54 / 67
貴公子の微笑み6
しおりを挟む
「コピー用紙取りに来たんだけど、どうしたの?鍵かかってたのに」
「備品のチェックしてたら気付かれず閉められちゃったみたいで……スマホは持っていたので、終わりそうになったら誰かに連絡しようかなと思っていました」
さすがに確証もないのにお姉様方にやられましたとは言えない。それにいじめられました、なんて会社の人に言いたくないし。我ながらいらないプライドだと思うけど。
「まあ何事もなさそうでよかった。じゃあここ開けとくから」
そう言って佐々木さんはちゃんとドアストッパーをして倉庫に入ってくると、ちょうど私が数を数え終えた箱からコピー用紙を一袋取り出した。
「これ貰ってくけど問題ない?」
「はい。ひとつ減るだけなので」
なくなってきているわけでもないし、私は頷いた。
「ありがとう」
佐々木さんはいつもの笑みを浮かべて倉庫から立ち去ろうとする。しかし途中で立ち止まって、私の方を振り返った。
「あのさ、佐伯さん。もしかして片山さんとか戸川とかにされたの?」
「え……?さあ。誰が閉めたのかは知りませんよ。見てませんでしたし」
というか佐々木さん、どうしてその辺りが怪しいってわかったんだろう。
良い男は勘もいいんだろうか。
「僕が手伝ったからだよね。だって昨日佐伯さん大変そうだったから」
「佐々木さんは悪くないですよ。コピー用紙はそれで足りますか?」
よりによって開けてくれたのが佐々木さんっていうのだけで身構えてしまうのに、もしこんなとこで喋ってるの見られたらもっとろくでもないことが起こる気がする。
「……きっと勘違いしてるんですよ。そのうち戻りますから」
というわけでデスクの方にお戻りいただけると嬉しいです。というかやっぱり自覚はあったんだ。まあ微笑み王子の呼称くらい本人も知ってるか。幼少期からずっとモテてそうだし。
さあどうぞとドアの方を示した……のに、なぜか佐々木さんが私の手を取った。突然のことに持っていたボールペンが軽い音を立てて床に落ちる。
「僕は勘違いされて構わない。佐伯さん、本当に付き合わない?」
「……へ?」
なぜ?why?どうして?どういうこと?
「いっそ公言すればいいと思うんだ。はっきりしないから勘違いが生まれるんだよ」
まあ、それについては確かにそうだと思いますが……私?自分がいざそうとなると話は別ですよ?
というかこのところのカフェに誘われたりごはんに誘われたりは自惚れではなくそういうこと?
佐々木さんは王子に相応しい笑みを浮かべて私を見ている。
「佐伯さん真面目であんなブラック部署で全然弱音吐かず頑張ってさ、教育係としても誇らしいよ」
ああ、どうしよう。
……嬉しい。
佐々木さんのことは尊敬しているし好きだ。そんな人にこんなこと言われたら嬉しくないわけがない。
流されていいんじゃない?と私の中の怠惰な部分が囁いた。
でもだからこそ気付いてる。私のこの感情は憧れで、本来の私が佐々木さんに相応しくないことくらい。
「それにさ、もしそれで居づらくなるんだったら佐伯さん料理上手いし、専業主婦でも俺は全然構わないよ」
やっぱり、そうだよね。
「……そのことなんですけど」
こんな風に思わせてしまった以上、ちゃんと伝えておかないと。佐々木さんが私に興味を持った理由がそこなら根本が違ってしまうから。
「近くに住んでる料理好きな人に作ってもらってるんです。だから自分で作ってるわけじゃないです」
全く嘘はついていない。一部情報を出していないだけで、ヤクザさんとか壁壊されたとか言わないだけだ。
佐々木さんは驚いたのか少し目を見開く。
まあそうだよね。あんなクオリティのお弁当を毎朝作ってくれるって、家族でもないのにすごいよね。
そう言えば食費すら払ってない……というか渡そうとすると突っぱねられる。
「それって彼氏?」
「え?吉崎さんはそういうのではなく……もはやお母さんみたいな……」
はっ、いい歳してお母さんに頼りきりみたいな感じになってる。まあ食事に関してはまったくもってその通りだけど!
「そういうわけで、私は専業主婦なんてなれませんし、佐々木さんにはもっといい女の人がいますよ。有以子とか」
有以子は大学生の頃から独り暮らしで、曰くちゃんとごはんを食べていたそう。少しきついけどそこもいいところ。ファッション誌もチェックしてるらしいし、圧倒的な女子力!しかし彼氏はいないと以前カラオケで恋愛ソング歌いながら嘆いてた。
「横山さん?仕事はきっちりしてそうだし嫌いじゃないんだけど、そういう対象としては違うかな……」
え、有以子が振られた。まあそもそも何も始まってないけども。
「別にお弁当がいつも美味しそうだからってだけでこんなこと言ってるんじゃないよ。それに苦手なら練習すればいい。僕も教えるし、その料理好きな人にも教えてもらえばいいんじゃない?」
「たまに教えてもらうんですけど……」
確かに吉崎さんが横で教えてくれる時はできる。でも、吉崎さんが出かけてるときに自分でやってみようとしてポテトサラダに挑戦してみたら、2人前の材料で作ったのになぜか最終的に1人前以下くらいになって、ボソボソしてるしポテトサラダなのに辛いし。吉崎さんが帰ってきたときは片付けしてただけなのに、第一声が「ガサ入れか……?」だった。
出来栄えに関しては遠くを見る目で頑張ったなと言われ、なぜか翌朝に叩き起こされてポテトサラダ作りの工程を見せられた。
じゃがいもあっためて潰して……と、私のとあまり変わらない気がしたけど。
「そっか……」
佐々木さんの爽やかフェイスに若干ひびが入った気がする。気のせいかな?
「それに私、佐々木さんのことはもちろん尊敬してますし憧れてます。でも、今のままがいいんです」
「料理なら僕が作るよ。仕事だって辞めてほしいわけじゃないし」
「そうかもしれないんですけど……そういうわけなので、ごめんなさい!」
私はそのまま頼まれてもいないけどコピー用紙の束をもう1束佐々木さんに押し付けて、自分の作業に戻った。
佐々木さんは何か言いたげだったけど、廊下の方から話し声と足音が聞こえてきたからか急ぎ足で倉庫から出ていった。
「備品のチェックしてたら気付かれず閉められちゃったみたいで……スマホは持っていたので、終わりそうになったら誰かに連絡しようかなと思っていました」
さすがに確証もないのにお姉様方にやられましたとは言えない。それにいじめられました、なんて会社の人に言いたくないし。我ながらいらないプライドだと思うけど。
「まあ何事もなさそうでよかった。じゃあここ開けとくから」
そう言って佐々木さんはちゃんとドアストッパーをして倉庫に入ってくると、ちょうど私が数を数え終えた箱からコピー用紙を一袋取り出した。
「これ貰ってくけど問題ない?」
「はい。ひとつ減るだけなので」
なくなってきているわけでもないし、私は頷いた。
「ありがとう」
佐々木さんはいつもの笑みを浮かべて倉庫から立ち去ろうとする。しかし途中で立ち止まって、私の方を振り返った。
「あのさ、佐伯さん。もしかして片山さんとか戸川とかにされたの?」
「え……?さあ。誰が閉めたのかは知りませんよ。見てませんでしたし」
というか佐々木さん、どうしてその辺りが怪しいってわかったんだろう。
良い男は勘もいいんだろうか。
「僕が手伝ったからだよね。だって昨日佐伯さん大変そうだったから」
「佐々木さんは悪くないですよ。コピー用紙はそれで足りますか?」
よりによって開けてくれたのが佐々木さんっていうのだけで身構えてしまうのに、もしこんなとこで喋ってるの見られたらもっとろくでもないことが起こる気がする。
「……きっと勘違いしてるんですよ。そのうち戻りますから」
というわけでデスクの方にお戻りいただけると嬉しいです。というかやっぱり自覚はあったんだ。まあ微笑み王子の呼称くらい本人も知ってるか。幼少期からずっとモテてそうだし。
さあどうぞとドアの方を示した……のに、なぜか佐々木さんが私の手を取った。突然のことに持っていたボールペンが軽い音を立てて床に落ちる。
「僕は勘違いされて構わない。佐伯さん、本当に付き合わない?」
「……へ?」
なぜ?why?どうして?どういうこと?
「いっそ公言すればいいと思うんだ。はっきりしないから勘違いが生まれるんだよ」
まあ、それについては確かにそうだと思いますが……私?自分がいざそうとなると話は別ですよ?
というかこのところのカフェに誘われたりごはんに誘われたりは自惚れではなくそういうこと?
佐々木さんは王子に相応しい笑みを浮かべて私を見ている。
「佐伯さん真面目であんなブラック部署で全然弱音吐かず頑張ってさ、教育係としても誇らしいよ」
ああ、どうしよう。
……嬉しい。
佐々木さんのことは尊敬しているし好きだ。そんな人にこんなこと言われたら嬉しくないわけがない。
流されていいんじゃない?と私の中の怠惰な部分が囁いた。
でもだからこそ気付いてる。私のこの感情は憧れで、本来の私が佐々木さんに相応しくないことくらい。
「それにさ、もしそれで居づらくなるんだったら佐伯さん料理上手いし、専業主婦でも俺は全然構わないよ」
やっぱり、そうだよね。
「……そのことなんですけど」
こんな風に思わせてしまった以上、ちゃんと伝えておかないと。佐々木さんが私に興味を持った理由がそこなら根本が違ってしまうから。
「近くに住んでる料理好きな人に作ってもらってるんです。だから自分で作ってるわけじゃないです」
全く嘘はついていない。一部情報を出していないだけで、ヤクザさんとか壁壊されたとか言わないだけだ。
佐々木さんは驚いたのか少し目を見開く。
まあそうだよね。あんなクオリティのお弁当を毎朝作ってくれるって、家族でもないのにすごいよね。
そう言えば食費すら払ってない……というか渡そうとすると突っぱねられる。
「それって彼氏?」
「え?吉崎さんはそういうのではなく……もはやお母さんみたいな……」
はっ、いい歳してお母さんに頼りきりみたいな感じになってる。まあ食事に関してはまったくもってその通りだけど!
「そういうわけで、私は専業主婦なんてなれませんし、佐々木さんにはもっといい女の人がいますよ。有以子とか」
有以子は大学生の頃から独り暮らしで、曰くちゃんとごはんを食べていたそう。少しきついけどそこもいいところ。ファッション誌もチェックしてるらしいし、圧倒的な女子力!しかし彼氏はいないと以前カラオケで恋愛ソング歌いながら嘆いてた。
「横山さん?仕事はきっちりしてそうだし嫌いじゃないんだけど、そういう対象としては違うかな……」
え、有以子が振られた。まあそもそも何も始まってないけども。
「別にお弁当がいつも美味しそうだからってだけでこんなこと言ってるんじゃないよ。それに苦手なら練習すればいい。僕も教えるし、その料理好きな人にも教えてもらえばいいんじゃない?」
「たまに教えてもらうんですけど……」
確かに吉崎さんが横で教えてくれる時はできる。でも、吉崎さんが出かけてるときに自分でやってみようとしてポテトサラダに挑戦してみたら、2人前の材料で作ったのになぜか最終的に1人前以下くらいになって、ボソボソしてるしポテトサラダなのに辛いし。吉崎さんが帰ってきたときは片付けしてただけなのに、第一声が「ガサ入れか……?」だった。
出来栄えに関しては遠くを見る目で頑張ったなと言われ、なぜか翌朝に叩き起こされてポテトサラダ作りの工程を見せられた。
じゃがいもあっためて潰して……と、私のとあまり変わらない気がしたけど。
「そっか……」
佐々木さんの爽やかフェイスに若干ひびが入った気がする。気のせいかな?
「それに私、佐々木さんのことはもちろん尊敬してますし憧れてます。でも、今のままがいいんです」
「料理なら僕が作るよ。仕事だって辞めてほしいわけじゃないし」
「そうかもしれないんですけど……そういうわけなので、ごめんなさい!」
私はそのまま頼まれてもいないけどコピー用紙の束をもう1束佐々木さんに押し付けて、自分の作業に戻った。
佐々木さんは何か言いたげだったけど、廊下の方から話し声と足音が聞こえてきたからか急ぎ足で倉庫から出ていった。
52
あなたにおすすめの小説
駆け出しご当地アイドルがヤクザに一目惚れされた話
一ノ瀬ジェニファー
恋愛
ド田舎の道の駅で、持ち歌もグッズもないまま細々と活動を続けるご当地アイドル・桜あかり(16)。
夢は大きく武道館!……と言いたいところだけど、今はレジ打ちもこなす「なんでもできるマルチな地底アイドル」。
そんな彼女に、ある日転機が訪れる。
地元の道の駅がテレビで紹介され、あかりの笑顔が全国放送で流れたのだ。
その映像を東京で目にしたのが、幸村 静(ゆきむら しずか)。
見た目は完璧、物腰も柔らか──けれどその正体は、裏の世界の男だった。
「会いたいから」というシンプルすぎる理由で、あかりに会いに片道10時間を車で会いに来た。
謎のヲタク知識もを引っ提げて、推し活(という名の執着)が始まる……!
これは、アイドルを夢見る少女と、厄介オタクなヤクザの、ピュアで不穏でちょっと笑える物語。
この度、結婚していました
雨宮 瑞樹
恋愛
マンションの隣同士に住んでいる二人は、幼馴染み西澤陽斗と高島彩芽。
母親同士が、ともかく昔から仲がよく、酒が大好きで、いつもどちらかの部屋で飲んでいて「子供が二十四歳までに、結婚していなかったら結婚させよう」という話題で盛り上がる毎日。酔っぱらいの戯言だと気にも留めていなかった二人。
しかし、とうとう二人が二十四歳を迎えると……
勝手に婚姻届けを出されていた事実が発覚!
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
【完】クレオメの時間〜花屋と極道〜
ムラサキ
恋愛
極道・百目鬼組。
その当主の孫娘である百目鬼小夜(ももめきさよ)はヤクザとバレぬように念入りな努力をして穏やかな高校生活をおくっていた。しかし、そんな生活も終わりを告げる。
ある日、小夜が極道の娘だということが学校内で広まってしまう。小夜は帰り道に涙を堪えられず、ある花屋に駆け込み涙を流した。
偶然にも、その花屋の店長は小夜が小さい頃に知り合っていた宇津井朔也(うついさくや)だった。
偶然の再会から動き出す小夜の行方はどうなるのか…。
年齢や生い立ちなど、周りに許されない現実に立ち向かいながらひたむきに恋をする女の子のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる