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3章
16.お客様は和装美女
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めでたくアルバイトを再開する許可を得たので、私は岩峰組の事務所のすぐ近くにあるコンビニでバイトを再開した。
今日で3日目。系列は違うけどコンビニではあるので仕事にはすぐに慣れた。レジに基本的な操作とか陳列とかはわりと変わらない。商品の傾向とかが違うけど、まあ基本は同じだ。
「ありがとうございました!」
お客さんが出て行って、私は軽く息を吐いた。
前のところは大きめの道路に面してたからトラックの運ちゃんが結構多かったけど、ここはちょっと中に入ったところだからかどちらかというとサラリーマンとかが多い。あとたまに見知った人……組の人が来る。
関係者だとバレやしないかとビクビクしてたら、店長に「近くに事務所あるみたいでねぇ。まあ今のところトラブルはないし普通にいいお客さんだから」と言われた。確かに、ヤクザさんってこと以外は普通のお客さんだ。
他のバイトの人は慣れているのか、割と平然と接客してた。まあ事務所から徒歩2分だもんね。お昼とか買いに来るよね。
立地って大事だ。客層って、結構変わるものだなぁ。
そんなことを思いながら、私はモップを手に取って床掃除を始める。さっきのお客さんがどこかの工事現場でも抜けてきたのか、足跡がちょっと残っていた。
あらかた綺麗になったところで、ピロロ……とお客さんが入ってきた音がして私は顔を上げる。
「いらっしゃいませー!」
条件反射的にそう言いながら、私の目はそのお客さんに釘付けになった。
……え、すごい美女。しかも和装。大和撫子とはまさにこういう方のことを指すんだろうな。歳は若くはなさそうだけど、逆にそれが色香を発してる。
凛とした雰囲気が落ち着いた水色の着物と相まって、そこだけ空気が冷えたみたいになる。きつめの顔立ちだけど、むしろそれがこのお客さん……様には合っていた。
思わずぼーっと見てしまったけど、お客様に対して失礼だったと慌てて特に汚れてもいない場所をモップで擦る。
麗しいお客様は飲み物でも買いに来たのか、店の奥に歩いていく。後ろ姿ですら麗しい。
冷蔵庫の前で立ち止まったお客様はしばらく商品を眺めて、不意に私の方を振り返る。
見ようよっては冷たく感じるその瞳と目が合った。
なぜか知ってる気がしたけど、こんな美女会ったら忘れることはないはずだから、初対面のはずだ。
見ていたことがばれてしまい気まずいので、私は軽く会釈をして違う棚の間にでも逃げようと思ったのだけど……なぜか手招きをされてしまい失敗する。
「お呼びですか?」
初対面の美女に話しかけるって緊張する。声が震えていないことを褒めて欲しい。
美女ってそこにいるだけで威圧感がすごい。威圧感にはちょっと慣れた気でいたけど、ベクトルが違いました。
「飲み物を買いに来たのだけど、種類が多すぎてねぇ。お勧めはどちら?」
おお、外見の麗しいお客様は声までもちゃんと麗しい。
……って、感心してる場合じゃない。
「お飲み物ですか。水でしたら上の段に、お茶がその下の段にありますが」
「なんだか違うのよねぇ」
「それでしたらあちらにも紙パックの飲み物がありますよ。もしくはレジでも限定のドリンクを販売してます」
和装美女に勧めるのに相応しい飲み物かどうかはわからないけど。というか、この和装美女なお客様に相応しい飲み物がコンビニにあると思えないのですが。
「限定……いいわね、限定。それ頂こうかしら」
「は、はい。レジにメニューがあるので、こちらにどうぞ」
和装美女なお客様でも限定という言葉には弱かったのか、ふふっと上品に笑ってレジに向かって歩いていく。
コーヒーや期間限定のフレーバーティーが載ったメニューをまじまじと眺めている間にモップを片付け、私はレジに立つ。ドリンクメニューに関しては一通り教えてもらったので、作れる……はず。
「この限定シトラスティーをいただけるかしら?」
「は、はい。320円になります」
お会計を先に済ませて、私は一度レジの裏へ。
氷とレモンとシトラスを入れて、分量通りの紅茶とシロップ……お口に合うだろうかこれ。いやいや、ちゃんと分量は守った。これで嫌な顔されたら悪いの私じゃなくて開発者だ!
容器に蓋をしてストローを挿せば出来上がり。見た目よし、たぶん味もよし!
「お待たせしました」
そうして美女に商品を手渡した時だった。
お店の中にいた他のお客さん……サラリーマンっぽい男が、美女の後ろを通り過ぎて出入り口のドアに手をかけたのが目に入る。
何も買わずに出て行くお客さん自体は珍しくない。でも、なんだか違和感があった。鞄を妙にきっちり持ってる。中を見せまいという感じが伝わってきた。
……最悪だ。
「ちょっと、すみません」
私はレジから出てドアを半分開けたその人に声をかける。男は怪訝そうに私の方を見た。
その腕を掴んで、私はちらっと鞄に目をやる。
「未清算の商品は……」
レジにお願いします、と最後まで言い切らないうちに、男は私の腕を振り解いて勢いよく飛び出していった。
今日で3日目。系列は違うけどコンビニではあるので仕事にはすぐに慣れた。レジに基本的な操作とか陳列とかはわりと変わらない。商品の傾向とかが違うけど、まあ基本は同じだ。
「ありがとうございました!」
お客さんが出て行って、私は軽く息を吐いた。
前のところは大きめの道路に面してたからトラックの運ちゃんが結構多かったけど、ここはちょっと中に入ったところだからかどちらかというとサラリーマンとかが多い。あとたまに見知った人……組の人が来る。
関係者だとバレやしないかとビクビクしてたら、店長に「近くに事務所あるみたいでねぇ。まあ今のところトラブルはないし普通にいいお客さんだから」と言われた。確かに、ヤクザさんってこと以外は普通のお客さんだ。
他のバイトの人は慣れているのか、割と平然と接客してた。まあ事務所から徒歩2分だもんね。お昼とか買いに来るよね。
立地って大事だ。客層って、結構変わるものだなぁ。
そんなことを思いながら、私はモップを手に取って床掃除を始める。さっきのお客さんがどこかの工事現場でも抜けてきたのか、足跡がちょっと残っていた。
あらかた綺麗になったところで、ピロロ……とお客さんが入ってきた音がして私は顔を上げる。
「いらっしゃいませー!」
条件反射的にそう言いながら、私の目はそのお客さんに釘付けになった。
……え、すごい美女。しかも和装。大和撫子とはまさにこういう方のことを指すんだろうな。歳は若くはなさそうだけど、逆にそれが色香を発してる。
凛とした雰囲気が落ち着いた水色の着物と相まって、そこだけ空気が冷えたみたいになる。きつめの顔立ちだけど、むしろそれがこのお客さん……様には合っていた。
思わずぼーっと見てしまったけど、お客様に対して失礼だったと慌てて特に汚れてもいない場所をモップで擦る。
麗しいお客様は飲み物でも買いに来たのか、店の奥に歩いていく。後ろ姿ですら麗しい。
冷蔵庫の前で立ち止まったお客様はしばらく商品を眺めて、不意に私の方を振り返る。
見ようよっては冷たく感じるその瞳と目が合った。
なぜか知ってる気がしたけど、こんな美女会ったら忘れることはないはずだから、初対面のはずだ。
見ていたことがばれてしまい気まずいので、私は軽く会釈をして違う棚の間にでも逃げようと思ったのだけど……なぜか手招きをされてしまい失敗する。
「お呼びですか?」
初対面の美女に話しかけるって緊張する。声が震えていないことを褒めて欲しい。
美女ってそこにいるだけで威圧感がすごい。威圧感にはちょっと慣れた気でいたけど、ベクトルが違いました。
「飲み物を買いに来たのだけど、種類が多すぎてねぇ。お勧めはどちら?」
おお、外見の麗しいお客様は声までもちゃんと麗しい。
……って、感心してる場合じゃない。
「お飲み物ですか。水でしたら上の段に、お茶がその下の段にありますが」
「なんだか違うのよねぇ」
「それでしたらあちらにも紙パックの飲み物がありますよ。もしくはレジでも限定のドリンクを販売してます」
和装美女に勧めるのに相応しい飲み物かどうかはわからないけど。というか、この和装美女なお客様に相応しい飲み物がコンビニにあると思えないのですが。
「限定……いいわね、限定。それ頂こうかしら」
「は、はい。レジにメニューがあるので、こちらにどうぞ」
和装美女なお客様でも限定という言葉には弱かったのか、ふふっと上品に笑ってレジに向かって歩いていく。
コーヒーや期間限定のフレーバーティーが載ったメニューをまじまじと眺めている間にモップを片付け、私はレジに立つ。ドリンクメニューに関しては一通り教えてもらったので、作れる……はず。
「この限定シトラスティーをいただけるかしら?」
「は、はい。320円になります」
お会計を先に済ませて、私は一度レジの裏へ。
氷とレモンとシトラスを入れて、分量通りの紅茶とシロップ……お口に合うだろうかこれ。いやいや、ちゃんと分量は守った。これで嫌な顔されたら悪いの私じゃなくて開発者だ!
容器に蓋をしてストローを挿せば出来上がり。見た目よし、たぶん味もよし!
「お待たせしました」
そうして美女に商品を手渡した時だった。
お店の中にいた他のお客さん……サラリーマンっぽい男が、美女の後ろを通り過ぎて出入り口のドアに手をかけたのが目に入る。
何も買わずに出て行くお客さん自体は珍しくない。でも、なんだか違和感があった。鞄を妙にきっちり持ってる。中を見せまいという感じが伝わってきた。
……最悪だ。
「ちょっと、すみません」
私はレジから出てドアを半分開けたその人に声をかける。男は怪訝そうに私の方を見た。
その腕を掴んで、私はちらっと鞄に目をやる。
「未清算の商品は……」
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