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どうしてあのひとはいないの?
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家族が皆キャスリンの言葉に唖然としている中、今まで後ろに控えていた医師が前に出てキャスリンに優しく聞いた。
「毒杯というのはいつ、どこで飲んだのですか?」
キャスリンは医師の質問によどみなく答えていく。あまりに理路整然と答えていく様子に家族はただただ唖然としていた。なぜならキャスリンはまだ12歳なのだから。
ただキャスリンが王宮の中の『貴族用牢屋』という言葉を口にした時、父親であるスコットから息をのむ声がした。
さすがに貴族とはいえ王宮の中の貴族用牢屋の事などまだ幼いキャスリンは知らないはずだ。兄であるクロードでさえ知っているかどうか怪しいものなのだ。そのくらいに先ほどキャスリンが言った場所は、特殊であるといえよう。
それをその部屋の様子まで細かく答えているキャスリンの話を聞いて、スコットはただ事でないことを実感していた。
質問している医師でさえ、キャスリンの話に顔色がどんどん悪くなっていくのがはたから見ていてもわかった。
「ねえ、スティーブはさっきから姿が見えないけれど、やっぱりここにはいないのよね。あの時屋敷に戻るよう言ったのだけど、大丈夫だったのね。よかったわ」
キャスリンは、医師の質問に答えていたが、一段落したときに先ほどから気になっていたことをみんなに聞いた。
「キャスリン、さっきから言っているスティーブとは誰なんだ?」
「なにお父様、冗談言ってるの?いやね~、スティーブは私の護衛でしょ」
その言葉に皆が固まった。
「キャスリンこそ、どうしたんだ?まだ専属の護衛はいないよ。私の護衛がキャスリンの護衛も兼ねているんじゃないか今は。その中にスティーブという名前の護衛はいない」
父親が自分で質問したのにもかかわらず言葉を発しないので、兄であるクロードがキャスリンにいった。
「なにいってるのお兄様?また冗談?スティーブは私たちの乳兄弟で幼馴染じゃない。ねえバーバラ。あなたのお兄さんがいないことになってるわよ、幼馴染なのに。ここは怒ってもいいところよね。ねえマークも怒ったら。あなたのお子さんがないものにされているわよ」
キャスリンは、そういっておかしそうに笑った。
しかし皆の変なものでも見るような目でキャスリンを見るのを見て、キャスリンもあれっという顔になった。
そしてスティーブの父親であり執事であるマークの顔色を見れば、マークの顔色は真っ青になっていた。
「お嬢様、私には兄はおりません」
キャスリンの疑問を払拭すべくバーバラがそう言い切った。
「えっ、どういうこと?そんなわけないわ。ずっと一緒にいたじゃない。一緒に遊んだしいたずらだってみんなでやったじゃない。護身術だってスティーブに教えてもらったのよ」
キャスリンは半ば叫ぶように言ってぽろぽろと涙を流した。
「旦那様、ちょっとお話があります」
「なんだ」
「もしかしてこの状況は、すべてあることが原因なのかもしれません」
「マーク、お前は何か知ってるのか」
「はい、たぶん」
執事であるマークの顔は苦しそうに歪んでいたが、キャスリンの父親であり当主であるスコットに言わなければという強い気持ちが顔に現れていた。
スコットは、執事のマークと一緒に部屋を出ていった。後に残された人たちは、ただ泣いているキャスリンをどう慰めればいいのかわからずただ見つめるしかなかった。
兄であるクロードは医師にもう一度キャスリンの容態を聞き、大丈夫だと確信してから医師と部屋を出ていった。
「キャスリン、そのスティーブという人はキャスリンにとって大事な人だったの?」
母親であるミシェルがまだ泣き続けているキャスリンに優しく尋ねた。
「ええ、お母様。私スティーブが大好きだったの。本当はスティーブと一緒になりたかった。でも王命で婚約者ができたのよ。仕方なかったの」
半分嗚咽しながら口にするキャスリンにとって、スティーブという人は本当に大事な人だと思われた。
泣き続けているキャスリンのそばについていることしかできないミシェルとバーバラは、自分たちを歯がゆく感じた。
キャスリンの話は突拍子もないことだけれど、とてもうそをついているようには見えない。
自分たちには計り知れない何かが働いているとしか思えなかった。
ミシェルとバーバラが胸の中で、それぞれ考えているうちに鳴き声が聞こえなくなった。
どうやら泣き続けていたキャスリンは、いつの間にか眠ってしまったようだ。
ただ幾すじもの涙の後が残るその顔は、すごく悲しそう見えた。
しばらくして父親と執事が、部屋に戻ってきた。
「キャスリンの様子はどうだね」
「あっ、あなた。さきほど寝たところですわ。こんなに悲しそうな顔をして、可哀想に。いったいキャスリンに何が起こったのでしょう」
「キャスリンが目覚めたら、また聞かなくてはいけないことがある。今はそっと寝かしてあげよう」
そういって父親であるスコットは出ていった。
あとに残されたのは、ミシェルとバーバラだけだった。
「毒杯というのはいつ、どこで飲んだのですか?」
キャスリンは医師の質問によどみなく答えていく。あまりに理路整然と答えていく様子に家族はただただ唖然としていた。なぜならキャスリンはまだ12歳なのだから。
ただキャスリンが王宮の中の『貴族用牢屋』という言葉を口にした時、父親であるスコットから息をのむ声がした。
さすがに貴族とはいえ王宮の中の貴族用牢屋の事などまだ幼いキャスリンは知らないはずだ。兄であるクロードでさえ知っているかどうか怪しいものなのだ。そのくらいに先ほどキャスリンが言った場所は、特殊であるといえよう。
それをその部屋の様子まで細かく答えているキャスリンの話を聞いて、スコットはただ事でないことを実感していた。
質問している医師でさえ、キャスリンの話に顔色がどんどん悪くなっていくのがはたから見ていてもわかった。
「ねえ、スティーブはさっきから姿が見えないけれど、やっぱりここにはいないのよね。あの時屋敷に戻るよう言ったのだけど、大丈夫だったのね。よかったわ」
キャスリンは、医師の質問に答えていたが、一段落したときに先ほどから気になっていたことをみんなに聞いた。
「キャスリン、さっきから言っているスティーブとは誰なんだ?」
「なにお父様、冗談言ってるの?いやね~、スティーブは私の護衛でしょ」
その言葉に皆が固まった。
「キャスリンこそ、どうしたんだ?まだ専属の護衛はいないよ。私の護衛がキャスリンの護衛も兼ねているんじゃないか今は。その中にスティーブという名前の護衛はいない」
父親が自分で質問したのにもかかわらず言葉を発しないので、兄であるクロードがキャスリンにいった。
「なにいってるのお兄様?また冗談?スティーブは私たちの乳兄弟で幼馴染じゃない。ねえバーバラ。あなたのお兄さんがいないことになってるわよ、幼馴染なのに。ここは怒ってもいいところよね。ねえマークも怒ったら。あなたのお子さんがないものにされているわよ」
キャスリンは、そういっておかしそうに笑った。
しかし皆の変なものでも見るような目でキャスリンを見るのを見て、キャスリンもあれっという顔になった。
そしてスティーブの父親であり執事であるマークの顔色を見れば、マークの顔色は真っ青になっていた。
「お嬢様、私には兄はおりません」
キャスリンの疑問を払拭すべくバーバラがそう言い切った。
「えっ、どういうこと?そんなわけないわ。ずっと一緒にいたじゃない。一緒に遊んだしいたずらだってみんなでやったじゃない。護身術だってスティーブに教えてもらったのよ」
キャスリンは半ば叫ぶように言ってぽろぽろと涙を流した。
「旦那様、ちょっとお話があります」
「なんだ」
「もしかしてこの状況は、すべてあることが原因なのかもしれません」
「マーク、お前は何か知ってるのか」
「はい、たぶん」
執事であるマークの顔は苦しそうに歪んでいたが、キャスリンの父親であり当主であるスコットに言わなければという強い気持ちが顔に現れていた。
スコットは、執事のマークと一緒に部屋を出ていった。後に残された人たちは、ただ泣いているキャスリンをどう慰めればいいのかわからずただ見つめるしかなかった。
兄であるクロードは医師にもう一度キャスリンの容態を聞き、大丈夫だと確信してから医師と部屋を出ていった。
「キャスリン、そのスティーブという人はキャスリンにとって大事な人だったの?」
母親であるミシェルがまだ泣き続けているキャスリンに優しく尋ねた。
「ええ、お母様。私スティーブが大好きだったの。本当はスティーブと一緒になりたかった。でも王命で婚約者ができたのよ。仕方なかったの」
半分嗚咽しながら口にするキャスリンにとって、スティーブという人は本当に大事な人だと思われた。
泣き続けているキャスリンのそばについていることしかできないミシェルとバーバラは、自分たちを歯がゆく感じた。
キャスリンの話は突拍子もないことだけれど、とてもうそをついているようには見えない。
自分たちには計り知れない何かが働いているとしか思えなかった。
ミシェルとバーバラが胸の中で、それぞれ考えているうちに鳴き声が聞こえなくなった。
どうやら泣き続けていたキャスリンは、いつの間にか眠ってしまったようだ。
ただ幾すじもの涙の後が残るその顔は、すごく悲しそう見えた。
しばらくして父親と執事が、部屋に戻ってきた。
「キャスリンの様子はどうだね」
「あっ、あなた。さきほど寝たところですわ。こんなに悲しそうな顔をして、可哀想に。いったいキャスリンに何が起こったのでしょう」
「キャスリンが目覚めたら、また聞かなくてはいけないことがある。今はそっと寝かしてあげよう」
そういって父親であるスコットは出ていった。
あとに残されたのは、ミシェルとバーバラだけだった。
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