。

「おはようございます」
「え?ああ、天使か」
「いいえ、違いますよ。ちゃんとした人です」

 その美貌が故に起きたばかりの患者は聖女のことを天使と見間違えた。患者にとってここが死後の世界だとでも思ったのだろうか。

「ちょっと奥さん呼んでくるから」

 ドロシーは起き上がった患者を見て、奥さんを呼びに行くことにした。数分後、息を切らしながらこの病室に入ってきたドロシーと患者の妻。患者の妻はベッドで起き上がっている彼の姿に驚いている様子だった。

「二人にさせておこう」

 ドロシーのその提案に乗っかり、アデリーナは病室を後にした。
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