性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜

文字の大きさ
2 / 30
1巻

1-2

しおりを挟む
 エ、エロいって……そんなの知らない、わかるわけない。エロいのはあなたのほうでしょ!
 そう言いたい。
 けど、言ったところで、平然と「そうだが何か?」と言われて終わる気しかしなかった。

「……なぁ、気持ちいいって言えよ」

 男は私の舌を親指でゆっくり押す。

「早く楽になりたいんなら、素直に感じて俺によがれ。俺だって早くお前の中にれてぇんだよ」

 そう言って男はゆっくりと足の力を抜いた。それまではなかった、男の体重がかけられる。股間を押し付けられ、布越しに伝わってきていた男の熱がより強くなって、さらにはその質感までわかった。
 まるでそこだけ得体の知れない生き物のようにうごめく。私は声を上げるけれど、舌を押さえ付けられた状態で話せるはずがなく、意味を成さない音が唇の間を抜けて出ていった。息が苦しくなって空気を吸おうとしても、思い切り吸うことはできない。

「こういうわけだ。だからお前も恥ずかしがるな。言ってみろ、どこをどうしてほしいか」

 男は熱っぽくそうささやくと、硬く熱をびたものをさらに押し付けてくる。舌が自由になった私は、やっと思ったように息を吸うことができた。
 どこをどうしてほしいか? そんなの決まってる。

「外して……これ、外してください!」

 私は背中のあたりで拘束されている腕を男にわかるように少し振る。
 けれど、懇願こんがんする私を見下ろしていた男は、一瞬固まった後、なぜか笑い始めた。

「ははっ、ここでそれって……お前、俺が言ったことの意味、わかってんのか?」
「だから、どうしてほしいかお願いしてるんです!」
「確かにその通りだ。その腕のやつも取らねぇとな。でもよ、俺がお前に言わせてぇのは――」
「この状況で頼むことは、まずそれでしょう!」

 それとも何? この男は縛ったままが好きとか、そういうのなの? 縛られてやられるのなんてすごく嫌だ。ていうかさっきから地味に痛い。

「お前はジャジャ馬だが、俺にそういう趣味はねぇから」

 ……さっきから思ってたけど、誰がジャジャ馬だ! そりゃあ誰だって抵抗するでしょう。この状況だったらさ。まあ外してもらえるってことだから余計なことは言わない。

「待ってろ。切るもん持ってくるから」

 男はゆっくりと体を起こして、私から手を離す。

「逃げようとか考えるだけ無駄だからな」

 ベッドから降りるときにそう言い残して、寝室を出ていった。
 逃げようにも腕を縛られたままじゃろくに動けないし、そもそも乗ってきたエレベーターが私に動かせるかわからない。階段を探す暇なんてなさそうだし、ここから逃げるなんて無理だ。
 私は男の出ていったほうを見る。明かりが見えるけど、目に映る範囲に男の姿はない。ハサミか何かを探しているんだろう。
 私はこのまま、犯されてしまうのだろうか。
 ドン引かれるレベルで泣き叫んで拒絶したら、もしかすると諦めてくれるかもしれない。でも今さらだし、そもそも泣き叫べない。恐怖としゅうはあるけど、不思議ともう涙は出てこなかった。
 頭の一部の妙に冷静な部分が、大人しくこのまま抱かれてしまえと言っている。ちょっと我慢すれば二十五万円手に入るんだ、と。
 だが同時にそう簡単に割り切れず、どうしても足掻きたくなってもいた。なぜこんなことになってしまったのか? ついため息がこぼれる。
 そこで突然部屋が明るくなって、私は目をまたたかせた。寝室の入り口で電灯のパネルを操作する男の姿が目に入り、私は思わず叫ぶ。

「なんで明かりつけるんですか!」

 服はぐちゃぐちゃで胸ははだけられたまま。こんな姿、誰にも見られたくないのに! というかこの男のせいなのに!

「これ使うのに手元が見えねぇだろ」

 そう言って男が見せたのは、ハサミではなく針金などを切るニッパーだ。確かにそれのほうが切りやすいけど、この男が持っていると妙に迫力がある。というか、この男だったらたとえはしを持っていても怖いかもしれない。

「安心しろ、最終的に全部脱ぐことになるんだ」
「それのどこに安心できる要素が!?」

 思わず突っ込んだ私を見下ろしながら、男は低くくぐもった声で笑う。

「諦めな。あんまり抵抗するんだったら切ってやらねぇぞ?」

 面白そうにそう言うと、手にしているニッパーを器用にくるくる回した。そうしてパチリと音を立てて私の腕を拘束していた結束バンドを切る。ようやく自由になった手を見ると、手首にうっすらとあとが残っていた。

「……ありがとな」
「へ?」

 突然つむがれた感謝の言葉に戸惑とまどった私は、我ながら間抜けな声を上げる。
 男は役目を追えたニッパーをベッドの下に投げ込むと、ゆっくりとベッドに腰を下ろす。

「これ切れって言ったときのお前、色気もクソもなかったからな。おかげでちょっと落ち着いた」
「あ、そうですか。落ち着いたならよかったですね」

 ありがとうはそのお礼ですか。それなら私はこれで、と身動みじろぎする。

「だからって、もういいとは言ってねぇぞ」

 ところが男は、そう言って私の腕を掴んだ。頭が追いつかないでいるうちに、私は男の屈強くっきょうな腕に抱かれていた。
 照明がつけられ、さらに起き上がっていたせいで、すぐ近くにある男の顔がよく見える。
 こめかみや耳の下、首……男の顔には新しいものから古そうなものまで、様々なきずあとがあった。少しはだけた首元から覗いているのは、火傷やけどあとだろうか。
 私はとんでもない男に抱かれそうになっているんじゃないかと、改めて実感する。

「なんだ、抵抗はやめたのか?」

 呆然と見つめるだけになっている私の腰を抱きながら、男が可笑おかしそうに笑った。
 軽い、からかうような笑い方なのに、その瞳の奥には欲情が見え隠れしていて、ゾクリとする。
 後になって思えば、私はこの時点で男を許したのかもしれない。
 今までこんなふうに誰かに見つめられたことなんて、ここまで強く求められたことなんてなかった。
 私は肯定も否定もせずに男から目をらす。

「好きにしろっつうことでいいんだな?」

 男は試すように言うと、私の腰に回していた腕を胸元に移動し、再び胸をもてあそはじめる。
 男の手の中で自分の胸が形を変える。自分の体なのに自分のものじゃないみたいな、奇妙な感覚。
 けれどその手付きが優しいからなのか、不思議とやめてほしいとは思わなかった。鼻にかかったような声を上げながら、私は男のすることを感じている。
 吸血鬼がするみたいに首に歯を立てられ、胸の先端を指先で転がされた。耳殻にも息を吹きかけられる。腕を縛られていたときにもされていたことなのに、今度はむしろ男に身を任せ、されるがままになった。

「んっ……」

 男はすっかり硬くなった胸のいただきに舌をわせて、包み込むようにめ上げる。彼はわざと音を立ててむさぼるように口に含む。

「ここまで大人しくなられると、かえって張り合いがねぇな」
「張り合いって、あなたがそうしろって……」

 正直なところ、自分でもなぜここまで大人しくしているのかわからなかった。
 お金のためにしては、やるせなさとかむなしさを感じない。この男に抱かれたいのかといえばそうでもない。今ここで急に男の気が変わって帰れと言われたら、私はそうする。

「まあ、いいさ。最後までできれば俺はそれでいい」

 男の手がスカートに添えられた。そのままするりと中に入り込んだその指先が、下着越しに私の秘部に触れる。誰にも触られたことのない場所。

「ひぁっ! やめ……そこは……っ」

 なぞるようにこすられただけなのに、摩擦まさつで燃え上がったみたいにそこが熱くなる。下腹部がきゅっと締め付けられたような感覚は、私の全身をしびれさせ脳をつらぬいた。
 たぶん、私はこの感覚を一生忘れられない。それくらいの衝撃だ。

「イッたのかと思ったが、さすがにまだだよな」

 男が何かを言っているものの、頭の中に綿でもまっているみたいに何も考えられない私の耳には届かない。

「この程度でヘタッてたらもたねぇぞ?」

 耳元で男の声がする。
 なんでこんなに近くで声がするんだろう。
 私は自分が男にすがりつくような格好になっているのに気付いていなかった。何かに掴まっていないと落ちてしまう気がして、男のシャツを握り締め、その肩に顔をうずめる。
 男は私の様子を見て短く息を吐いた。それは呆れているというより、何かをこらえるみたいなため息だ。

「お前を襲ってるの、俺だぞ。お前……犯し甲斐がいありすぎだ」

 低くささやかれたその言葉は、粘度の高い蜜のように私に絡みつく。
 男が私を抱いたままゆっくりと体を倒す。お互いに向かい合って寝ているようになったのは一瞬で、すぐに体を起こした男は横倒しになっている私の上におおかぶさった。


 ――気付けば、私は荒い息を吐きながら指を受け入れていた。
 ずらされたショーツの間から入り込んだ男の指が私の中をかき混ぜるように動く。触れられた部分がじりじりと熱くなっていく。
 これが、いわゆる感じているっていう状態なのかな。
 触れられるたびに自分のものじゃないみたいな甘い声が漏れて、下腹部が熱をびていく。
 指なんて明らかな異物なのに、嫌じゃないと感じる自分がいた。
 今行われている行為以外のことが考えられなくなって、私は男のシャツをさらに強く握り締める。そうでもして意識を違うところに向けないと、おかしくなりそうだ。

「いい感じになってきたな」
「も、やめて……ひぁっ!」

 せめて声だけでも抑えようと歯を食いしばってこらえていると、それまで添えられているだけだった指が突然花芯に触れた。想像もしていなかった刺激に、理性も何もなくみだらに体が震える。
 さらに男の指が一本から二本に増やされて、私はいよいよこらえ切れなくなった。

「だめ……もう、これ以上しないでぇ……!」

 男の肩にしがみついて懇願こんがんする。これ以上は無理だ。指だけでこんなになるなら、このあとなんて絶対無理。どうにかなってしまう。

「ごめんな、さい。やっぱり私に、は……んんっ!」

 うまく呼吸ができない。自分の体に自分がついていけなかった。
 体をよじって男の指を抜こうとしたのに、駄目だと言わんばかりに男の指がさらに奥へと入り込む。

「ここまで来てそりゃねぇだろ。お前は感じてるだけでいい」

 そう言って男はわざとらしく水音を立てて私の秘所をまさぐった。触れられると一番ぞわぞわする部分をわかっているように、重点的にそこを指の腹でこする。

「はっ……ん、やああっ!」

 私の中に蓄積されていた熱が、せきを切ったようにこぼた。刺激が脳天を突き抜けて鳥肌が立ち、全身の皮膚がピリピリとしびれる。
 頭の中が快楽に支配されて、全身から力が抜けた。
 私が荒く息を吐く以外の音は、部屋から消え失せたみたいだ。奇妙なくらい静かで、耳が痛い。
 どれくらい時間が経ったんだろう。異様に長く感じただけで実際は数十秒ほどのことだったのかもしれない。
 ゆっくりと私の中から指が抜かれる。それによりあふれたぬるい液体が、太腿ふとももを伝ってシーツにシミを作った。
 男は上体を起こすと、私のショーツに指をかけて一気に引きずり下ろす。そして私の膝の裏を掴んで広げた。ついさっき出会ったばかりの男の前に、自分の秘所がさらされる。
 触れる空気でさえも刺激になって、再び温い液体がこぼれ落ちた。
 広げられた足の間に男が腰を落とす。冷静に考えなくても、とんでもない状況なのはわかる。
 でも、カチャカチャと音を立てて男が前をくつろげ、赤黒く屹立きつりつしたものがあらわになっても、逃げるという考えは浮かばなかった。
 その先端が私の中に入り込んで初めて、私は抵抗した。

「待ってっ!」

 熱のかたまりが入り口をふさいで、じりじりと奥に侵入してくる。まだ先端なのに指とは比べ物にならない圧迫感と熱量。
 私は逃れようと腕に力を込める。けれどなけなしの力でも、男の腕に敵うはずがない。

「痛い! ねぇ、抜いてぇっ!」

 私の中は、男のものを受け入れるには小さすぎるんだと思う。それを無理やり広げるように押し入られて、ピリッと破れてしまうんじゃないかと怖かった。
 男の胸に手を伸ばしてぐいぐいと押すものの、男はピクリとも動かない。けれど、私があまりに嫌がるからか、男はため息をついて動きを止める。

「大丈夫だ。さすがに壊しはしねぇよ。できるだけゆっくりやってやるから、力抜け」
「む、無理……入れるなんて、あんなの……」

 さっき見たくなくても見えてしまったこの男の一物は、どう考えても指より太くて長かった。しかも私はセックスなんてするの初めてだ。いきなりあんなのが入るわけない。

りきみすぎなんだよ。そういう風にできてんだから、ちゃんと入る。俺が保証してやるよ」

 そんなこと保証されても嬉しくなかった。というか、こんなにも痛いのに信じられるわけがない。

「私じゃ、無理です。ごめ、んなさい」
「……なんでお前が謝るんだ」
「だって」

 たぶん、私は軽く考えていたのだ。彼氏のいる友達からたまにそういう話を聞くけど、そんなにつらいとかは言ってなかったから。

「初めてなら仕方ねぇよ。むしろ、俺なんかで悪かったな」
「そういうこと言ってるんじゃ……いっ!」

 男が再び動き始めて、私は痛みで顔をゆがめた。
 無理だって、こんなの。
 やり場のない苦痛を、男の背に爪を立ててまぎらわす。それなりに痛いはずなのに、男は一切そんなそぶりを見せなかった。むしろ、それで気がまぎれるならそうしろとでも言うように、私のほうへ体を倒す。

「……っ、あ……んん」

 やがて奥に触れたような感覚で、男の動きは終わりを迎えた。
 それを合図に、ただでさえ圧迫している男のものを私の中が一層強く締め付ける。同時に感じたしびれるような甘い快楽が痛みを上回って全身を支配した。
 男の表情が苦悶でゆがむ。この男の苦しげな顔は初めて見る。

「なんなんだよ、お前」

 必死に何かをこらえているような表情で、男はさらに奥へと自分のものを押し込んだ。
 つい数十秒前の私なら、そんなことをされたら痛みのあまり叫んでいただろう。けれど今は鈍い痛みを感じるだけ。むしろ全身を巡る快楽で心地よくすらある。
 そしてついに男のものがすっかり私の中に収まった。互いに完全に体を密着させながら、私たちは荒く息を吐いて見つめ合う。
 時間が異様にゆっくりと流れる中で、男がまばたきをする。その問いかけるような視線に対して嫌だと首を横に振ると、男はゆっくりと私の中に収まっていたものを抜いた。
 抜き出されたものは、最初に見たときより明らかに質量も熱量も増している。

「お、わり……?」

 体の中に残る快楽が麻酔代わりになっているからか、膜をへだてたように痛みは鈍い。
 終わったのなら、と全力疾走した後のような心地いい疲れとまどろみに身を任せようとした瞬間、男が再び私の中にさらに大きくなったそれを入れた。

「ひっ……ああっ!」

 予告なく入れられたそれは、ズブズブと私の中に押し込まれていく。一度入ったからか、さほど抵抗もなく再び奥に収まった。

「お前の中、最っ高に居心地いいな。さっきは持ってかれるかと思った」

 そう言って男は腰を動かし始める。きついからか、ゆっくりとだ。それがかえってらされているようでもどかしい。
 痛みはもうほとんどなかった。体の芯からゾクゾクする感覚に支配されて、私はおかしくなってしまったみたいだ。
 すっかりほぐれたところに、男がとどめのように剛直をたたける。激しく暴力的な快楽に連続して襲われた私は、意識を保とうとするのを諦めた。
 やがて私の中で男の欲望が弾ける。ほとんど同時に私はそれ以降の記憶を失った。


     ‡ ‡ ‡


 目を覚ましたのは、知らない部屋だった。
 寝ていたのはシンプルなベッドの上。ビジネスホテルみたいな部屋に、私はいた。
 ぼんやりする頭の中に、記憶が途切れる前の一連の出来事が映像として流れていく。
 もしかして全部夢だったんじゃないかなという希望は、全身の倦怠感けんたいかんと下腹部に残る痛みに否定された。
 私は起こしていた上半身を再びベッドの中に埋める。恥ずかしいとかそういうことを思う以前に、体が疲れすぎていて何もしたくない。
 そうしてただ天井の汚れをながめるだけで時間は過ぎていく。ようやく動こうと思えたのは、窓から差し込む光が私の顔にかかり、まぶしくなった頃だ。
 辺りを見回しても男の姿はなかった。部屋も全く見覚えがない。
 どうやら私は疲れ切ってほぼ気絶同然に寝ていた間に、どこかのビジネスホテルに移動させられたらしい。その証拠に、サイドテーブルの上には私のかばんと並んで、部屋番号の書かれた木製のキーホルダーがついたルームキーが置かれている。

「……あれ、って」

 加えて、かばんの中には、見慣れない茶封筒が突っ込まれていた。
 私は動きたがらない腕を無理やり持ち上げてそれを手に取る。
 妙に厚みのある封筒だ。面倒で、ビリビリと端を破り、中に入っているものをベッドの上に出す。
 紙の束が音を立ててシーツの上に落ち、そこでようやく私ははっきりと目を覚ました。

「うわ……」

 封筒の中に入っていたのは札束。私は、あの男に買われたんだ。
 恐る恐るその紙幣を手に取って枚数を数えていく。確か、二十五万円って言ってたけど……私なんかの処女にそんな価値はあったんだろうか。

「……二十三、二十四、二十五……!? え? これで半分?」

 最後まで数えてみた結果、一万円札が五十枚――五十万円だった。
 倍になってる。
 うっかり何かの手違いで、違うとこに持っていく封筒を私のかばんに突っ込んだとか? だって昨日のあれで五十万って……確かに一方的に色々とされたけど、ほとんどされるがままで、私自身が何かしたかといえばそんなことはないし、当然、特殊なプレイをいられたわけでもない。
 何かの間違いじゃなかろうかと茶封筒の中を覗き込む。底にコピー用紙をちぎったみたいな白い紙と錠剤が入っている。指を封筒の底に突っ込んで紙のほうを取り出した。
 殴り書きで、料金は支払い済み、チェックアウトは十四時だからそれまで好きに使え、上乗せで五十万といった内容が書かれている。
 どうやらこの五十万円は間違いなく昨日の行為の対価らしい。
 いやいや、ありがたい……のかな、これ。というかこのお金の出処でどころが怖いんですけど。
 すごく使いにくいお金だ。借金抱えて困ってるとかいった事情はないし、とりあえずこれはへそくり的な感じで引き出しの奥にでも入れておこう。
 私は慎重に札束を茶封筒の中に戻す。中のお札がはみ出て見えてしまい、適当に封を破いたのをちょっとだけ悔やんだ。

「はぁ……」

 かばんの中に封筒を入れ直し、長く息を吐いてベッドに倒れ込む。首だけ動かしてベッド脇の時計を見た。
 時刻は午前十一時。昨日のあれが一体何時に終わったのかは記憶にないけど、結構遅くまで寝てしまった。
 今日が土曜日でよかった。平日で出社だったら絶対仕事なんてできなかった。全身が筋肉痛みたいだし動く気力もない。
 ……そういえば、服は?
 そこまで考えて、私はガバッと跳ね起きた。服を着た記憶がない。素っ裸のまんまとかだったらどうしよう……。その心配は、幸い杞憂きゆうに終わる。
 なぜか、なぜか、私はこのホテルのそなけらしきバスローブを身につけていた。さらに、昨日着ていた服はきちんと折りたたまれて椅子の上に置かれている。
 とりあえず、帰りはどうしよう問題は片付いた。でも、ここで疑問が一つ。
 そもそも私はどうやってここまで運ばれたの?
 移動させたのは、きっとあのマンションの場所がバレるのを避けるためだ。兄貴と呼ばれる、あの男は明らかに訳ありだったし。狙われてるとかそういう込み入った事情があるに違いない。もう関わることはないだろうから詮索はしないけど。
 え、まさか素っ裸でここに運ばれた感じ? あのあと、そのまんま?
 それにこれまで気付いてなかったけど、私の体けっこうよろしくない。汗でベタベタしているし、あの部分に至ってはまだ湿しめり気をびている。
 ……この状態で放置するとか、ちょっと許しがたいのですが!?
 まあだからといって、きれいさっぱりしてたらそれはそれで怖い。
 やっぱり今回のことについて深く考えるのはやめよう。精神的にそのほうがいい気がしてきた。
 疲れてはいるものの、不思議と気分は悪くない。
 かなり強引なセックスだったとはいえ、最終的に私自身も気持ちよくなってたところもある……うん、きっとそういうことだったんだ。むしろいい年して未経験、ということにならなくてよかったんだきっと。そんなこともあったな程度に思っておこう。
 そのあと、アフターピルだった、あの錠剤を呑む。
 せっかく起き上がったことだし、シャワーでも浴びようかなとベッドを降りる。
 けれどうまく足に力が入らず、私はベッドからずり落ちるように床に移動。いずってシャワールームに向かうことになった。
 結局このホテルを出る準備が整ったのは午後一時を回ってから。しかもろくに動けないから、部屋を出るときにホテルの清掃員の人の視線が大いに刺さって、それが一番恥ずかしかった。




   2


 勘違いであの男に買われてから、はや一週間が過ぎた。
 何事もなかったみたいに月曜日から仕事。注文のリスト作成や先方とのメールのやり取り、クレーム対応に新製品のチェック。その他諸々もろもろの業務をこなしているうちに、再びやってきた金曜日。
 私の中に残滓ざんしのように残っていた熱は、日常にけてほとんど消えていた。
 一時間ほど残業をして、夕ごはんは外食で済ませてしまおうかななんて考えながら、いつもの帰り道をてくてく歩く。すると、あの潰れたパチンコ屋の前にボックスカーが停まっているのが見えた。
 気にせず通り過ぎようとしたそのとき、ボックスカーのドアが開く。ものすごく見覚えのあるチンピラ三人組が私の前にふさがった。
 何、このデジャヴ。

「あーっと、先週はすみませんでした」

 申し訳なさそうに三人組のリーダーっぽい男が言う。
 まさか、先週の人違いを今謝りに来たの? 遅くない? 謝罪系の対応は可能な限り早くが基本でしょう。
 そう思えるくらいには、私に余裕はある。だって二度目だし。
 もうほとんど気にしていないのに、なぜわざわざ謝りに来たのかとすら思っていた。

「別に、もう構わないんですけど。それだけでしたら失礼します」

 もしかしてこのパチンコ屋の前が女の人と待ち合わせる場所になってるのかな。それで私の姿が見えたものだから謝ろうとしてくれたと、そういうこと?


しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。