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美人は怖い
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倉庫での一件の後もいつの間にか書類が増やされたり重箱の隅をほじくるような指摘をされたりと、仕事なのか嫌がらせなのか微妙すぎるラインのことはされたけど、1週間もすればそれはおさまった。
倉庫で佐々木さんとお話ししてから、佐々木さんとの接触が減ったからだと思う。
それでも、疲れるものは疲れるなぁ……
たまに連絡を取り合う同級生はこの前有給をとって彼氏と九州旅行に行ったらしい。いいな、有給。
『専業主婦でも僕は構わない』
ふと、佐々木さんが言った言葉を思い出す。専業主婦は絶対に無理だ。そもそも仕事が好きだから。こんなブラックでしかない環境でも、家事も勉強も苦手な私にできることだから。
ちょっと顔を上げれば、いくつものオフィスビルが目に入ってくる。まだ電気のついているところはたくさんあった。
会社もいっぱいあるんだな……
転職という単語が脳裏を過ぎる。そういえば有以子も転職したいってよく言ってるな。
疲れて無気力な状態でスマホ持ってると、頭にふと浮かんだ単語を検索したくなる。
道ゆく人との距離をちらっと確認して、検索ボックスにその2文字を入力した。
すぐに表示されたのは就活でお世話になった某有名就職支援サイトの転職版。とりあえず、登録だけでもしておこうかな。
ログインの横にある新規登録のボタンに指を伸ばす。
不意に手元に影がさした。
そしてスマホを持っていた手がぶつかって、私はスマホを落としてしまう。
個人情報を入力する画面に一筋のひびが入っていた。
「す、すみません……」
一応気にしていたつもりだったけどぶつかってしまった。
相手はスーツで、サラリーマンかな?
私がスマホ落としたくらいで、その人も私も怪我はなさそうだから大丈夫そう。
やっぱり歩きスマホはよくなかった……って、この人はサラリーマンなの、か?
ガッチリとしたお体をしていらっしゃる。もしかしてご趣味が筋トレとか。え、違う……?だとしたらその筋肉はなんのために?
「乗れ」
「え!?」
その瞬間、背中に衝撃が走る。
乗れ、というか放り込まれた。
一瞬で持ち上げられて、そのまま見知らぬ車の中へ。そのいい筋肉は私を運搬するためなのかとさえ思った。
「大人しくしてろ」
そう言われて私は口にガムテープを貼られて、頭から布袋を頭からかぶせられた。この布袋なんか臭いんですが。口で息ができなくて鼻呼吸になってるせいでどうにもならない。匂いに辟易していたら、その間に手首をガムテープで縛られた。
というかガムテープで口を塞ぐシーンってよく見るけど、花粉症の人がされたら息できるのかな?
そんなどうでもいいことがこの状況なのに脳裏に浮かぶ。
「ちょっとでも余計な動きしやがったらぶん殴るからな」
そう、こんな状況なのに。
明らかに脅しを含んだ声でそう言われては頷くしかない。
……これ、絶対吉崎さん絡みだよね?
私が座席に座らされると、ガタガタと音がして車は発進した。
どこかに駐車しているのかバックの音がする。
やがて停車した車から放り出されるようにして外に出された私は頭に布袋を被せられたまま、どこかに連れて行かれようとしていた。
ここで私はようやく、自分がいかにまずい状況にいるかを理解した。
これ、どこに向かってるの?足元これ砂利?吉崎さん絡みって、確実にヤクザさんのいざこざだよね。私、何も知りませんよ?無知ですよ?
本当に何も知らないから、知らぬ存ぜぬでどうにかなるだろうか。私知りませんよ?吉崎さんの好物がプリンかなってことくらいしか面白い情報は持ってません。
というか私が吉崎さんと関係あるって誰かにバレたってこと?そうだ吉崎さんの方こそ大丈夫なの!?
「あ、これがそうなの?」
ここにきて色々と怖くなっていたら、なんだか上品な女の人の声がした。
そして乱暴に私に被せてあった布袋が取られたと思ったら、誰かに突き飛ばされて私はその場に尻餅をついた。
その瞬間、華やかな香りが鼻をつく。
「あなたが仁さんの女?」
耳慣れない名前を言われて顔を上げると、気の強そうな美人が仁王立ちになって私を見下ろしていた。
倉庫で佐々木さんとお話ししてから、佐々木さんとの接触が減ったからだと思う。
それでも、疲れるものは疲れるなぁ……
たまに連絡を取り合う同級生はこの前有給をとって彼氏と九州旅行に行ったらしい。いいな、有給。
『専業主婦でも僕は構わない』
ふと、佐々木さんが言った言葉を思い出す。専業主婦は絶対に無理だ。そもそも仕事が好きだから。こんなブラックでしかない環境でも、家事も勉強も苦手な私にできることだから。
ちょっと顔を上げれば、いくつものオフィスビルが目に入ってくる。まだ電気のついているところはたくさんあった。
会社もいっぱいあるんだな……
転職という単語が脳裏を過ぎる。そういえば有以子も転職したいってよく言ってるな。
疲れて無気力な状態でスマホ持ってると、頭にふと浮かんだ単語を検索したくなる。
道ゆく人との距離をちらっと確認して、検索ボックスにその2文字を入力した。
すぐに表示されたのは就活でお世話になった某有名就職支援サイトの転職版。とりあえず、登録だけでもしておこうかな。
ログインの横にある新規登録のボタンに指を伸ばす。
不意に手元に影がさした。
そしてスマホを持っていた手がぶつかって、私はスマホを落としてしまう。
個人情報を入力する画面に一筋のひびが入っていた。
「す、すみません……」
一応気にしていたつもりだったけどぶつかってしまった。
相手はスーツで、サラリーマンかな?
私がスマホ落としたくらいで、その人も私も怪我はなさそうだから大丈夫そう。
やっぱり歩きスマホはよくなかった……って、この人はサラリーマンなの、か?
ガッチリとしたお体をしていらっしゃる。もしかしてご趣味が筋トレとか。え、違う……?だとしたらその筋肉はなんのために?
「乗れ」
「え!?」
その瞬間、背中に衝撃が走る。
乗れ、というか放り込まれた。
一瞬で持ち上げられて、そのまま見知らぬ車の中へ。そのいい筋肉は私を運搬するためなのかとさえ思った。
「大人しくしてろ」
そう言われて私は口にガムテープを貼られて、頭から布袋を頭からかぶせられた。この布袋なんか臭いんですが。口で息ができなくて鼻呼吸になってるせいでどうにもならない。匂いに辟易していたら、その間に手首をガムテープで縛られた。
というかガムテープで口を塞ぐシーンってよく見るけど、花粉症の人がされたら息できるのかな?
そんなどうでもいいことがこの状況なのに脳裏に浮かぶ。
「ちょっとでも余計な動きしやがったらぶん殴るからな」
そう、こんな状況なのに。
明らかに脅しを含んだ声でそう言われては頷くしかない。
……これ、絶対吉崎さん絡みだよね?
私が座席に座らされると、ガタガタと音がして車は発進した。
どこかに駐車しているのかバックの音がする。
やがて停車した車から放り出されるようにして外に出された私は頭に布袋を被せられたまま、どこかに連れて行かれようとしていた。
ここで私はようやく、自分がいかにまずい状況にいるかを理解した。
これ、どこに向かってるの?足元これ砂利?吉崎さん絡みって、確実にヤクザさんのいざこざだよね。私、何も知りませんよ?無知ですよ?
本当に何も知らないから、知らぬ存ぜぬでどうにかなるだろうか。私知りませんよ?吉崎さんの好物がプリンかなってことくらいしか面白い情報は持ってません。
というか私が吉崎さんと関係あるって誰かにバレたってこと?そうだ吉崎さんの方こそ大丈夫なの!?
「あ、これがそうなの?」
ここにきて色々と怖くなっていたら、なんだか上品な女の人の声がした。
そして乱暴に私に被せてあった布袋が取られたと思ったら、誰かに突き飛ばされて私はその場に尻餅をついた。
その瞬間、華やかな香りが鼻をつく。
「あなたが仁さんの女?」
耳慣れない名前を言われて顔を上げると、気の強そうな美人が仁王立ちになって私を見下ろしていた。
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