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第七章 「遥かな大地」
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ウッドは彼が何故自ら名乗ったのか疑問に覚えた。
それ以前にどうしてウッドが彼らを探していたことを知っているのだろう。一つ疑問が浮かべば、次々に後を追って謎が増えた。
それらの全てをユウゾウに訊いてみたかったが、彼は事情を知りたければその薬を飲むようにウッドに言った。
「大丈夫です。危険はありませんから。それでも心配なら、私も同じものを飲みましょう」
なかなか薬を飲まないウッドを見かねてか、ユウゾウは自分も同じ粉薬を調合して、それを口にした。ウッドの目の前でちゃんと飲み込んだようだったが、彼には何の変化も訪れない。
飲まなければ話が進まないようだったし、ウッドは諦めてそれを口に含む。酷く苦いもので慌てて水で流し込むが、暫く舌から苦味が抜けなかった。
「薬なのか」
「そうです。苦いでしょう。だからこそ効き目もあるというものです」
それはウッドが生まれて初めて経験する苦さだった。今までに薬など飲んだことは無く、それは何もウッドに限らずにアルタイ族では大部分が薬に頼ることなく生活しているからだった。
「それで、俺はどうなったんだ。そもそも何故ここに居る」
「あなたは倒れていました。恐らくあの吹雪の中を歩いて来られたのでしょうが、いくらアルタイ族とはいえ、無茶というものです。それもどれくらい休まずにいたのですか。少し前にも同じように倒れているアルタイ族を見つけましたが、彼よりもずっと、あなたは疲労していたのですよ」
ウッドより先にここに辿り着いたアルタイ族と言えば奴しか居なかった。
「フロスはどこだ?」
体を起こそうとしたウッドをユウゾウは押さえる。けれどその力はとても弱く、起き上がったウッドに吹っ飛ばされ、彼は転んでしまった。
「フロスさんはもう、ここには居ません」
「どういうことだ?」
ユウゾウは立ち上がりながら、肩で荒く息をする。
「フロスはどこだ?」
「彼は、あなたを待っています」
「俺を? 待ってる?」
それはどういうことだろうか。フロスはネモを自分のものにして、ウッドから逃げたのではなかったのか。その目的は分からないが、推測するに、おそらく彼女の歌だろうと思う。その歌を復活させる為、フロスはここを目指したのではなかったのか。
「フロスは何か言っていたか」
「全て理解した、とだけ」
「ネモは……ペグ族の彼女は一緒じゃなかったか」
「随分と久しぶりに目にしましたが、とても可愛らしく素敵なペグ族の女の子でしたね」
「ネモの歌は……彼女は歌を取り戻せたのか」
けれどユウゾウは黙ったまま、何度も溜息をつく。何かを躊躇っているようだった。
「何だ」
「ペグ族について、あなたはどれくらいのことをご存知なのですか」
「そ、それは」
別に大したことを知っている訳ではない。そう言えばいいだけなのに、何故かウッドは口籠ってしまう。ユウゾウの穏やかだけれどその冷静な口調がとても、ウッドには重々しく圧し掛かってくるのだ。
「これから話すことはフロスという方に話したことと全く同じです。それを聞いてどうするか、それはあなたが選んで下さい。私からはどうしろとはとても言えませんから。ただ最初に一つだけ言えるならそれは、ペグ族の、彼女たちの寿命はとても短い。流れ星のようだ。けれどその一瞬の輝きだからこそ、多くの者の心を捉えることが出来るとも言えるのです。だからやはり、私は何も指図することは出来ません」
ユウゾウはウッドにベッドに腰を掛けるように言い、自分はベッドの脇に置いてあった小さな背もたれのない椅子に座った。それから何かを話し出そうとして、けれど、何と切り出せばいいのか分からないようで、
「何か飲みますか」
と再び立ち上がり、彼は部屋から出て行った。
暫くして戻ってきた彼の手には二つのコップが握られていた。それには果実を搾ったもののようだった。やや赤みがかった黄色で蜜柑の香りによく似ていた。
「すみません。久しぶりの来客が続いたもので、何だか舞い上がってしまったようです」
そう言って少し笑い、ユウゾウは改めて椅子に座ると、その穏やかな声でゆっくりとこの世界のことについて語り始めた。
彼が語ったのは、アルタイ族とペグ族の誕生にまつわる物語だった。
それ以前にどうしてウッドが彼らを探していたことを知っているのだろう。一つ疑問が浮かべば、次々に後を追って謎が増えた。
それらの全てをユウゾウに訊いてみたかったが、彼は事情を知りたければその薬を飲むようにウッドに言った。
「大丈夫です。危険はありませんから。それでも心配なら、私も同じものを飲みましょう」
なかなか薬を飲まないウッドを見かねてか、ユウゾウは自分も同じ粉薬を調合して、それを口にした。ウッドの目の前でちゃんと飲み込んだようだったが、彼には何の変化も訪れない。
飲まなければ話が進まないようだったし、ウッドは諦めてそれを口に含む。酷く苦いもので慌てて水で流し込むが、暫く舌から苦味が抜けなかった。
「薬なのか」
「そうです。苦いでしょう。だからこそ効き目もあるというものです」
それはウッドが生まれて初めて経験する苦さだった。今までに薬など飲んだことは無く、それは何もウッドに限らずにアルタイ族では大部分が薬に頼ることなく生活しているからだった。
「それで、俺はどうなったんだ。そもそも何故ここに居る」
「あなたは倒れていました。恐らくあの吹雪の中を歩いて来られたのでしょうが、いくらアルタイ族とはいえ、無茶というものです。それもどれくらい休まずにいたのですか。少し前にも同じように倒れているアルタイ族を見つけましたが、彼よりもずっと、あなたは疲労していたのですよ」
ウッドより先にここに辿り着いたアルタイ族と言えば奴しか居なかった。
「フロスはどこだ?」
体を起こそうとしたウッドをユウゾウは押さえる。けれどその力はとても弱く、起き上がったウッドに吹っ飛ばされ、彼は転んでしまった。
「フロスさんはもう、ここには居ません」
「どういうことだ?」
ユウゾウは立ち上がりながら、肩で荒く息をする。
「フロスはどこだ?」
「彼は、あなたを待っています」
「俺を? 待ってる?」
それはどういうことだろうか。フロスはネモを自分のものにして、ウッドから逃げたのではなかったのか。その目的は分からないが、推測するに、おそらく彼女の歌だろうと思う。その歌を復活させる為、フロスはここを目指したのではなかったのか。
「フロスは何か言っていたか」
「全て理解した、とだけ」
「ネモは……ペグ族の彼女は一緒じゃなかったか」
「随分と久しぶりに目にしましたが、とても可愛らしく素敵なペグ族の女の子でしたね」
「ネモの歌は……彼女は歌を取り戻せたのか」
けれどユウゾウは黙ったまま、何度も溜息をつく。何かを躊躇っているようだった。
「何だ」
「ペグ族について、あなたはどれくらいのことをご存知なのですか」
「そ、それは」
別に大したことを知っている訳ではない。そう言えばいいだけなのに、何故かウッドは口籠ってしまう。ユウゾウの穏やかだけれどその冷静な口調がとても、ウッドには重々しく圧し掛かってくるのだ。
「これから話すことはフロスという方に話したことと全く同じです。それを聞いてどうするか、それはあなたが選んで下さい。私からはどうしろとはとても言えませんから。ただ最初に一つだけ言えるならそれは、ペグ族の、彼女たちの寿命はとても短い。流れ星のようだ。けれどその一瞬の輝きだからこそ、多くの者の心を捉えることが出来るとも言えるのです。だからやはり、私は何も指図することは出来ません」
ユウゾウはウッドにベッドに腰を掛けるように言い、自分はベッドの脇に置いてあった小さな背もたれのない椅子に座った。それから何かを話し出そうとして、けれど、何と切り出せばいいのか分からないようで、
「何か飲みますか」
と再び立ち上がり、彼は部屋から出て行った。
暫くして戻ってきた彼の手には二つのコップが握られていた。それには果実を搾ったもののようだった。やや赤みがかった黄色で蜜柑の香りによく似ていた。
「すみません。久しぶりの来客が続いたもので、何だか舞い上がってしまったようです」
そう言って少し笑い、ユウゾウは改めて椅子に座ると、その穏やかな声でゆっくりとこの世界のことについて語り始めた。
彼が語ったのは、アルタイ族とペグ族の誕生にまつわる物語だった。
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