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キャスリン王宮に急ぐ
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キャスリンは白目をむいてのたうち回っている男たちを横目で見ながら、一度スティーブとこの部屋を出ることにした。さすがにあの者たちをいつまでも見ていたくない。あの部屋には誰にも入れないように魔法をかけている。ついでにこの王宮すべてに時間が止まる魔法をかけておいた。
「ねえスティーブ。さっきこの部屋に現れた時、アシュイラ皇国にあったレリーフがくだけたの。あれあなたがやったの?」
「はい、そうです。あのレリーフのせいでキャスリン様がとらわれておられましたので」
「スティーブは動けたわよね。どうしてなの?それにどうして私のもとに来られたのかしら?」
「たぶんですが、あのレリーフはもともと王族を守るために作られたものだと思われます。私に流れる血にはあのレリーフの魔法は反応しなかったのでしょう。あとこの腕輪は対になっています。たぶんですが、どちらか一方に危機が訪れるとわかるようになっているのかもしれませんね」
「そうなのね。でもよかったわ。スティーブがきてくれて。ねえこの国、王と側近があんなことになって大丈夫かしら」
「そうですね。今しばらく王宮の時間を止めておきますので、このままキャスリン様はお戻りになって、すぐにでもナクビル国にペジタ国の王宮に向かわせるよう指示をだしてください」
「でもスティーブ、急にナクビル国が兵を連れて、ペジタ国に向かったら国境付近で戦争が起こらない?」
「そうですね、まず使者を立てましょう。そして使者が王宮についた時、王宮の時間を止めているのを解除します。このペジタ国は王の独裁政権の様ですので、この国の役人たちも王や側近のあんな姿を見たら戦意も喪失するでしょう。使者がこの国の役人たちを少し脅かしておくのもいいかもしれませんね」
「そうね、じゃあ急いで戻るわ」
「はい、私はまだここに残って様子を見ています。それが片付いたら、私も戻ります」
「わかったわ、スティーブまたあなたのところに行くわ。今度行くときには一緒にあなたの国を助けましょう」
そういってキャスリンは消えた。スティーブはまだここに残って見守ることにした。
キャスリンは自分の屋敷に戻った。急いでマークを探す。マークはキャスリンの焦った声に、またかという顔をした。この前もあったので、そこまでびっくりしていない。しかしキャスリンから話を聞いて、今度は腰を抜かさんばかりに驚いた。
「なんですって、ペジタ国に使者を立てるんですか?」
「そうよ、一刻も早く。今ペジタ国の王宮の時間を止めているの。スティーブがやってくれているわ。ペジタ国の民のためにも早く動かないといけないのよ」
「わかりました。すぐに旦那様を呼んでまいります」
「お父様はどこにいるの?」
「今は王宮です」
「じゃあ、ちょうどいいわ。今から行ってくるわ」
キャスリンはそういうなり、ひとり王宮に転移した。転移したのは王の執務室だった。そこには王のほか、父のスコット、ジョージ王子、キャスリンの兄クロードそして何人かの役人がいた。いきなり現れたキャスリンに皆驚きを隠せないようで、口を利くこともできずただ目を見開いてキャスリンを見ている。
「お父様、お願いです。今からすぐにペジタ国に使者を出してください」
キャスリンの声で、一番初めに我に返った父のスコットが聞いてきた。
「ペジタ国?いったいどうしたんだい」
キャスリンは説明するべく、まずここの時間を止めた。一分一秒でも時間が惜しかったのだ。魔法をかけられた部屋にいる者たちは、体に受けた衝撃に唖然として窓の外を見るものもいた。その者たちは外の光景にびっくりして声も出ず、手だけ動かして外を指さした。ほかの者たちが指をさしている方を見ると、皆その光景にまたもやびっくりするほかなかった。
王の執務室からは、王宮の自慢の庭が見渡せる。目の前に大きな噴水が作られていた。その噴水の水が途中で止まっているのだ。空を飛んでいる鳥も空に張り付けられたかのように羽を広げたまま空に浮かんでいる。王宮を歩いている者たちも、皆そこに縫い付けられたかのように止まっていた。
「これはいったいどうしたことだね」
先に我に返った王がキャスリンに聞いた。キャスリンは自分がまた人生をやり直していること、魔法が使えるようになったことなどすべて話をした。この部屋にいた者たちは、皆キャスリンの話を黙って聞いていたが、誰も異論を唱えることはなかった。皆事実だと分かっていたからだ。なぜなら部屋の外の光景がそれを証明していた。キャスリンがすべて話し終えると、王が言った。
「わかった、至急使者を送ろう。兵もそろえて国境に向かわせる」
部屋にいたジョージ王子も言った。
「そうですね。早く行動しないと、ペジタ国がまたほかの国に侵略されます。わが国で保護しましょう。私が国境へ向かいます。いいですか王」
王も深くうなづいている。ペジタ国の国民を憂いているのが見て取れた。と同時に、ジョージ王子の様子を見てこの国の未来に希望を持った。この国ならペジタ国の国民をちゃんと保護してくれるだろう、少し安心したキャスリンだった。
キャスリンは、もういろいろ指示を出している王たちを横目で見て、父であるスコットと兄クロードを部屋の隅に連れていった。
「お父様、私今から屋敷に戻りますけど、戻るのは皆にお別れを言うためです。私、今からスティーブとともにアシュイラ皇国に行ってきます。もし未来が変わってしまっても許してください。一応禍根の種は取り除いたつもりですけど、お父様がここにいる皆さんと頑張っていい国にしてくださいね」
キャスリンはそう父に言って、次に兄クロードのもとにいって抱き着いた。
「お兄様、ジョージ王子とともにペジタ国をよろしくお願いしますね」
「わかった。だけどキャスリン君も無茶をしないでおくれよ」
兄クロードもキャスリンを抱きしめる腕に力をこめた。キャスリンはしばらくそうしていたが、自分から体を離した。
「行ってしまうのかい。キャスリン、無茶をするなといっても聞いてくれないんだろう。君は私の大切な自慢の娘だ。気を付けて行ってくるのだぞ」
「お父様、お兄様大好きよ」
父スコットもキャスリンを力いっぱい抱きしめた。不意にキャスリンの感触がなくなった。
「行ってしまった...」
後には父スコットの言葉だけが残されていた。
キャスリンが消えたのを見た部屋の中にいたひとりが窓の外を見ると、急に外の景色がいつもの日常になって、時間が動き出したのだった。
「ねえスティーブ。さっきこの部屋に現れた時、アシュイラ皇国にあったレリーフがくだけたの。あれあなたがやったの?」
「はい、そうです。あのレリーフのせいでキャスリン様がとらわれておられましたので」
「スティーブは動けたわよね。どうしてなの?それにどうして私のもとに来られたのかしら?」
「たぶんですが、あのレリーフはもともと王族を守るために作られたものだと思われます。私に流れる血にはあのレリーフの魔法は反応しなかったのでしょう。あとこの腕輪は対になっています。たぶんですが、どちらか一方に危機が訪れるとわかるようになっているのかもしれませんね」
「そうなのね。でもよかったわ。スティーブがきてくれて。ねえこの国、王と側近があんなことになって大丈夫かしら」
「そうですね。今しばらく王宮の時間を止めておきますので、このままキャスリン様はお戻りになって、すぐにでもナクビル国にペジタ国の王宮に向かわせるよう指示をだしてください」
「でもスティーブ、急にナクビル国が兵を連れて、ペジタ国に向かったら国境付近で戦争が起こらない?」
「そうですね、まず使者を立てましょう。そして使者が王宮についた時、王宮の時間を止めているのを解除します。このペジタ国は王の独裁政権の様ですので、この国の役人たちも王や側近のあんな姿を見たら戦意も喪失するでしょう。使者がこの国の役人たちを少し脅かしておくのもいいかもしれませんね」
「そうね、じゃあ急いで戻るわ」
「はい、私はまだここに残って様子を見ています。それが片付いたら、私も戻ります」
「わかったわ、スティーブまたあなたのところに行くわ。今度行くときには一緒にあなたの国を助けましょう」
そういってキャスリンは消えた。スティーブはまだここに残って見守ることにした。
キャスリンは自分の屋敷に戻った。急いでマークを探す。マークはキャスリンの焦った声に、またかという顔をした。この前もあったので、そこまでびっくりしていない。しかしキャスリンから話を聞いて、今度は腰を抜かさんばかりに驚いた。
「なんですって、ペジタ国に使者を立てるんですか?」
「そうよ、一刻も早く。今ペジタ国の王宮の時間を止めているの。スティーブがやってくれているわ。ペジタ国の民のためにも早く動かないといけないのよ」
「わかりました。すぐに旦那様を呼んでまいります」
「お父様はどこにいるの?」
「今は王宮です」
「じゃあ、ちょうどいいわ。今から行ってくるわ」
キャスリンはそういうなり、ひとり王宮に転移した。転移したのは王の執務室だった。そこには王のほか、父のスコット、ジョージ王子、キャスリンの兄クロードそして何人かの役人がいた。いきなり現れたキャスリンに皆驚きを隠せないようで、口を利くこともできずただ目を見開いてキャスリンを見ている。
「お父様、お願いです。今からすぐにペジタ国に使者を出してください」
キャスリンの声で、一番初めに我に返った父のスコットが聞いてきた。
「ペジタ国?いったいどうしたんだい」
キャスリンは説明するべく、まずここの時間を止めた。一分一秒でも時間が惜しかったのだ。魔法をかけられた部屋にいる者たちは、体に受けた衝撃に唖然として窓の外を見るものもいた。その者たちは外の光景にびっくりして声も出ず、手だけ動かして外を指さした。ほかの者たちが指をさしている方を見ると、皆その光景にまたもやびっくりするほかなかった。
王の執務室からは、王宮の自慢の庭が見渡せる。目の前に大きな噴水が作られていた。その噴水の水が途中で止まっているのだ。空を飛んでいる鳥も空に張り付けられたかのように羽を広げたまま空に浮かんでいる。王宮を歩いている者たちも、皆そこに縫い付けられたかのように止まっていた。
「これはいったいどうしたことだね」
先に我に返った王がキャスリンに聞いた。キャスリンは自分がまた人生をやり直していること、魔法が使えるようになったことなどすべて話をした。この部屋にいた者たちは、皆キャスリンの話を黙って聞いていたが、誰も異論を唱えることはなかった。皆事実だと分かっていたからだ。なぜなら部屋の外の光景がそれを証明していた。キャスリンがすべて話し終えると、王が言った。
「わかった、至急使者を送ろう。兵もそろえて国境に向かわせる」
部屋にいたジョージ王子も言った。
「そうですね。早く行動しないと、ペジタ国がまたほかの国に侵略されます。わが国で保護しましょう。私が国境へ向かいます。いいですか王」
王も深くうなづいている。ペジタ国の国民を憂いているのが見て取れた。と同時に、ジョージ王子の様子を見てこの国の未来に希望を持った。この国ならペジタ国の国民をちゃんと保護してくれるだろう、少し安心したキャスリンだった。
キャスリンは、もういろいろ指示を出している王たちを横目で見て、父であるスコットと兄クロードを部屋の隅に連れていった。
「お父様、私今から屋敷に戻りますけど、戻るのは皆にお別れを言うためです。私、今からスティーブとともにアシュイラ皇国に行ってきます。もし未来が変わってしまっても許してください。一応禍根の種は取り除いたつもりですけど、お父様がここにいる皆さんと頑張っていい国にしてくださいね」
キャスリンはそう父に言って、次に兄クロードのもとにいって抱き着いた。
「お兄様、ジョージ王子とともにペジタ国をよろしくお願いしますね」
「わかった。だけどキャスリン君も無茶をしないでおくれよ」
兄クロードもキャスリンを抱きしめる腕に力をこめた。キャスリンはしばらくそうしていたが、自分から体を離した。
「行ってしまうのかい。キャスリン、無茶をするなといっても聞いてくれないんだろう。君は私の大切な自慢の娘だ。気を付けて行ってくるのだぞ」
「お父様、お兄様大好きよ」
父スコットもキャスリンを力いっぱい抱きしめた。不意にキャスリンの感触がなくなった。
「行ってしまった...」
後には父スコットの言葉だけが残されていた。
キャスリンが消えたのを見た部屋の中にいたひとりが窓の外を見ると、急に外の景色がいつもの日常になって、時間が動き出したのだった。
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