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吉崎さんサイド(お弁当)
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嬢ちゃんが俺のことを男として、というかそういう対象として見ていないというのは察していた。
だが……
結構凹むもんだな、これ。
最初の返答をしたときの嬢ちゃんの目線が一瞬泳いだから、つい深追いしちまった。
通りで、全く意識すらされてこなかったわけだ。仮にも隣に住んで飯を作ってやってる異性だっつうのに。
「美味しかったです。ありがとうございました。洗い物は私がしますね」
「ああ、頼む」
嬢ちゃんはいつも通りだ。まあ、単に俺が動揺しているだけか。嬢ちゃんにしてみれば、母親に格好いい男が職場にいると話した程度のことなんだろう。
彼女にとって俺は、結局そういう存在止まりだ。
まあ、ちょうどいいじゃねぇか。そもそも俺と嬢ちゃんは住む世界が違う。俺がどうこう思ったところでどうにもならない。むしろ、嬢ちゃんが人並みに異性に対する興味をちゃんと持っていたことを喜ぶべきだ。
だがまあ、その佐々木とかいうやつは王子なんてふざけた呼び名が付くくらいだ。よっぽど人気なんだろ。
その王子とやらにそういう対象として認識されることすら危うい。別に焦る必要はない。
……いや、なんで焦ってんだよ俺が。
俺はこの嬢ちゃんの不摂生をみかねて飯を作っただけ。佐々木ってやつは話を聞いた限りじゃ料理好きらしいから、この生活力皆無の女とくっ付いてくれれば、俺が心配する必要はどこにもなくなる。嬢ちゃんも好きな男と一緒になれる。万々歳じゃねぇか。
「そうだ、帰りにコンビニでデザート買ってきたんです。有以子が美味しいって教えてくれて。一緒に食べましょう」
新商品だからと言って、嬢ちゃんはクリームの入ったワッフルを差し出してきた。
5個入りのそれは、新商品というシールが貼られている以外は何の変哲も無い。
「……悪いな、嬢ちゃん。クリーム系の菓子はあんまり食えねぇんだ。気持ちは嬉しいが嬢ちゃんが食ってくれ」
嘘だった。別にクリーム自体は好きでも嫌いでもない。単に今は食う気が起きないだけだ。
「そうだったんですか?なんかすみません」
どうしようかと悩む彼女に、残りは明日食えばいいと言いながら、俺はもやもやしたものを抱え続けていた。
……これ以上深入りすべきじゃない。むしろ俺は応援すべきだ。
俺の作った飯を美味そうに食ってくれるだけの女。それでいいじゃねぇか。
そう思えばいい、いや……そう思いたかった。
そういう女だと割り切ることができれば楽なのに、佐伯梓という女は思った以上に、俺の懐の奥深くに入り込んでいた。
情けねぇな。俺は遠野組の組長だってのに。
暗い血に汚れた道を歩いて来た俺が、真っ当に生きてきた彼女を求めちゃいけねぇ。
俺が一生かかっても得られないと思っていたものをあっさりと与えることができるのは、嬢ちゃんがこっちの人間じゃねぇからだ。
飯が美味いだけで喜んで、他愛もない話をして笑う、そんな彼女にとっての当たり前、俺にとっての非日常を知ってしまった。
非日常は、いつか終わらなければならない。
「吉崎さん?あの、さっきからすごく何か考えてらっしゃる感じですけど……どうかしました?」
「まあ、色々あるからな。そろそろ戻る」
嬢ちゃんはヤクザさんも大変ですね、とよくわかっていなさそうだが心配しているようだった。
そうだ、この馬鹿みたいに素直で脳天気な嬢ちゃんの道を、俺なんかが踏み荒らしちゃいけねぇ。
……少なくとも今の間だけ、できるだけ交わらないようにその横を歩けたらという夢を見ているだけだ。
不摂生で乱れてるのを少しばかり矯正していくのは、俺の身に余る夢を見させてくれる礼に過ぎない。
俺に許されるのは、嬢ちゃんの幸せを祈ることくらいだろう。
だが……
結構凹むもんだな、これ。
最初の返答をしたときの嬢ちゃんの目線が一瞬泳いだから、つい深追いしちまった。
通りで、全く意識すらされてこなかったわけだ。仮にも隣に住んで飯を作ってやってる異性だっつうのに。
「美味しかったです。ありがとうございました。洗い物は私がしますね」
「ああ、頼む」
嬢ちゃんはいつも通りだ。まあ、単に俺が動揺しているだけか。嬢ちゃんにしてみれば、母親に格好いい男が職場にいると話した程度のことなんだろう。
彼女にとって俺は、結局そういう存在止まりだ。
まあ、ちょうどいいじゃねぇか。そもそも俺と嬢ちゃんは住む世界が違う。俺がどうこう思ったところでどうにもならない。むしろ、嬢ちゃんが人並みに異性に対する興味をちゃんと持っていたことを喜ぶべきだ。
だがまあ、その佐々木とかいうやつは王子なんてふざけた呼び名が付くくらいだ。よっぽど人気なんだろ。
その王子とやらにそういう対象として認識されることすら危うい。別に焦る必要はない。
……いや、なんで焦ってんだよ俺が。
俺はこの嬢ちゃんの不摂生をみかねて飯を作っただけ。佐々木ってやつは話を聞いた限りじゃ料理好きらしいから、この生活力皆無の女とくっ付いてくれれば、俺が心配する必要はどこにもなくなる。嬢ちゃんも好きな男と一緒になれる。万々歳じゃねぇか。
「そうだ、帰りにコンビニでデザート買ってきたんです。有以子が美味しいって教えてくれて。一緒に食べましょう」
新商品だからと言って、嬢ちゃんはクリームの入ったワッフルを差し出してきた。
5個入りのそれは、新商品というシールが貼られている以外は何の変哲も無い。
「……悪いな、嬢ちゃん。クリーム系の菓子はあんまり食えねぇんだ。気持ちは嬉しいが嬢ちゃんが食ってくれ」
嘘だった。別にクリーム自体は好きでも嫌いでもない。単に今は食う気が起きないだけだ。
「そうだったんですか?なんかすみません」
どうしようかと悩む彼女に、残りは明日食えばいいと言いながら、俺はもやもやしたものを抱え続けていた。
……これ以上深入りすべきじゃない。むしろ俺は応援すべきだ。
俺の作った飯を美味そうに食ってくれるだけの女。それでいいじゃねぇか。
そう思えばいい、いや……そう思いたかった。
そういう女だと割り切ることができれば楽なのに、佐伯梓という女は思った以上に、俺の懐の奥深くに入り込んでいた。
情けねぇな。俺は遠野組の組長だってのに。
暗い血に汚れた道を歩いて来た俺が、真っ当に生きてきた彼女を求めちゃいけねぇ。
俺が一生かかっても得られないと思っていたものをあっさりと与えることができるのは、嬢ちゃんがこっちの人間じゃねぇからだ。
飯が美味いだけで喜んで、他愛もない話をして笑う、そんな彼女にとっての当たり前、俺にとっての非日常を知ってしまった。
非日常は、いつか終わらなければならない。
「吉崎さん?あの、さっきからすごく何か考えてらっしゃる感じですけど……どうかしました?」
「まあ、色々あるからな。そろそろ戻る」
嬢ちゃんはヤクザさんも大変ですね、とよくわかっていなさそうだが心配しているようだった。
そうだ、この馬鹿みたいに素直で脳天気な嬢ちゃんの道を、俺なんかが踏み荒らしちゃいけねぇ。
……少なくとも今の間だけ、できるだけ交わらないようにその横を歩けたらという夢を見ているだけだ。
不摂生で乱れてるのを少しばかり矯正していくのは、俺の身に余る夢を見させてくれる礼に過ぎない。
俺に許されるのは、嬢ちゃんの幸せを祈ることくらいだろう。
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