最後の頁で君を待つ

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第四章:夢を紡ぐ書架

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 翌朝、光がゆっくりと温室の硝子屋根を照らし始めたころ、ニエルは目を覚ました。

眠っていたのは、昨夜リピカに案内された温室の隅だった。草花に囲まれ、少し肌寒い空気の中でも、不思議と安らかに眠れた気がする。

リピカの姿はなかった。

かわりに、古びた木の扉が開いているのが目に留まった。昨日までは気づかなかった場所。だがそこから、微かに本の匂いが漂ってくる。

導かれるように歩み寄ると、そこには――図書館があった。

それは、普通の図書館とは違った。

本棚は螺旋状に並び、天井も床も曖昧なまま続いていた。どこまでが現実で、どこからが幻想なのか。まるで夢の中を歩いているようだった。

ページの音がした。

奥のほうに、リピカがいた。静かに一冊の本を閉じ、こちらを振り返る。

「おはよう、ニエル」

「……ここは?」

「“書架”よ。この世界に存在した、あらゆる記録が保管されている場所。夢や記憶、語られなかった言葉までも、すべて“物語”の形で眠っている」

リピカは手にしていた本を差し出した。

表紙には、見覚えのある名前が書かれていた。

《ニエルの夢》
「……これ、俺の?」

「そう。あなたが見た夢、考えたこと、口に出さなかった願い。それらはすべて記録されているの。この世界の書架には、存在の痕跡が全て残されているのよ」

 ニエルはその本を手に取った。

ページをめくると、確かに、自分が子どものころに見た夢が書かれていた。

誰にも話したことのない夢。湖で遊んで、高い塔に登って、そこから空に手を伸ばす夢。名前も知らない花畑で、誰かと笑い合っていた夢。

「なんで、こんな……」

「それがこの世界の仕組み。“観測”と“記憶”で成り立っている。だからこそ、誰かが記憶を忘れてしまえば、その存在ごと、世界から消えていく」

ニエルは目を見開いた。

「じゃあ……ここに残された記録を、誰かが読み返せば……?」

「一時的には、再構築されるわ。でも、記憶が“祈り”に変わらない限り、本当の意味で世界は続かない」

「祈り……?」

「忘れられても、誰かがその存在を信じ、願い続けること。それが、“継続”を生む。記憶とは“祈りの器”でもあるのよ」

 リピカは本棚の中から、さらに一冊の本を取り出した。

今度は、何も書かれていない。真っ白な表紙。中のページも空白だった。

「これは?」

「あなたが、これから書く本。選択によって紡がれる物語。未来はまだ、白紙だから」

ニエルはしばらくその本を見つめていた。

そして、ぽつりと呟いた。

「……だったら、僕は“この世界が好きだ”って書くよ」

「ええ。きっと、それが最初の祈りになる」

 図書館の奥に、光が差し込んできた。

夢と祈りと記録が、ゆっくりと一つの物語を織り始めていた。
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