9 / 10
9
しおりを挟む
「あんたの事情は分かった。だけどな、死にたいという人間に、はいどうぞ、とは言えない」
久慈は手帳を閉じると、立ち上がってそう言った。
「それは、そうですよね」
西村優美は申し訳なさそうに、けれどそこまで気にしている風でもなく頭を軽く下げる。
「けど、その斑目だがな、あんたも刑事から聞いただろう。あいつは有名な毒殺魔だった。結婚詐欺師の中でも特殊な奴で、殺人の捜査が主な仕事だった俺たち一課の人間が追いかけていた特別な犯人だったんだ」
え、と優美は口に手を当てる。流石にこの発言には驚きを隠せないようだ。
「俺は元刑事だ。今でこそこんな田舎でペンションなんざやってるが、数年前まではバリバリ一線で働いていたよ。その斑目を追いかけていたのも俺がいたチームだった。詐欺師を追う二課の連中との合同捜査だ。けれど奴は巧妙で、付き合った女性を毒殺、あるいは病院送りにしているにもかかわらず、証拠を掴むことは出来なかった。警察ってのは公権力を謳っているが、その実、事件がないと動けない。事件があっても証拠がないと引っ張れない。捕まえた時には誰かが傷ついたり死んじまっている。それで遅いやら何やってたんだやら、文句を言われる。因果な商売さ」
「あの、本当なんですか」
「ん? 元刑事ってことか?」
「いえ、その……あの人を追いかけていたって」
「ああ。ここで嘘を言っても何の得もねえだろ」
「そうですけど」
久慈が元刑事で、しかも斑目敦士を追っていたと分かったからだろうか。今までよりも優美の表情が曇りがちになり、何度も目が彼の顔の上を滑った。
だがそういう目線には慣れている。疑う側である刑事に対して良い印象を持つ人間はいない。いつだって怪訝な眼差しを向けられ、それでも何とか事件を解決し、屈辱を晴らしたり、悲しみの連鎖を止めたり、不幸を増やさないようにと努めてきたつもりだ。
けれどその久慈自身が、不幸に巻き込まれてしまった。それが五年まえのことだ。
刑事として日々様々な殺人事件の捜査にスニーカーの底を減らしながら汗を拭っていた頃だ。追いかけていたのは通称『ポイズンシェフ』こと斑目敦士で、その動向を複数の刑事で監視しつつ、尻尾を出すのを待ち構えていた。だが奴は巧妙な男で、証拠が残るようなヘマはしない。
結婚詐欺師として注意喚起することは出来ても、それでは逮捕に至らないし、女が身を引いたらまた次の獲物を見つけるだけだ。イタチごっこよりも酷い状況が丸二年、続けられていた。被害者の数も金額も他の結婚詐欺師に比べると少なかったが、奴には致命的な習性があった。それが毒殺癖だ。斑目敦士にとって結婚詐欺はおまけみたいなものだ。奴は恋人に毒を盛り、徐々に弱っていく姿を楽しんでいた。しかも毒殺が一番証拠が残りづらく逮捕された後でも公判を維持することが難しいので不起訴、あるいは起訴猶予といった実刑判決にまでなりづらいというところまで考えて、毒を用いていた。
おとり捜査のような真似は警察の捜査の範疇を越えている――何度もそう警告を受けたが、久慈たちはこれ以上の被害者を出したくない思いで押し通した。
だが、また被害者が出た。それも久慈のよく知る人物だ。何のことはない。一人暮らしを始めて半年ほど経った彼の一人娘だったのだ。
久慈は家庭をほとんど顧みない、仕事一辺倒の人間だった。けれどそれは何も久慈一人の特別な問題ではなく、同僚の大半がそういった人間ばかりだった。刑事というのは仕事人間でないと務まらない。それこそ家庭を大事に、捜査の途中で靴を脱ぐような奴に安心して背中は任せられない。そんな空気をずっと吸っているのだから、必然、誰もが似たような鈍さを持つようになる。
そんな久慈でも娘が生まれた時には病院に駆けつけた。先輩がそんな時くらいしか顔を出せないだろうと、無理に行かせてくれたのだ。ただ久慈が駆けつけた時には既に出産を終え、保育室へと移動させられた後だった。
けろっとした顔の妻から「しょうがないわねえ」と笑われたものだが、今でもあの時、産声を聞けていたらもっと家族の方に顔を向けてやれたのだろうかと思わなくもない。親の自覚というものから縁遠いまま、娘はこの世を去った。享年二十五歳。あまりにも短すぎる人生だった。
「どうして明美がこんなになったと思ってるの!」
病院に駆けつけた時には既に息を引き取っていた娘を前に、涙を浮かべて今までに見せたことのない怒りの形相で掴みかかってきた妻は、久慈を二度、三度と殴りつけた。彼女にこんな力があったのかと驚いて倒れた久慈は、その時にしていた腕時計を割ってしまった。けれど割れたのは時計のプラスチックだけじゃない。家庭そのものだった。娘の死が、今まで辛うじて家庭という形を保ってきた久慈家にとって致命傷となったのだ。
久慈は娘の敵を打とうと必死になって事件現場を駆け回り、斑目の証拠を掴もうと這いずり、床の染み一つ一つを舐め、益々家庭から遠ざかっていった。その間にどんどん妻の心は壊れていき、ある日帰宅すると、電気が点かなくなっていた。妻の姿はなく、全ての支払いはされておらず、冷蔵庫の中には腐ったキャベツと牛乳と卵が異臭を放ち、さながら死体発見現場のような有様になっていた。
リビングではなくキッチンのテーブルの上に離婚届が湯呑みを重しにして置かれ、署名とハンコをお願いしますという簡素なメッセージだけが添えられていた。
家庭を失った久慈は上司の命令でしばらく前線を離れることになった。それでなくても体はボロボロで、まともに家に帰って寝ていないままずっと捜査を続けていたものだから、緊張の糸が切れた途端に病院の世話になることとなった。
妻が自殺したことを聞いたのは、病院から退院する前日のことだった。
実家に戻っていた妻を友人が見舞いに訪れると、首を吊っていたそうだ。前日まで全然そんな素振りもなかったので、誰もが驚いた、と言うが、久慈には何となく理解することが出来た。いや、理解なんて言葉を使っていいかどうかは分からないが、意外だとは思わなかった。
その半年後、久慈は刑事を辞めた。警察に別の仕事で残る道もあったが、刑事以外に何が出来るとも思わなかった。
無職となった久慈は元同僚が働いていた警備会社でしばらく世話になったが、それも長続きはしなかった。
何もやる気が起きない。生きている実感もない。あまりにも刑事として生きすぎた為に、それ以外の生活が分からなくなっていたのだ。
その久慈に声を掛けてくれたのが畠中だった。ただその時点では「そのうちに遊びに行くよ」と返事をしただけだった。畠中が亡くなったと聞かなければ、今でもあの東京というゴミゴミとした街で、適当に日々を暮らしていたかも知れない。
久慈は手帳を閉じると、立ち上がってそう言った。
「それは、そうですよね」
西村優美は申し訳なさそうに、けれどそこまで気にしている風でもなく頭を軽く下げる。
「けど、その斑目だがな、あんたも刑事から聞いただろう。あいつは有名な毒殺魔だった。結婚詐欺師の中でも特殊な奴で、殺人の捜査が主な仕事だった俺たち一課の人間が追いかけていた特別な犯人だったんだ」
え、と優美は口に手を当てる。流石にこの発言には驚きを隠せないようだ。
「俺は元刑事だ。今でこそこんな田舎でペンションなんざやってるが、数年前まではバリバリ一線で働いていたよ。その斑目を追いかけていたのも俺がいたチームだった。詐欺師を追う二課の連中との合同捜査だ。けれど奴は巧妙で、付き合った女性を毒殺、あるいは病院送りにしているにもかかわらず、証拠を掴むことは出来なかった。警察ってのは公権力を謳っているが、その実、事件がないと動けない。事件があっても証拠がないと引っ張れない。捕まえた時には誰かが傷ついたり死んじまっている。それで遅いやら何やってたんだやら、文句を言われる。因果な商売さ」
「あの、本当なんですか」
「ん? 元刑事ってことか?」
「いえ、その……あの人を追いかけていたって」
「ああ。ここで嘘を言っても何の得もねえだろ」
「そうですけど」
久慈が元刑事で、しかも斑目敦士を追っていたと分かったからだろうか。今までよりも優美の表情が曇りがちになり、何度も目が彼の顔の上を滑った。
だがそういう目線には慣れている。疑う側である刑事に対して良い印象を持つ人間はいない。いつだって怪訝な眼差しを向けられ、それでも何とか事件を解決し、屈辱を晴らしたり、悲しみの連鎖を止めたり、不幸を増やさないようにと努めてきたつもりだ。
けれどその久慈自身が、不幸に巻き込まれてしまった。それが五年まえのことだ。
刑事として日々様々な殺人事件の捜査にスニーカーの底を減らしながら汗を拭っていた頃だ。追いかけていたのは通称『ポイズンシェフ』こと斑目敦士で、その動向を複数の刑事で監視しつつ、尻尾を出すのを待ち構えていた。だが奴は巧妙な男で、証拠が残るようなヘマはしない。
結婚詐欺師として注意喚起することは出来ても、それでは逮捕に至らないし、女が身を引いたらまた次の獲物を見つけるだけだ。イタチごっこよりも酷い状況が丸二年、続けられていた。被害者の数も金額も他の結婚詐欺師に比べると少なかったが、奴には致命的な習性があった。それが毒殺癖だ。斑目敦士にとって結婚詐欺はおまけみたいなものだ。奴は恋人に毒を盛り、徐々に弱っていく姿を楽しんでいた。しかも毒殺が一番証拠が残りづらく逮捕された後でも公判を維持することが難しいので不起訴、あるいは起訴猶予といった実刑判決にまでなりづらいというところまで考えて、毒を用いていた。
おとり捜査のような真似は警察の捜査の範疇を越えている――何度もそう警告を受けたが、久慈たちはこれ以上の被害者を出したくない思いで押し通した。
だが、また被害者が出た。それも久慈のよく知る人物だ。何のことはない。一人暮らしを始めて半年ほど経った彼の一人娘だったのだ。
久慈は家庭をほとんど顧みない、仕事一辺倒の人間だった。けれどそれは何も久慈一人の特別な問題ではなく、同僚の大半がそういった人間ばかりだった。刑事というのは仕事人間でないと務まらない。それこそ家庭を大事に、捜査の途中で靴を脱ぐような奴に安心して背中は任せられない。そんな空気をずっと吸っているのだから、必然、誰もが似たような鈍さを持つようになる。
そんな久慈でも娘が生まれた時には病院に駆けつけた。先輩がそんな時くらいしか顔を出せないだろうと、無理に行かせてくれたのだ。ただ久慈が駆けつけた時には既に出産を終え、保育室へと移動させられた後だった。
けろっとした顔の妻から「しょうがないわねえ」と笑われたものだが、今でもあの時、産声を聞けていたらもっと家族の方に顔を向けてやれたのだろうかと思わなくもない。親の自覚というものから縁遠いまま、娘はこの世を去った。享年二十五歳。あまりにも短すぎる人生だった。
「どうして明美がこんなになったと思ってるの!」
病院に駆けつけた時には既に息を引き取っていた娘を前に、涙を浮かべて今までに見せたことのない怒りの形相で掴みかかってきた妻は、久慈を二度、三度と殴りつけた。彼女にこんな力があったのかと驚いて倒れた久慈は、その時にしていた腕時計を割ってしまった。けれど割れたのは時計のプラスチックだけじゃない。家庭そのものだった。娘の死が、今まで辛うじて家庭という形を保ってきた久慈家にとって致命傷となったのだ。
久慈は娘の敵を打とうと必死になって事件現場を駆け回り、斑目の証拠を掴もうと這いずり、床の染み一つ一つを舐め、益々家庭から遠ざかっていった。その間にどんどん妻の心は壊れていき、ある日帰宅すると、電気が点かなくなっていた。妻の姿はなく、全ての支払いはされておらず、冷蔵庫の中には腐ったキャベツと牛乳と卵が異臭を放ち、さながら死体発見現場のような有様になっていた。
リビングではなくキッチンのテーブルの上に離婚届が湯呑みを重しにして置かれ、署名とハンコをお願いしますという簡素なメッセージだけが添えられていた。
家庭を失った久慈は上司の命令でしばらく前線を離れることになった。それでなくても体はボロボロで、まともに家に帰って寝ていないままずっと捜査を続けていたものだから、緊張の糸が切れた途端に病院の世話になることとなった。
妻が自殺したことを聞いたのは、病院から退院する前日のことだった。
実家に戻っていた妻を友人が見舞いに訪れると、首を吊っていたそうだ。前日まで全然そんな素振りもなかったので、誰もが驚いた、と言うが、久慈には何となく理解することが出来た。いや、理解なんて言葉を使っていいかどうかは分からないが、意外だとは思わなかった。
その半年後、久慈は刑事を辞めた。警察に別の仕事で残る道もあったが、刑事以外に何が出来るとも思わなかった。
無職となった久慈は元同僚が働いていた警備会社でしばらく世話になったが、それも長続きはしなかった。
何もやる気が起きない。生きている実感もない。あまりにも刑事として生きすぎた為に、それ以外の生活が分からなくなっていたのだ。
その久慈に声を掛けてくれたのが畠中だった。ただその時点では「そのうちに遊びに行くよ」と返事をしただけだった。畠中が亡くなったと聞かなければ、今でもあの東京というゴミゴミとした街で、適当に日々を暮らしていたかも知れない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
Zinnia‘s Miracle 〜25年目の奇跡
弘生
現代文学
なんだか優しいお話が書きたくなって、連載始めました。
保護猫「ジン」が、時間と空間を超えて見守り語り続けた「柊家」の人々。
「ジン」が天に昇ってから何度も季節は巡り、やがて25年目に奇跡が起こる。けれど、これは奇跡というよりも、「ジン」へのご褒美かもしれない。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる