お隣さんはヤのつくご職業

古亜

文字の大きさ
22 / 67

吉崎さんサイド(お弁当)

しおりを挟む
嬢ちゃんが俺のことを男として、というかそういう対象として見ていないというのは察していた。
だが……
結構凹むもんだな、これ。
最初の返答をしたときの嬢ちゃんの目線が一瞬泳いだから、つい深追いしちまった。
通りで、全く意識すらされてこなかったわけだ。仮にも隣に住んで飯を作ってやってる異性だっつうのに。

「美味しかったです。ありがとうございました。洗い物は私がしますね」
「ああ、頼む」

嬢ちゃんはいつも通りだ。まあ、単に俺が動揺しているだけか。嬢ちゃんにしてみれば、母親に格好いい男が職場にいると話した程度のことなんだろう。
彼女にとって俺は、結局そういう存在止まりだ。
まあ、ちょうどいいじゃねぇか。そもそも俺と嬢ちゃんは住む世界が違う。俺がどうこう思ったところでどうにもならない。むしろ、嬢ちゃんが人並みに異性に対する興味をちゃんと持っていたことを喜ぶべきだ。
だがまあ、その佐々木とかいうやつは王子なんてふざけた呼び名が付くくらいだ。よっぽど人気なんだろ。
その王子とやらにそういう対象として認識されることすら危うい。別に焦る必要はない。
……いや、なんで焦ってんだよ俺が。
俺はこの嬢ちゃんの不摂生をみかねて飯を作っただけ。佐々木ってやつは話を聞いた限りじゃ料理好きらしいから、この生活力皆無の女とくっ付いてくれれば、俺が心配する必要はどこにもなくなる。嬢ちゃんも好きな男と一緒になれる。万々歳じゃねぇか。

「そうだ、帰りにコンビニでデザート買ってきたんです。有以子が美味しいって教えてくれて。一緒に食べましょう」

新商品だからと言って、嬢ちゃんはクリームの入ったワッフルを差し出してきた。
5個入りのそれは、新商品というシールが貼られている以外は何の変哲も無い。

「……悪いな、嬢ちゃん。クリーム系の菓子はあんまり食えねぇんだ。気持ちは嬉しいが嬢ちゃんが食ってくれ」

嘘だった。別にクリーム自体は好きでも嫌いでもない。単に今は食う気が起きないだけだ。 

「そうだったんですか?なんかすみません」

どうしようかと悩む彼女に、残りは明日食えばいいと言いながら、俺はもやもやしたものを抱え続けていた。
……これ以上深入りすべきじゃない。むしろ俺は応援すべきだ。
俺の作った飯を美味そうに食ってくれるだけの女。それでいいじゃねぇか。
そう思えばいい、いや……そう思いたかった。
そういう女だと割り切ることができれば楽なのに、佐伯梓という女は思った以上に、俺の懐の奥深くに入り込んでいた。
情けねぇな。俺は遠野組の組長だってのに。
暗い血に汚れた道を歩いて来た俺が、真っ当に生きてきた彼女を求めちゃいけねぇ。
俺が一生かかっても得られないと思っていたものをあっさりと与えることができるのは、嬢ちゃんがこっちの人間じゃねぇからだ。
飯が美味いだけで喜んで、他愛もない話をして笑う、そんな彼女にとっての当たり前、俺にとっての非日常を知ってしまった。
非日常は、いつか終わらなければならない。

「吉崎さん?あの、さっきからすごく何か考えてらっしゃる感じですけど……どうかしました?」
「まあ、色々あるからな。そろそろ戻る」

嬢ちゃんはヤクザさんも大変ですね、とよくわかっていなさそうだが心配しているようだった。
そうだ、この馬鹿みたいに素直で脳天気な嬢ちゃんの道を、俺なんかが踏み荒らしちゃいけねぇ。
……少なくとも今の間だけ、できるだけ交わらないようにその横を歩けたらという夢を見ているだけだ。
不摂生で乱れてるのを少しばかり矯正していくのは、俺の身に余る夢を見させてくれる礼に過ぎない。
俺に許されるのは、嬢ちゃんの幸せを祈ることくらいだろう。
しおりを挟む
感想 120

あなたにおすすめの小説

この度、結婚していました

雨宮 瑞樹
恋愛
 マンションの隣同士に住んでいる二人は、幼馴染み西澤陽斗と高島彩芽。  母親同士が、ともかく昔から仲がよく、酒が大好きで、いつもどちらかの部屋で飲んでいて「子供が二十四歳までに、結婚していなかったら結婚させよう」という話題で盛り上がる毎日。酔っぱらいの戯言だと気にも留めていなかった二人。  しかし、とうとう二人が二十四歳を迎えると……  勝手に婚姻届けを出されていた事実が発覚!

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

駆け出しご当地アイドルがヤクザに一目惚れされた話

一ノ瀬ジェニファー
恋愛
ド田舎の道の駅で、持ち歌もグッズもないまま細々と活動を続けるご当地アイドル・桜あかり(16)。 夢は大きく武道館!……と言いたいところだけど、今はレジ打ちもこなす「なんでもできるマルチな地底アイドル」。 そんな彼女に、ある日転機が訪れる。 地元の道の駅がテレビで紹介され、あかりの笑顔が全国放送で流れたのだ。 その映像を東京で目にしたのが、幸村 静(ゆきむら しずか)。 見た目は完璧、物腰も柔らか──けれどその正体は、裏の世界の男だった。 「会いたいから」というシンプルすぎる理由で、あかりに会いに片道10時間を車で会いに来た。 謎のヲタク知識もを引っ提げて、推し活(という名の執着)が始まる……! これは、アイドルを夢見る少女と、厄介オタクなヤクザの、ピュアで不穏でちょっと笑える物語。

ヤクザは喋れない彼女に愛される

九竜ツバサ
恋愛
ヤクザが喋れない女と出会い、胃袋を掴まれ、恋に落ちる。

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

傷痕~想い出に変わるまで~

櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。 私たちは確かに愛し合っていたはずなのに いつの頃からか 視線の先にあるものが違い始めた。 だからさよなら。 私の愛した人。 今もまだ私は あなたと過ごした幸せだった日々と あなたを傷付け裏切られた日の 悲しみの狭間でさまよっている。 篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。 勝山 光との 5年間の結婚生活に終止符を打って5年。 同じくバツイチ独身の同期 門倉 凌平 32歳。 3年間の結婚生活に終止符を打って3年。 なぜ離婚したのか。 あの時どうすれば離婚を回避できたのか。 『禊』と称して 後悔と反省を繰り返す二人に 本当の幸せは訪れるのか? ~その傷痕が癒える頃には すべてが想い出に変わっているだろう~

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

処理中です...