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3章
17.お客様は和装美女2
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私は慌ててその後を追いかけた。確かあの人、携帯電話のバッテリーとかのある棚から出てきた。単価高いの持ってくのやめてくれませんかね!
「ちょっと待ってください!いいことありませんよ!」
とりあえず商品だけ返していただければそれで構いませんから!
前のコンビニでも万引きはたまにあった。いわゆる常習犯もいて、その人来たら神経を余計に使うし警察に通報したところで結局何回も繰り返されるし……そしてその被害は地味とは言えない額だと店長がボヤいていたのを覚えている。
今回は、私が裏で飲み物作ってて、他のお客さんの視線はおそらく美女に釘付けだったから、あの万引き犯にとってはとてもやりやすかったことでしょう。ああ、腹立つ。同時に妙に嫌な予感がして焦っていた。
「待ってって言ってるのに!」
意外と足早いなあの万引き犯。嫌な予感が気になるけど現行犯は諦めるか……と思った時だった。
「ぐふっ!」
突然角から黒い影が飛び出してきて、万引き犯が横っ飛びに吹っ飛んだ。そしてそこで私は嫌な予感の正体に気付く。
……そうだ、事務所に近付いてたんだ。
「テメェ、止まれって言われてんだろうが」
「ウチのお嬢の手ぇ煩わせんじゃねぇぞクソ野郎」
その曲がり角から岩峰組の方々が出るわ出るわ……その数6人。皆さんこれまた見事に強面揃いでいらっしゃる。やはり顔採用なのか岩峰組。
万引き犯のサラリーマン風の男は、腹部を抱えてうずくまって呻いている。その状況でヤクザさん6人に囲まれるって、恐怖だね……と他人事のように思ってしまった。
そうしている間にヤクザさんの一人、安藤さんが万引き犯の頭をその革靴で思いっきり踏みつける。万引き犯は苦痛で顔を歪めていた。
……そういえば、夏のアスファルトって熱くなるよね。
よりにもよってなぜこの万引き犯は事務所の方へ向かってしまったのか。
「出すモン出せ。わかってんだろ」
「す、すみません、でした……」
「ああ?なんで俺に謝ってんだよ。詫びる相手が違うだろうが」
ぐりぐりと頭を踏まれ続ける万引き犯の手から鞄を奪い取ったヤクザさんから、スマホのモバイルバッテリーと充電器を手渡される。どちらもパッケージに入ったままの新品。コンビニで取り扱ってる商品だった。
「ど、どうも……あの、商品が戻ってきたら満足ですので、その辺で勘弁して差し上げてもいいと思います」
気付けば万引き犯は安藤さんに胸倉を掴まれ、完全に怯えきってもはや哀れ……あ、気絶した。
万引き犯に対し殺意は湧くけど、さすがに本気ではないというか、このままいくとそれが冗談にならないというか……
追いかけなければよかったのかもしれないけど、それは何か違う気がするし。
「楓様の店のモンに手ェ出したんですよ?まずは楓様に詫びるのが世界の常識です」
いや、コンビニは私の店じゃないですよ?あと世界の常識って、あなたはどこの世界にお住まいなんですか。
気絶した万引き犯は乱雑に地べたに落とされる。
「伸びちまったら詫びさせようにもできねぇな」
おい起きろ、とペシペシと気絶した万引き犯の頬を叩くヤクザさん。あの、気絶するほどの恐怖を味合わせた?のでもう十分です……
「楓様に腕掴まれて振り解いた時点で大罪です」
大罪の基準がわからん。というか、なんで腕掴んで振り解かれたこと知ってるんですか。そして私の名前を出さないでください。
「若頭ですら振り解かないのに、こんなクソ野郎ごときが振り解いていいモンじゃないんですよ」
……いや、仰ってることの意味がさっきからよくわかんないんですけど。どこの世界のどういう理屈ですかそれ。
なんかズレてると思っていたら、視界の端にちらりと銀色に輝く何かが見えた。
「とりあえず二度としないのを示すんなら、人差し指でいいですかね」
「いや、親指の方がいいだろ」
「小指の先から順番にやる方が奪われる恐怖ってモンを徐々に味わわせられるぞ」
いやいや、どの指も順番もアウトですって!なんだかデジャヴを感じる。指をどうこうするのお好きですか皆さん!え、気絶してても反省を示させる方法はそれしかない?
……気絶した時点で私的にはもう十分かなと思います!
私はとても頑張って皆さんを止めた。
なぜ万引き犯のために私がここまで頑張らなければならないんだ。まあ、これを口にして出してしまったら苦労が水の泡だからしないけど!
取り返していただいた商品片手に、どう言えば皆さんの怒りが収まるのか考えていたら、突然ぽんと肩を叩かれる。同時にふわりと紅茶とシトラスの香りがした。
「……とりあえず、お店の店長に詫びさせましょうか」
麗しい声が耳のすぐ近くから聞こえてくる。
振り返ればあの和服美女がシトラスティー片手に、私の背後で妖しく微笑んでいた。
「ちょっと待ってください!いいことありませんよ!」
とりあえず商品だけ返していただければそれで構いませんから!
前のコンビニでも万引きはたまにあった。いわゆる常習犯もいて、その人来たら神経を余計に使うし警察に通報したところで結局何回も繰り返されるし……そしてその被害は地味とは言えない額だと店長がボヤいていたのを覚えている。
今回は、私が裏で飲み物作ってて、他のお客さんの視線はおそらく美女に釘付けだったから、あの万引き犯にとってはとてもやりやすかったことでしょう。ああ、腹立つ。同時に妙に嫌な予感がして焦っていた。
「待ってって言ってるのに!」
意外と足早いなあの万引き犯。嫌な予感が気になるけど現行犯は諦めるか……と思った時だった。
「ぐふっ!」
突然角から黒い影が飛び出してきて、万引き犯が横っ飛びに吹っ飛んだ。そしてそこで私は嫌な予感の正体に気付く。
……そうだ、事務所に近付いてたんだ。
「テメェ、止まれって言われてんだろうが」
「ウチのお嬢の手ぇ煩わせんじゃねぇぞクソ野郎」
その曲がり角から岩峰組の方々が出るわ出るわ……その数6人。皆さんこれまた見事に強面揃いでいらっしゃる。やはり顔採用なのか岩峰組。
万引き犯のサラリーマン風の男は、腹部を抱えてうずくまって呻いている。その状況でヤクザさん6人に囲まれるって、恐怖だね……と他人事のように思ってしまった。
そうしている間にヤクザさんの一人、安藤さんが万引き犯の頭をその革靴で思いっきり踏みつける。万引き犯は苦痛で顔を歪めていた。
……そういえば、夏のアスファルトって熱くなるよね。
よりにもよってなぜこの万引き犯は事務所の方へ向かってしまったのか。
「出すモン出せ。わかってんだろ」
「す、すみません、でした……」
「ああ?なんで俺に謝ってんだよ。詫びる相手が違うだろうが」
ぐりぐりと頭を踏まれ続ける万引き犯の手から鞄を奪い取ったヤクザさんから、スマホのモバイルバッテリーと充電器を手渡される。どちらもパッケージに入ったままの新品。コンビニで取り扱ってる商品だった。
「ど、どうも……あの、商品が戻ってきたら満足ですので、その辺で勘弁して差し上げてもいいと思います」
気付けば万引き犯は安藤さんに胸倉を掴まれ、完全に怯えきってもはや哀れ……あ、気絶した。
万引き犯に対し殺意は湧くけど、さすがに本気ではないというか、このままいくとそれが冗談にならないというか……
追いかけなければよかったのかもしれないけど、それは何か違う気がするし。
「楓様の店のモンに手ェ出したんですよ?まずは楓様に詫びるのが世界の常識です」
いや、コンビニは私の店じゃないですよ?あと世界の常識って、あなたはどこの世界にお住まいなんですか。
気絶した万引き犯は乱雑に地べたに落とされる。
「伸びちまったら詫びさせようにもできねぇな」
おい起きろ、とペシペシと気絶した万引き犯の頬を叩くヤクザさん。あの、気絶するほどの恐怖を味合わせた?のでもう十分です……
「楓様に腕掴まれて振り解いた時点で大罪です」
大罪の基準がわからん。というか、なんで腕掴んで振り解かれたこと知ってるんですか。そして私の名前を出さないでください。
「若頭ですら振り解かないのに、こんなクソ野郎ごときが振り解いていいモンじゃないんですよ」
……いや、仰ってることの意味がさっきからよくわかんないんですけど。どこの世界のどういう理屈ですかそれ。
なんかズレてると思っていたら、視界の端にちらりと銀色に輝く何かが見えた。
「とりあえず二度としないのを示すんなら、人差し指でいいですかね」
「いや、親指の方がいいだろ」
「小指の先から順番にやる方が奪われる恐怖ってモンを徐々に味わわせられるぞ」
いやいや、どの指も順番もアウトですって!なんだかデジャヴを感じる。指をどうこうするのお好きですか皆さん!え、気絶してても反省を示させる方法はそれしかない?
……気絶した時点で私的にはもう十分かなと思います!
私はとても頑張って皆さんを止めた。
なぜ万引き犯のために私がここまで頑張らなければならないんだ。まあ、これを口にして出してしまったら苦労が水の泡だからしないけど!
取り返していただいた商品片手に、どう言えば皆さんの怒りが収まるのか考えていたら、突然ぽんと肩を叩かれる。同時にふわりと紅茶とシトラスの香りがした。
「……とりあえず、お店の店長に詫びさせましょうか」
麗しい声が耳のすぐ近くから聞こえてくる。
振り返ればあの和服美女がシトラスティー片手に、私の背後で妖しく微笑んでいた。
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