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貴公子の微笑み4
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いつものことだけど仕事が片付かない。
クレーム対応していたらお昼のタイミング逃して、お弁当がまだ鞄の中で私を待っている。
過去の販売実績を調べて入力して、それの印刷ついでに書類のコピーと形式のPDF変換……今日はやけに細々とした作業が多い。
「これ、やっとくよ」
PDF化した書類をカテゴリ毎に移動させていたら、頭上から爽やかな声が降ってきて、ホチキス留めしようとしていた書類の束が消えた。
「え、佐々木さん。いいですよ自分でやりますから」
「お昼まだでしょ?思ったより早く先方と話がまとまったから手伝うよ」
「いえ……」
大丈夫ですと言う前に、佐々木さんはそれを持って自分のデスクに行ってしまった。あれのホチキス留め、順番通り並べたり折ったりと単純なわりに面倒なやつだったんだけど……
でもせっかくの好意を無下にするのも嫌だし、あとでちゃんとお礼言っておかないと。
……って、お姉様方の視線が怖い。
ですよね。そうなりますよねー。
別にそんなことないんですけどね。先日のことでわかったけど、私の佐々木さんに対する好意は憧れ以上の何物でもないですからね?
あくまで仕事上であって、仮に佐々木さんが女性でも全く同じ感情を抱いたと思いますよ?
なんて大声で弁明できたらいいんだけど、そんなことできないししてる場合じゃない。
目の前の作業が終わってもまだ続きがある。
溢れそうになるため息を堪えながら、私は作業の続きにとりかかった。
結局お昼ごはんを食べ損ねたまま帰ることになってしまった。
ビルの警備の人に頭を下げて道路に出ると、向かいの歩道に既にでき上がっていそうな酔っ払いの集団が次の店を探して歩いているのが見えた。
「大変だね。こんな時間まで」
そう声をかけられて振り向くと、そこには佐々木さんが立っていた。
「佐々木さん。今日はホチキス留め、ありがとうございました」
「大変そうだったから。結局お昼も食べてないでしょ?お腹空かない?」
「お腹は空いてますけど……」
「この時間だし居酒屋だけど美味しいところ知ってるんだ。よければ一緒に行かない?」
アパートに帰れば美味しいごはんが待ってる。それに食べ損ねたお弁当もあるし、夕ごはんには困っていない。
それに、さすがになんとなく察するというか……自惚れてるわけでもないけどこの短期間に2回も誘われたら少しくらい考えるよね。
まさかそういうことなの……って。
けど私にはやはり佐々木さんのようなキラキラした存在は憧れてるだけで十分だって思うんですよ。お姉様方プラス他の女性社員の視線怖いし。
「食べ損ねたお弁当があるのでそれを食べようかなと思っているので……ありがとうございます」
もし万一見られたらと思うと気が気でない。佐々木さん営業だから、会社の外にも知り合い多そう。
「なら仕方ないか。じゃあ僕はどこかで食べて帰ろうかな」
佐々木さんは少し寂しそうにそう言うと、お疲れ様と言い残して反対方向に歩いていった。
これでよかったのかな……?
「……と、そんなことがあったんです」
とりあえず話す相手もいないので、吉崎さんに今日あったことを話してみる。
吉崎さんはおかずを摘もうとしていた箸を止めていた。
「嬢ちゃんはそれでいいのか?」
「だって本当に憧れですし。お局……じゃない、お姉様方の視線も怖いです」
ちなみに今日の夕ごはんは生姜焼きだった。私がお弁当を食べ損ねたので、生姜焼きは明日の夕飯に回されることになってしまった。まあ傷んでるといけないから捨てるかって言われて止めたのは私なんだけどね。
もちろんお弁当のおかずは温め直しても美味しい。
ミニハンバーグはしっとりジューシーでにんじんも甘くて柔らか。
でも、目の前のできたて生姜焼きも美味しそう。
豚肉の焼けた香ばしい匂いと生姜のきりっとした香りがたまらない。
「……欲しいなら嬢ちゃんの分も焼くぞ」
「食べ過ぎに、なってしまうので……」
そう。年末に気付いてしまった体重の増加。そして年始には吉崎さんが連日おせちやらお雑煮やらすき焼きやら、仕事で正月気分を味わえていなかった私は大喜びでそれらを食べた。全部が全部美味しいせいで結局体重が……
夜でも最低限は食えと言われるし美味しいので出された分はちゃんと食べる。
というかむしろ出された分だけにしとかないと歯止めが効かなくなってしまう!
このまま吉崎さんが生姜焼きを焼いて持ってきてくれたとしよう。するともれなくこの絶対に美味しい豚肉さんにはご飯が必要になってしまうのですよ。たぶん1枚で1杯は確実にいける。私は既にお弁当のご飯をほぼ食べてしまっているわけです。
「1回くらい問題ないだろ」
「うっ……」
まあお茶碗にほんの少しよそうくらいなら……と私の中の食欲が囁いてくる。でも、明日の楽しみにしておくのもいい気がする。
「ほら」
葛藤していたら、目の前に豚肉様が現れた。
鼻に抜ける生姜焼きのさっぱり香ばしい香りに、私はぱくりとそれを食べていた。
しっとり香ばしい豚肉に生姜の効いた醤油ダレが絡んで、ご飯が欲しくなる。
私はお茶碗に残っていたご飯をその豚肉で食べて、大きく息を吐いた。
「おいしい!」
なんと罪深い味。1回くらいいいかもしれない。この生姜焼きにはそれだけの価値がある。
そう言うと吉崎さんはいつもの少し気難しそうな表情を崩して笑った。
クレーム対応していたらお昼のタイミング逃して、お弁当がまだ鞄の中で私を待っている。
過去の販売実績を調べて入力して、それの印刷ついでに書類のコピーと形式のPDF変換……今日はやけに細々とした作業が多い。
「これ、やっとくよ」
PDF化した書類をカテゴリ毎に移動させていたら、頭上から爽やかな声が降ってきて、ホチキス留めしようとしていた書類の束が消えた。
「え、佐々木さん。いいですよ自分でやりますから」
「お昼まだでしょ?思ったより早く先方と話がまとまったから手伝うよ」
「いえ……」
大丈夫ですと言う前に、佐々木さんはそれを持って自分のデスクに行ってしまった。あれのホチキス留め、順番通り並べたり折ったりと単純なわりに面倒なやつだったんだけど……
でもせっかくの好意を無下にするのも嫌だし、あとでちゃんとお礼言っておかないと。
……って、お姉様方の視線が怖い。
ですよね。そうなりますよねー。
別にそんなことないんですけどね。先日のことでわかったけど、私の佐々木さんに対する好意は憧れ以上の何物でもないですからね?
あくまで仕事上であって、仮に佐々木さんが女性でも全く同じ感情を抱いたと思いますよ?
なんて大声で弁明できたらいいんだけど、そんなことできないししてる場合じゃない。
目の前の作業が終わってもまだ続きがある。
溢れそうになるため息を堪えながら、私は作業の続きにとりかかった。
結局お昼ごはんを食べ損ねたまま帰ることになってしまった。
ビルの警備の人に頭を下げて道路に出ると、向かいの歩道に既にでき上がっていそうな酔っ払いの集団が次の店を探して歩いているのが見えた。
「大変だね。こんな時間まで」
そう声をかけられて振り向くと、そこには佐々木さんが立っていた。
「佐々木さん。今日はホチキス留め、ありがとうございました」
「大変そうだったから。結局お昼も食べてないでしょ?お腹空かない?」
「お腹は空いてますけど……」
「この時間だし居酒屋だけど美味しいところ知ってるんだ。よければ一緒に行かない?」
アパートに帰れば美味しいごはんが待ってる。それに食べ損ねたお弁当もあるし、夕ごはんには困っていない。
それに、さすがになんとなく察するというか……自惚れてるわけでもないけどこの短期間に2回も誘われたら少しくらい考えるよね。
まさかそういうことなの……って。
けど私にはやはり佐々木さんのようなキラキラした存在は憧れてるだけで十分だって思うんですよ。お姉様方プラス他の女性社員の視線怖いし。
「食べ損ねたお弁当があるのでそれを食べようかなと思っているので……ありがとうございます」
もし万一見られたらと思うと気が気でない。佐々木さん営業だから、会社の外にも知り合い多そう。
「なら仕方ないか。じゃあ僕はどこかで食べて帰ろうかな」
佐々木さんは少し寂しそうにそう言うと、お疲れ様と言い残して反対方向に歩いていった。
これでよかったのかな……?
「……と、そんなことがあったんです」
とりあえず話す相手もいないので、吉崎さんに今日あったことを話してみる。
吉崎さんはおかずを摘もうとしていた箸を止めていた。
「嬢ちゃんはそれでいいのか?」
「だって本当に憧れですし。お局……じゃない、お姉様方の視線も怖いです」
ちなみに今日の夕ごはんは生姜焼きだった。私がお弁当を食べ損ねたので、生姜焼きは明日の夕飯に回されることになってしまった。まあ傷んでるといけないから捨てるかって言われて止めたのは私なんだけどね。
もちろんお弁当のおかずは温め直しても美味しい。
ミニハンバーグはしっとりジューシーでにんじんも甘くて柔らか。
でも、目の前のできたて生姜焼きも美味しそう。
豚肉の焼けた香ばしい匂いと生姜のきりっとした香りがたまらない。
「……欲しいなら嬢ちゃんの分も焼くぞ」
「食べ過ぎに、なってしまうので……」
そう。年末に気付いてしまった体重の増加。そして年始には吉崎さんが連日おせちやらお雑煮やらすき焼きやら、仕事で正月気分を味わえていなかった私は大喜びでそれらを食べた。全部が全部美味しいせいで結局体重が……
夜でも最低限は食えと言われるし美味しいので出された分はちゃんと食べる。
というかむしろ出された分だけにしとかないと歯止めが効かなくなってしまう!
このまま吉崎さんが生姜焼きを焼いて持ってきてくれたとしよう。するともれなくこの絶対に美味しい豚肉さんにはご飯が必要になってしまうのですよ。たぶん1枚で1杯は確実にいける。私は既にお弁当のご飯をほぼ食べてしまっているわけです。
「1回くらい問題ないだろ」
「うっ……」
まあお茶碗にほんの少しよそうくらいなら……と私の中の食欲が囁いてくる。でも、明日の楽しみにしておくのもいい気がする。
「ほら」
葛藤していたら、目の前に豚肉様が現れた。
鼻に抜ける生姜焼きのさっぱり香ばしい香りに、私はぱくりとそれを食べていた。
しっとり香ばしい豚肉に生姜の効いた醤油ダレが絡んで、ご飯が欲しくなる。
私はお茶碗に残っていたご飯をその豚肉で食べて、大きく息を吐いた。
「おいしい!」
なんと罪深い味。1回くらいいいかもしれない。この生姜焼きにはそれだけの価値がある。
そう言うと吉崎さんはいつもの少し気難しそうな表情を崩して笑った。
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