悪役令嬢はミステリアス学園長と共闘せよ!〜恋人ごっこでフラグを回避?〜

りりっと

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04 お宅訪問!

2 でかい!きれい!……埃っぽい?

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 冷静になって考えてみれば、教師と生徒、下手すると一回り近く年が離れている男女同士、一つ屋根の下に行くのは危険なのではないだろうか。
 学園はまだ学び舎という意識があったし、広い建物内とはいえ他の人が居るという感覚が強かった。それもあってなのかは分からないけど、先生も自重、していたかもしれない。

 だがハッター先生の家に行くとなるとちょっと訳が違う。

 危ないんじゃないのか。またレーティングの危機じゃないのか。
 この乙女ゲームは一応全年齢なんだ。決してR指定が入ってしまうものは避けなければ。


「ふわぁ……」


 長期休暇の三日目。両親には友人の家に泊まると伝え、私は先生に誘われるまま、長年帰っていないという噂の先生宅にやってきました。

 見た目は……めっちゃでかい。
 公爵邸と良い勝負なんじゃなかろうか。いや、めっちゃ大豪邸である。先生、自分で家柄は微妙とか言っておきながら、実は王家の一人とかなんじゃなかろうか。


「お庭も綺麗に整ってるし……こんだけ広いといっぱい使用人さん雇わないといけないから大変だろうなぁ」


 門を潜れば、豪邸に相応しい美しい光景が広がっていた。庭を飾る鮮やかな花々も、屋敷の側にある花壇も、手入れが行き渡っているのかどれも美しく咲いている。


「魔法のエキスパートで高給取りっぽくて、そんでこんな大豪邸持ってるんだ……先生は本当になんというか、チートだな……」


 楽に生きたいなら自分の奥さんになるのが一番、と言っていたのは誇張でも何でもなく、本当のようだ。いやぁ、本当に先生の奥さんになれたら楽だろうなぁ。


「(恋人ごっこ、かぁ……)」


 結局先生の本心というのはどこにあるのだろう。あくまでこれは遊びでしかない。私と仲良くなるためというのも、いまいち理由として納得できないのだ。


「やっぱ不思議だよね、先生はなんで私を助けてくれるんだろう……」


 そんな風で庭でぼーっとすること、数分。私が到着したというのに、先生は未だに出てこない。というか、誰も出てこないのである。


「ここって本当に先生の家なんだよね……?」


 ちょっと心配になってきた。もしかして私はお家を間違えたのでしょうか。本当に外から見た感じだと、屋敷から人の気配を感じないのだ。
 ちなみに先生のお宅は街の中心からかなり外れた郊外にある。なんとなく、先生らしいなと思ったのだが、こうも人通りが少ないと余計に不安が増す。

 これは、とにかく一度屋敷に近寄ってみた方がいいだろう。


「ごめんくださーい」


 庭の綺麗さと比較すると少し寂れているようにも見えるノッカーに触れ、こんこんと音を立てる。が、予想通りというか予想外というか、誰も出てこない。


「ハッターせんせぇー」


 少し大きめに声を出してみるも、家の中から物音ひとつしない。
 もしかして先生、お帰りになられていない……?


「あ、開いてる……」


 扉には鍵がかかっていない。無用心だなと思いながら、仕方なく私は屋敷の中へと足を踏み入れた。
 そこで、見えたのは。


「うわっ」


 一歩足を前へ踏み出した途端、ふわりと白い粉のようなものが舞い上がる。これは、埃だ。
 屋敷の中は薄暗い。カーテンなどは閉め切ったままなようで、日差しが入ってきていないのだ。それに目を凝らして見れば、蜘蛛の巣やら何やらがそこらじゅうにあり、とにかく長年掃除していないのが伺えた。


「うわー……これは……」


 調度品も埃を被っている。更に何かの薬品やら魔法に関する研究書やら、そういったものが至る所に散乱している。ちょっと雰囲気があってどきどきしてしまうも、こういったものに不用意に触ると危険なのでそっとしておくことにする。


「せんせー……」


 広々としたエントランスを抜け、薄暗い屋敷の中を歩き回る。カーテンを開けたくなるものの、開けたら喘息とかなくても呼吸器系が大変なことになってしまう。窓が開けられるといいのだが、開けられる窓は手の届く場所にないものばかりだった。


「いないなぁ」


 部屋を一つ一つ見て回るものの、人影はない。どうやら一階には居なさそうだった。
 探索の際に私は燃えかすだらけの暖炉を発見する。ここで焼き芋を焼いたのだろうか、というゴミの多さだ。


「手紙を燃やしたのかなぁ……?」


 燃え残りらしきものを見つけ、私はそれを手に取ってみた。
 宛名らしきものがある。そこにあったのは先生の名前、ではなかった。そもそも先生の“ハッター”という名前は、どう考えても本名じゃない。愛称か何か、だろうか。


「姓は燃えて読めないけど……名前は……」


 そこでがたりと、二階の方から物音がする。その音に引き寄せられるまま、これまた埃だらけの階段を裾を持ち上げながら登っていく。

 だがよくよく見れば人が通った後のようなものがあった。そして二階の廊下は多少は綺麗で、その綺麗の道はとある一室に続いている。その扉を開ければ、書斎らしき空間が広がっていた。
 その中央に本が積まれた机があった。そして行儀悪くも机に乗った足、絶妙なバランスで立っている椅子、そして眠たげに片腕で目を覆っている、シャツにスラックスのみという非常にラフな格好をしたハッター先生が、いた。

 物音は彼が顔を覆っていたらしき本が落ちた音だったのだろう。その側には一冊の本があった。


「ハッター、先生……?」


 声をかければ彼は一度腕の下から視線をこっちに向ける。眠気が勝ったのかすぐにまた目を塞いで、そして今度はばっと腕を退けて私の方を見る。実に見事な二度見です。


「えっ、アリ、スっ」


 慌てて足を退けようとした拍子に、テーブルに置いてあった本のタワーが崩れてしまう。ガタガタガサガサと、嫌な音を立てて先生はそれに埋れてしまう。


「ちょっ、先生!?」
「いっ、たぁ……」


 大丈夫かと心配したのも束の間、崩れた本が一斉に宙に浮く。そしてゆっくりと私と先生の間を塞いでいた本が横に捌けていく。
 ばちりと目が合った先生は、恥ずかしそうにじわりと顔を赤らめる。なんだかその反応も非常に新鮮で、私は思わず緩んだ笑みが浮かんでしまう。


「……、……嘘だ」


 残念ながら、これが現実です。
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