性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜

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1巻

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「ええっ!」

 仕事からの帰り道、最寄りの駅からアパートに行く途中の潰れたパチンコ屋の前で私、沢木梢さわきこずえは変な声を上げた。
 幸い私の他に周辺を歩く人影はなく、奇声を誰かに聞かれることはない。

『――商品を一ダース購入したのですが、十箱しか届きませんでした。確認および早急に発送をお願いします』

 ……という、取引先からの苦情以外の何物でもないメールが会社に届いたらしい。
 それを知らせるメールが私に届いた。
 この注文、見覚えがある。新人の子に任せたやつだ。だいぶ仕事にも慣れてきたからやってもらったんだけど、まさかこんなわかりやすい発注ミスをするなんて。
 今から戻っても遅くなるし、会社に残っている人に対応をお願いするしかない。新人の子に任せたくらいだから、さして難しい案件じゃないし、やってもらえるだろうけど……これ月曜日に出社したとき、絶対何か言われる。
 思わずため息が漏れた。
 でも、起こってしまったことは仕方ない。もう金曜日の夜なので、今からでは配送業者の手配ができない。どう頑張っても納品できるのは火曜日かな?
 とりあえず、会社にいる人に対応をお願いしなければ。
 私はその場に立ち止まってささっとメールを作成する。幸い、状況を把握している人が残っていたのか、すぐに返事が戻ってきた。
 内容を確認しようとメールを開いた瞬間、急に目の前が明るくなる。向こうから走ってくる黒いボックスカーのライトだ。
 別に珍しくもないけど、まぶしいなー。そう思って車を見ている私の真横で、その車は急ブレーキをかけて停車した。驚いた私はその場で固まってしまう。
 そのボックスカーから見知らぬ男たち――いかにもガラの悪そうなチンピラ風の青年たちが降りてきて、私の前にふさがる。
 そして、ちらりと私の持っているかばんに目をやって、仲間同士でうなずった。
 え……まさか物盗り!? 私、大金なんて持ってないですよ! 持ってるように見えました?
 逃げなきゃと思うのに、体が動かない。

「あんたか。乗れ」

 の、乗れって……その車に乗るってこと? 知らない人の車に乗っちゃいけないことは、小さい子供でも知っているのですが。いや、あんたかって確認したってことは、私を誰かと間違えている?
 なんにせよ、乗っちゃまずい。

「す、すみませんっ!」

 なんで謝っているのだろうと思いつつ、逃げようと試みる。私は人通りの多い道のほうへダッシュを……できなかった。
 二の腕の辺りを掴まれて、つんのめりそうになる。

「今さらビビるなよ。それに、嬢ちゃんに用があんのは俺らじゃねぇ」

 用ってなんのこと? しかもこのチンピラたちの言い方的に、絶対人違いだ。

「ひと……むぐっ!」
「あんまり騒ぐな。おい、手伝え」

 人違いだと訴えようとしたのに、タオルのような何かを口に当てられて、羽交はがめにされた。こんなんじゃ、逃げるどころか叫ぶことだってできない。
 残りの一人が車のドアを全開にする。私はそのまま車の中に押し込まれた。

「んんー!」

 ドアが閉まる直前、大きい声を出そうとしたのに、口に当てられた布をさらに強く押しつけられてはばまれる。

「あんまり騒がれると面倒だ」

 私の口を押さえている男が、あごで指示を出す。何をする気なのかを確かめたくても、がっつり押さえられていて首を動かせない。

「暴れるな。着くまで大人しくしてろ」

 そんなこと言われても何がなんだかわからないし、着くまでって私はどこに連れていかれるの?
 人違いだと言う隙ができるどころか、口に当てられていた布ごと頭にひも状の何かが巻かれて、口をふさがれる。ついでとばかりに両足も縛られ腕を男に押さえ込まれて、私は完全に身動きが取れなくなった。

「着いたら外してやる」

 そう言うなり、男はふところからスマホを取り出してどこかに電話をかける。

「ええ、あと十分くらいでそっちに着きます。いつもと毛色違いますけど……はい、そうでしたね。失礼しました」

 電話の向こうの人の声は聞こえない。一体、何をしゃべっているんだろう。
 男は私が見上げているのに気付き、私の髪を掴んで下を向かせた。
 引っ張られると痛い……髪は女の命だと言うのに!

「すみません、兄貴。けっこうなジャジャ馬なんです。え、はい。わかってます。手は出してませんよ」

 ジャジャ馬って、私のこと? いやいや、この状況で平静でいられる人いる?
 男はそのあと少し会話を交わして通話を切った。
 そしてちらっと私を見下ろし、引っ張って悪かったと小声で謝る。そのまま何事もなかったように窓の外をながはじめた。
 謝るとこ、そこじゃないと思うんですけど……そもそもの人違いについて謝ってほしい。
 でも、人違いに気付いてないんだよね、この人たち。
 さっきの電話の相手――兄貴とか呼ばれてた人が連れてこいって言っているみたいだから、その人なら人違いってわかるはず。まずはこの誤解を解いてもらわないと、どうにもならない。
 問題は、人違いとわかった私がどうなるかだ。
 全面的にこの人たちが悪いと思うのだけど、果たして「人違いでした。すみません」とか言われて帰してもらえるんだろうか。むしろ余計なことを知ったせいで……いやいや、この先は考えるのやめとこう。いいことがなさすぎる。
 とにかく人違いだって主張して、目をつぶっていたので何も見てない聞いてないってことにしよう。
 そうと決まれば、腕を押さえられていて耳はふさげないけど、目を閉じておこう。さっきも見られるのは嫌そうにしてたし!
 そうして大人しくなった私を乗せた車は、何度も右折左折を繰り返し、夜の街を進んでいった。


「――着いたぞ」

 そんな声を聞いて、私はゆっくり顔を上げた。
 窓の外は薄明るくて、コンクリートの柱が何本か見える。どうやら地下の駐車場らしい。
 足の拘束を解いてもらうと、その代わりとばかりに手首を結束バンドで縛られた。口の拘束は取ってもらえない。人違いだって訴えようと思ったのに。
 兄貴とか呼ばれてた人に直接言うしかないのか。でも、直接言う前に人違いだからと、何も弁明もできないまま……そんなの嫌だ!
 心臓が耳元にあるみたいにうるさく鳴って、手足が震える。男たちはそれに気付いているはずなのに無視して、半ば引きずるように私をエレベーターホールまで連れてきた。
 男の一人が液晶パネルにカードをかざすと、チンという音と共にエレベーターの扉が開く。
 ……今気付いたけど、エレベーターの扉がいかにも高級って感じの上品な模様と色合いだなぁ。中も赤を基調にした豪華な雰囲気だ。
 ほうと内装を見ている間に、中へ押し込まれる。男の一人がついてきて、階数ボタンを押した。
 え、三十九階!? ボタン的にほとんど最上階だよ? 超高層ビル? 一体、ここどこなの!?

「兄貴、見えてますか?」

 硬直する私をよそに、男がエレベーターに付いているカメラとマイクに向かってしゃべっている。
 そうか、ここで確認を取るのか。
 ん? それなら、兄貴とやらと直接顔を合わせずに人違いだとわかってもらえるかも!
 私はさりげない素振りでカメラに映り込みそうな場所に顔を割り込ませてみた。
 男は怪訝けげんそうにしながらも、マイクに向かって話し続けている。

「車の中で暴れたので、ちょっと縛ってあります」
『わかった。今上げる』

 ……ええっ!? まさか、見えてない? ちゃんと映り込めなかったのかな。でも、カメラの位置的にそんなに動かなくても私の姿は映っているはずだし。
 私、どういう勘違いされてるの? それとも知らないうちにこの方々の不興でも買っていたのかな? 全く身に覚えがないですよ!
 戦々恐々としている間に、再びチンというベルの音がして、三十九階に到着してしまった。
 スッと音もなく扉が開く。私は恐る恐るエレベーターの外を見る。
 何ここ、部屋……?
 目の前にあったのは、だだっ広いリビングスペースのような部屋だ。窓でもあるのだろうか、正面は天井から床までシックなカーテンでおおわれている。
 その手前の、これまた何人掛けかわからないソファーに一人の男が腰掛けていた。男は私をちらりと見ると立ち上がり、そのまま真っ直ぐこちらに向かってくる。
 目付きの鋭い、長身の男だ。
 黒いスキニーパンツに白いYシャツというシンプルなちのせいなのか、彼がかもし出す独特の雰囲気――思わず後ずさりしたくなるような威圧感がストレートに伝わってくる。やっぱりヤクザ……いや、考えるのをよそう。

「そいつか」

 私を見下ろし、確かめるように男が言う。その低い声が私のことを指していると思うと、背筋が冷たくなった。
 にしても、ここまでがっつり見ても人違いだって気付かないの!? それともこの人も、顔を知らないの!?

「見ての通りです。ビビッたのか騒がれそうだったので、こんな感じに縛ってますが」

 その言葉と共に、私の青いかばんがぽいと床に置かれる。
 よかった。没収はされない……のかな?
 男はじっとかばんを見て、小さくうなずいた。

「戻っていいぞ。ご苦労だった」
「はい」

 私の後ろでエレベーターの到着を知らせるベルの音がする。同時に、私は男に腕を掴まれ、部屋の中に引っ張られる。
 男がリビングの奥にある扉を開けると、そこは寝室っぽい雰囲気……まさか、と思った私は全力で首を横に振り、その場から動くまいと足を踏ん張った。

「ん! んん!」
「なんだ」

 男はあからさまに機嫌を悪くしながらも、私の口の拘束を外してくれる。

「ひ、人違いです!」
「はぁ?」
「いや、だって、おかしいじゃないですか! 私が何したっていうんですか!」

 怖い。怖いけど、ここで言っておかないともうチャンスがない気がする。このままあの部屋に引っ張り込まれたら、絶対にまずい。

「私はただの会社員です! しがないOLです!」
「青いかばんに犬の飾り、ポニーテール。今日の女はそうだと聞いてるが」
「たまたまです! 偶然です! 私は基本そうです!」

 確かに仕事後だから髪の毛をひとつにくくっているけど、ポニーテールじゃありませんよ? くくっているせいでそう見えるの? 
 でも他の条件についてはあっている。通勤用のかばんこんに近いものの青で、飾りというか目印に付けているキーホルダーはダックスフンド――犬型だ。

「何かの間違いです!」

 私の全力の訴えに、男は何かを考えるそぶりを見せる。やがてポケットからスマホを取り出して画面を確認すると、小さく舌打ちをした。

「チッ……マジっぽいな」

 いったい何を確認したんだろう。いやいや、私が気にすることじゃない。とりあえず、人違いだってことはわかってもらえた。

「私は何も見てません! 聞いてません! 全部忘れますから、帰してください!」

 完全に人違いと判明したところで畳み掛ける。私なんか殺したって後始末が面倒なだけだ。何事もなく帰してくれれば、悪い夢でも見たということにすると叫ぶ。
 そして、男の反応をうかがった。
 彼はじっとスマホの画面を見て考え込んでいる。

「とりあえずこれを外していただけたら、自力で帰ります」

 車で十分くらいだったから、その気になれば徒歩でも帰れるはず。無理そうならタクシーでもいいや。タクシー代くらいある……と、そこで迷惑料って言葉が脳裏をよぎった。口には出さないけど。

「それに私なんて……ぎゃっ!」

 きっと楽しくないですよ? そう続けようとしたところで、突然抱き上げられる。そのままぽんとベッドの上に投げ出された。
 急すぎて動けない。
 私は横向きに転がされたまま男を見上げる。明かりのついていない、暗い部屋だから、男の表情はわからなかった。

「え……その、人違い、なんですよね?」
「ああ」
「確かめたんですよね?」
「ああ」
「するんですか」
「ああ」
「なんで……」

 この男はいわゆるデリヘル的な女の人を呼んだのだろう。そっちのことは、そっちのプロにお任せするほうがいいに決まってる。今頃、さっきまで私がいた場所でプロのお姉さんが待っているはずだ。その人と私を取り替えればいい!

「今確かめたらそいつ、バックレたらしい。仲介屋も連絡がつかねぇって言ってる」
「だからって……」

 おかしいでしょうそれは! こんな高そうなマンションに住んでるんだから、新しく私より若くて美人でボンキュッボンな女の人を呼べばいいじゃないですか!

「顔とか胸はよっぽどじゃなけりゃいい。要はヤれりゃいいんだよ」

 そう言われた私は、必死で反論した。

「だからってわざわざ私にする必要ないでしょう! 美味おいしいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」

 ……嘘でしょ。
 そこでベッドがギシリと音を立てる。男が私の上におおかぶさるようにつんいになったのだ。

「ちゃんと金は払う。人違いしたびだ。払うはずだった金の倍額――十五万、仲介屋には取られねぇから丸々お前の手元に残るだろ。信用できねぇなら先にお前のかばんの中に入れといてやろうか」
「え……」

 突然飛び出した大金に、私は思わず唾を呑んだ。十五万円って、ほとんど私の月の手取り。
 にしても倍額ってことは、呼ぼうとしていたお姉さんは七万五千円……って、いやいや、これはお金とかそういう問題じゃない!

「そんな大金、いらないですから。そのお金で別の人呼んだほうがいいです!」
「大した額じゃねぇ」

 くっ……金持ちめ!
 だめだこの人、全然話を聞いてくれない!

「だめです……ひゃっ!」

 まだ話している途中なのに、いきなり服の上から胸を掴まれた。私は叫び声なのか驚きの悲鳴なのかわからない声を上げる。
 すると、その手はすぐに離れた。

「……お前、処女か」

 しょじょ……?
 男の発した単語の意味を理解するのに五秒ほどかかる。
 いや、さすがに単語自体は知っているけど、今の状況に結びつけるのに時間がかかったのだ。

「……どうなんだ」

 しびれを切らしたように男が再び問いかけてくる。当然、素直に答えられるはずがない。

「な、なんで言わなきゃいけないんですか!」
「そりゃあ、処女の中にゃいきなり突っ込めねぇからだよ。その反応は処女か」

 つ、突っ込む……
 私の頭の中で今話題の漫才師が相方の頭にハリセンをたたむ図が浮かぶ。けど、絶対違う。わかってる、わかってますけど!

「処女がどんなもんか、やってみるのも悪くない。だがまあ、お前にとっちゃ初めてか。わかった、もう十万付けてやる」

 十万って、元が十五万円だから二十五万円……? ついに私の月収を超えたよ。だからっていいわけないけども。
 男の息遣いがすぐ近くで聞こえる。胸以外はまだ触れられていないものの、このままじゃまずい。そう思うのに体は動かなかった。

「一回だけだ。俺はどの女も一度しか抱かねぇ。無駄につえぇ性欲の処理だ。正直誰と何回ヤっても構わねぇが、顔が割れる二回目以降は避けたい。後腐れはねぇよ」

 男の顔が私の耳元に近づく。
 恐る恐る顔を上げると、薄暗さに慣れてきたからか、徐々にその顔が見えてきた。
 聞き分けの悪い子供に言い聞かせるみたいな、何かをこらえている彼の表情。暗い中で見える鋭いその目は、逃す気はないと雄弁に語っている。

「い、いやっ!」

 私は咄嗟とっさに逃げ出そうとした。といっても後ろ手で拘束されていて、手は使えない。
 とにかく起き上がって、男から、この空間から離れなければ。そう思っての行動だ。攻撃するつもりはなかった。それなのに、ゴツンと鈍い音とうめごえがして、私の側頭部に痛みが走る。
 頭を押さえたいのに、それは叶わない。
 何が起こったのか確かめようと目を開ける。
 すると、私の目の前に男の顔があって、その唇の端から一筋の血が垂れていた。
 男はそれをすぐにめとったけど、その一瞬の光景が鮮烈に私の中に刻み込まれて消えない。
 ……この男には、血が似合う。
 それに気付いてしまった。
 体が石にでもなったみたいに動かなくなって、男の顔から目をらせない。

「確かにこりゃあ、なかなかのジャジャ馬だな」

 男は低く笑うと、硬直する私の肩をぐいと押す。

「大人しく言うこと聞いてりゃ、すぐ済んだかもしれねぇのに」

 ギラギラ光る男の目に見下ろされて、私は自分が完全にこの男の支配下にあることを思い知った。
 再びベッドの上に押し倒される。そして男は慣れた手つきでスカートの中に入れていたブラウスとキャミソールを引っ張り出してまくり、ブラジャーをがすように持ち上げた。
 男の手の甲が胸の先に触れる。私の口から短い悲鳴が漏れた。それを気にする素振りも見せず、男はさらにブラジャーを上に押し上げる。
 空調の効いたひんやりとした空気が素肌に触れた。
 まくられた服で隠れているから確認できないけど、私の胸が男の目にさらされているのがわかる。

「む、無理です! やめてくださいっ!」
「まだ何も始まってねぇだろ」

 男は私を片手で押さえ込み、お腹の上に馬乗りになった。体重はほとんどかかっていないものの、布越しに伝わってくる体温が生々しい。私は半泣きになりながらめちゃくちゃに叫んだ。

「嫌! こんなのわかんない!」

 腕を振って拘束から逃れようとしているのに、屈強くっきょうな男の腕はピクリとも動かない。

「離してくださいっ! 怖いんです! わかんないんです!」
「諦めろ。生憎あいにくだが力でお前に負ける気はねぇし、離すつもりもねぇ。それに、誰だって初めてはわかんねぇもんだろ」
「でもっ……こういうのはちゃんと好きな人とって……!」
「だから言ってんだろ、後腐れのないようにするって」
「そういう問題じゃ……ぁっ!」

 言い返そうとした瞬間、男はいているほうの手で私の肩を掴む。怖くて、私はとうとう動くのをやめて、おびえた視線で男を見上げた。
 男は目をらすと、代わりに私の胸の先端を指の間で挟んでそのままやわやわとはじめる。

「だめっ! そんなとこ……んんっ! あぅ……」

 これっぽっちも気持ち良くなんてない。これは、あり得ない場所に触れられて漏れている声。なのに、反応しているみたいで嫌だ。
 慣れればこんな声出なくなる。そう思っていたのに、触れられるほど自分の声が湿しめってくる。むしろ慣れてしまったからなのか、男の指の動きがまるで見えているようにわかってしまう。
 指先でつつくようにしたかと思えば、指の腹で挟んでこするように転がされる。ついで爪を立てられ、まるで電流が走ったみたいに全身が震えた。

「いい感度だ。素人しろうとは時間がかかるかと思ったが……この調子なら最後までいけそうだ」

 男はここで初めて笑みを見せる。けどそれは、これまでの無表情や不機嫌そうな顔よりも怖かった。

「だめ、です。怖い……」

 つい口に出てしまう。

「確かに最初は怖いだろうな。俺みたいな見ず知らずの奴に犯されるんだから。でもまあ、人違いしたびに優しくしてやる。存外感じやすいみたいだし、大丈夫だろ」

 言ってることが無茶苦茶だ。びなら普通に家に帰してほしい。優しくされたって、結局犯されるなら意味ない!
 そう言いたいのに、口からあふれるのは意味を成さない文字の羅列られつと熱をびはじめた吐息だけ。

「んっ……ああ……」

 抵抗しなきゃと思っても、体から力が勝手に抜けていく。いっそこのまま抵抗せずに全部終わるまでされるがままになっているほうが、疲れないし早く済むなんて考えてしまう。
 それに、男の好きにさせておくだけでウン十万円というお金が手に入るんだ。私の処女に対する金額としては十分すぎる。
 くたりと力を抜いた私を見下ろして、男は満足げに微笑ほほえんだ。

「いい子だ」

 耳元で唐突にそうささやかれる。熱っぽい吐息が耳にかかって、私の体はピクリと強張こわばった。

「ひゃっ! んん……な、んで……」

 男はそのまま私の耳をその薄い唇で挟むと、わずかに舌を出し、ふちをなぞるようにゆっくりとめる。水音がすぐ近くで聞こえた。
 続いて歯が立てられ、わずかな刺激に私は短い悲鳴を上げる。すぐに男は私の耳から口を離した。

「……お前を抱くのを止める気はねぇが、痛めつけたいわけじゃねぇよ。優しくするって言ったしな。痛かったら言え」

 無理やり抱くのはよくて、私が痛い思いをするのは気にするの? 確かに私を押さえるとき、怖いと感じても痛くはされなかった。
 思わず目を見開き男を見つめる。男は私の頬に手を当てると、親指で私の唇にそっと触れた。

「まあ、応えられねぇ場合もあるが、そこは我慢してくれ」
「それ、どういう……んん、ひゃ……」

 付け加えられた言葉がどういう意味なのか尋ねる前に、男は再び私の耳をぬるぬると舌先でいじる。歯を立てない代わりと言わんばかりに、舌先が私の耳の中に入り込んだ。

「い…………あ、ふああっ!」

 そして突然、フッと息を吹きかけられて、私はみっともなく甘い声を上げた。
 男の息がかかるたびに、濡れた部分がひやりとする。男はその反応を楽しむように私の耳を軽く引き、さらに奥へ息を送った。

「やめ、それ、やめてぇ……」

 頭がおかしくなりそうだ。耳から脳に妙な薬でも送り込まれているんじゃないかって、馬鹿な考えが浮かぶ。
 男は私の唇に当てていた親指を口の中に滑り込ませて、ほくそ笑む。

「やめてほしい? 嘘言うな。気付いてねぇのか、さっきからお前の声、めちゃくちゃエロいんだよ」


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