腐れヤクザの育成論〜私が育てました〜

古亜

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閑話

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俺は榎木猛。荊棘野組の組長、深田慎の補佐をしている。

このところ、頭の様子がおかしい。
時間さえあればスマホを眺めて険しい顔をしているのである。
険しい顔をしているのは今に始まったことではないが、どうも気になる。
そして今日、その原因の一端が明らかになった。
頭は俺を伴ってとある大学の学生に会いに……というか、結構無理矢理話をしようとしていた。
こんな学生ひとり、しかも女に何の理由はわからないが、頭に命じられた以上は、この女の足止めを遂行しなければならない。

「いや、これから私バイトで……」

しかしどこからどう見ても、どこにでもいそうな大学生だ。まさか愛人か?あの頭の?
とりあえず鞄を掴んで足止めをしていたら、頭が運転する車が来た。
頭は窓を開けて女に乗るよう促したが……

「え、ちょ……そんなこと言われても、私ちゃんと消しましたよ?もしかして他に目撃者が?」
「勝手に消すな」
「いや、不快だったんですよね?」

目撃者?不快?消す……?
いったい、頭はこの女と何の話をしてるんだ。

「んなこと言ってねぇだろ」
「でも、あんな扱い受けたら……消すだけじゃ足りないってことですか」

どういうことだ?頭が「あんな扱い」だと?それを消すだけじゃ足りない、何かの報復の話をしているのか?

「あの、そろそろバイトに行かなきゃ行けないんですけど」
「送ってやるから乗れ」
「着替えが自宅に……」
「寄ればいいんだろ」

着替えが必要なバイト、汚れる事が前提ってことだよな。そして頭もそれをわかっている。
まさかこの女、俺の考えが正しければ……

「頭の身に何かあったら……」
「私の身に何かあったら……」

ん?
なぜか女とシンクロした。
ここまでの会話からして、この女は学生の皮を被った「掃除屋」に違いない。
そんな女と頭を同じ車に乗せてなるものか。
女も頭相手に危険でも感じたのか、若干顔を引き攣らせている。
やがて大きな溜め息をついた。

「何時に終わるんだ」
「22時ですけど……」
「わかった。榎木、一旦引くぞ」
「へ?」

女は意外そうな声を上げる。俺も驚いた。
頭が、あっさり引いた……だと?
あの冷徹で強引。機嫌を損ねれば翌日にはそいつが所属する事務所に乗り込んでそのトップの顔面の形を変える頭が?
こいつが女だからか?いや、頭は女だろうが容赦しない。顔はやめてくれと懇願する女の髪を掴んで地面に叩き付けた挙句、平然と踏みつけていた。
……この女、こう見えて頭が手を出せないレベルの実力者なのか。
どこからどう見ても普通の学生、さっき引き留めていたときの動きは完全に素人だったんだが……いや、頭が認めるほどだ。擬態も完璧というわけか。
そしてその推測は、その日の夜に確信に変わった。
俺は頭が女、追川というらしい……の会話を盗み聞いていた。
本当は頭の会話を盗み聞きするなんて許されることではないが、相手は頭に危害を加える可能性がある。
部下として、見極めなくては。

「……どういうことだ?」
「不快かと思いまして……」

どうやら頭は何かに対して怒っているらしい。女は少し間を空けて続ける。

「つ、次は存在ごと抹消します」

存在ごと抹消。ただの小娘にどうしてそんなことができるんだ……いや、あの女はただの小娘ではない、そういうことだ。

「すみません。徹底的に消します」
「消せとは言ってねぇだろ」

追川は誰かを消そうとして、それを頭に止められているということか。消すには時期尚早な人間……敵対してる百合川組関係か?車の中で荊棘野組ウチの組織を確認するよう言っていたのは、関係性を理解させるため。
相手がこんな小娘となれば向こうも油断するだろう。これが頭の計画か。
さすが頭だ。納得した俺はひとり頷く。しかしその時に足を動かしてしまい、僅かに床が軋んだ。
すかさずそれを感じ取った頭に盗み聞きについて咎められたのでそれ以上は聞くことができなかったが、とにかくあの女は只者ではない。
帰り際、頭に「先生」なんて呼ばれていたくらいだ。よっぽど腕が立つらしい。
もしかすると、頭が気にしていた上層部も片付けさせるつもりかもしれない。腐りきったあたまをすげ替えるいい機会だ。
荊棘野組の未来は明るい。
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