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第2章 炎の砂漠 編
第29話 砂漠の旅の始まり
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レイヴンたちが、ダネス砂漠の交易路『光の道』の入り口に到着したのは、川港町トルワンを出発した日から二日後、陽が沈みかけた頃だった。
交易路の入り口と称されているが、別にそれを示す看板がある訳ではない。
しかし、レイヴンたちの目の前には『光の道』の名前の由来となる『発光植物』が、列をなして群生しており、太陽の光がなくなるのと同時に輝き始めるのだ。
天候が悪く月の光が差さない日も、暗い砂漠に光を灯す不思議な草。
この『発光植物』が砂漠の中で生え始めている地点こそが、紛れもなく『光の道』の始まりなのである。
この植物が自生して、『光の道』が出来上がったのか、太古の人間の知恵と努力によって植えられたものなのかは、定かではない。
ただ、ダネス砂漠に点在するオアシスを結ぶように形成される、この『発光植物』の植物群は、砂漠を旅する者にとっては、間違いなくありがたい存在だった。
何故なら、砂漠での移動は、真っ昼間の酷暑の中よりも、陽が落ちた後の夜間の方が適しているからである。
レイヴンたちも当然、昼間の歩行は避けるべく、この夜の内にできるだけ、距離を進めようと歩き始めた。
「ここから先は、カーリィとメラの案内が頼りだ。頼むぜ」
「ここら辺は、もう私たちの庭よ。安心して」
そう言って、カーリィが豊満な胸を叩く。体形的なことを気にしてか、メラの方はちょっと控えめに胸を反らす。
だが、自信があることだけは、十分に伝わった。
とりあえず、オアシスを三箇所、通過するまでは、このまま進むとのことなので、一行は夜の帳が下りた中、黙々と歩き続ける。
いかに夜とはいえ、砂漠の夏。暑いことは暑かった。
ときおり、休憩をいれて水分補給を忘れない。
その度にレイヴンが『金庫』の中から、冷たい水筒を取り出すのにアンナは驚いた。
「レイヴンさんが言ってた準備が出来ているってのは、本当だったんですね」
「俺だって、無謀な馬鹿じゃない。はったりで砂漠の中に入ろうなんて思わないよ」
確かにそうだ。それにしてもレイヴンの『金庫』の機能には、クロウ以外の全員が感銘を受ける。
収納ボックスとは微妙に違うと本人が解説するのだが、収納物の時間を停止できるのは、余程いい魔法道具でないと実装されていない機能なのだ。
物体は自然と安定した状態に戻ろうとするため、お湯なんかを収納ボックスに入れておくと水に戻っているなんてことは、当たり前なのである。
それがレイヴンの出す水は、いつも冷たく新鮮なのだから、この砂漠の中では大変、ありがたかった。
ところが、更に一同を驚かせることをレイヴンは、やってのける。
夜通し歩き、太陽が頂点へと登りかける途中で、レイヴンは行進を止める指示を出した。
これからは、気温の上昇幅も大きく、進むためには体力の消耗が激しくなる。
砂漠の民のカーリィやメラは、まだまだ、行けるかもしれないが、ペースは下の人間に合わせるべき。
普段、木々に囲まれ涼しい環境にいる森の民のアンナにとって、この暑さは相当な負担であった。まだ、無理をさせる場面ではない。
そこで、本格的な休息をとるとして、『金庫』の中から座標指定で、ある物を取り出したのだ。
「レイヴン、ちょっと聞いていい?これは何?」
「何て、コテージだよ。見たことないのか?」
「いや、それはあるわよ」
カーリィが言いたかったのは、そう意味ではない。
砂漠のど真ん中に、木製の建造物を建てるなんて非常識としか言いようがないのだ。
遠くから見た人は、きっと蜃気楼による幻だと思うことだろう。
アンナなんかは、建物近くまで行き、実際にコテージに手で触れてみて、やっと信用するのだった。
「本物ですね。・・・こんな大きな物まで、レイヴンさんのスキルでは収納できるのですか・・・」
コテージの大きさは、王都ロドスにあるレイヴンのお店よりも一回りほど大きい。
全員が建物の中に入っても、ゆったりとくつろぐには、十分すぎるスペースがあった。
この時点で、『金庫』の性能は、そこらの魔法道具をはるかに超えていると証明する。
派生スキルで、このレベルとなるとメインスキルは、一体、どれほどのチート能力となるのか、想像も出来なかった。
女性陣全員が気になるのだが、その点についてレイヴンは、はぐらかす。
「とにかく、突っ立っていないで、中に入ろうぜ」
持ち主に案内されて、コテージ内に入ると、そこはまさに別世界。
空調機能も付いているようで、快適空間、そのものだった。
「何これ?一体、いくらお金をかけたら、これが出来上がるの?」
「まぁ、それなりだよ」
このコテージは今回の砂漠用ということではなく、以前、レイヴンが旅した時に特注で作らせた代物。
金額を聞いたら、全員、引くだろうから、詳細は教えない。
「ちょっと狭いかもしれないが、浴室もある。女性陣は、先に入ってくれ」
体は汗と砂まみれ。外にいる分には気にならなかったが、ここまで、過ごしやすい場所にいると、確かに少々気持ち悪く感じてきた。
お言葉に甘えて、カーリィたちは体の汚れを洗い流すことにする。
コテージ内の浴槽は、狭いといいつつも大人三人は、余裕で浸かれる広さだ。
こんな贅沢な砂漠の旅を体験するヘダン族は、カーリィとメラが初めてだろうと感想を漏らす。
「覗き見するんじゃないわよ」
「するか!とっとと行け」
カーリィとメラが浴室に向かう中、アンナが動こうとしなかった。
「どうした?」
他人と裸の付き合いをするのは、部族的に何か問題があるのか?
気になったカーリィとメラも立ち止まる。
すると、アンナがもじもじしながら、小さな声で訴えた。
「レイヴンさんの『金庫』の中に女性ものの衣服や・・・下着はないですよね?」
さすがにそれはない。逆にあったら、どういう目的で使用するのか疑われてしまう。
だが、アンナが言いたいことはすぐに理解できた。さすがに深緑のフードは脱いでいたが、中に着ていたシャツの替えがないのである。
カーリィとメラは、王都を発つ前に準備を進めていたが、アンナはそうではない。
それまでの旅で使用していた荷物は、あの豪華客船の船倉の中に置いて来てしまったのだ。
出発前、準備は必要ないとアンナに言ったが、これは完璧にレイヴンのミスである。
食事や水、単なる旅のことしか考えていなかったのだ。
「すまん。配慮が足りなかった」
「いえ、私がきちんと話しておけばよかったんです・・・」
ここは、レイヴンが責任をとって、呪文を唱える。
『買う』
「え?」
すると、アンナが着ていたがシャツが綺麗になり、まるで新品のように変わったのだ。
これは、レイヴンが服ごと汚れや蓄積されたダメージも買い取った結果である。
「『洗浄』のスキルとは違うようですが、どうやったんです?」
「まぁ、細かいことは気にするな。カーリィとメラも、良かったら同じことするぜ」
衣服が新品に代わるのなら、願ってもない。二人は二つ返事で、頼んできた。
何とか、それで誤魔化して三人を浴室へと送り込む。
もし詳細な話をして、『金庫』の中に、衣服の汚れが八日間だけ残っていると話したら、きっと気持ち悪がられるはずだ。
変な誤解は生まないに限る。
レイヴンは、三人がお風呂から上がってくる前に食事の準備をしておこうと、キッチンに向かった。
「兄さん、色々、大変だね」
女性と一緒に旅する気苦労を分かってくれるのは、クロウだけ。
そんな弟にレイヴンは、背中越し手を振って応えるのだった。
交易路の入り口と称されているが、別にそれを示す看板がある訳ではない。
しかし、レイヴンたちの目の前には『光の道』の名前の由来となる『発光植物』が、列をなして群生しており、太陽の光がなくなるのと同時に輝き始めるのだ。
天候が悪く月の光が差さない日も、暗い砂漠に光を灯す不思議な草。
この『発光植物』が砂漠の中で生え始めている地点こそが、紛れもなく『光の道』の始まりなのである。
この植物が自生して、『光の道』が出来上がったのか、太古の人間の知恵と努力によって植えられたものなのかは、定かではない。
ただ、ダネス砂漠に点在するオアシスを結ぶように形成される、この『発光植物』の植物群は、砂漠を旅する者にとっては、間違いなくありがたい存在だった。
何故なら、砂漠での移動は、真っ昼間の酷暑の中よりも、陽が落ちた後の夜間の方が適しているからである。
レイヴンたちも当然、昼間の歩行は避けるべく、この夜の内にできるだけ、距離を進めようと歩き始めた。
「ここから先は、カーリィとメラの案内が頼りだ。頼むぜ」
「ここら辺は、もう私たちの庭よ。安心して」
そう言って、カーリィが豊満な胸を叩く。体形的なことを気にしてか、メラの方はちょっと控えめに胸を反らす。
だが、自信があることだけは、十分に伝わった。
とりあえず、オアシスを三箇所、通過するまでは、このまま進むとのことなので、一行は夜の帳が下りた中、黙々と歩き続ける。
いかに夜とはいえ、砂漠の夏。暑いことは暑かった。
ときおり、休憩をいれて水分補給を忘れない。
その度にレイヴンが『金庫』の中から、冷たい水筒を取り出すのにアンナは驚いた。
「レイヴンさんが言ってた準備が出来ているってのは、本当だったんですね」
「俺だって、無謀な馬鹿じゃない。はったりで砂漠の中に入ろうなんて思わないよ」
確かにそうだ。それにしてもレイヴンの『金庫』の機能には、クロウ以外の全員が感銘を受ける。
収納ボックスとは微妙に違うと本人が解説するのだが、収納物の時間を停止できるのは、余程いい魔法道具でないと実装されていない機能なのだ。
物体は自然と安定した状態に戻ろうとするため、お湯なんかを収納ボックスに入れておくと水に戻っているなんてことは、当たり前なのである。
それがレイヴンの出す水は、いつも冷たく新鮮なのだから、この砂漠の中では大変、ありがたかった。
ところが、更に一同を驚かせることをレイヴンは、やってのける。
夜通し歩き、太陽が頂点へと登りかける途中で、レイヴンは行進を止める指示を出した。
これからは、気温の上昇幅も大きく、進むためには体力の消耗が激しくなる。
砂漠の民のカーリィやメラは、まだまだ、行けるかもしれないが、ペースは下の人間に合わせるべき。
普段、木々に囲まれ涼しい環境にいる森の民のアンナにとって、この暑さは相当な負担であった。まだ、無理をさせる場面ではない。
そこで、本格的な休息をとるとして、『金庫』の中から座標指定で、ある物を取り出したのだ。
「レイヴン、ちょっと聞いていい?これは何?」
「何て、コテージだよ。見たことないのか?」
「いや、それはあるわよ」
カーリィが言いたかったのは、そう意味ではない。
砂漠のど真ん中に、木製の建造物を建てるなんて非常識としか言いようがないのだ。
遠くから見た人は、きっと蜃気楼による幻だと思うことだろう。
アンナなんかは、建物近くまで行き、実際にコテージに手で触れてみて、やっと信用するのだった。
「本物ですね。・・・こんな大きな物まで、レイヴンさんのスキルでは収納できるのですか・・・」
コテージの大きさは、王都ロドスにあるレイヴンのお店よりも一回りほど大きい。
全員が建物の中に入っても、ゆったりとくつろぐには、十分すぎるスペースがあった。
この時点で、『金庫』の性能は、そこらの魔法道具をはるかに超えていると証明する。
派生スキルで、このレベルとなるとメインスキルは、一体、どれほどのチート能力となるのか、想像も出来なかった。
女性陣全員が気になるのだが、その点についてレイヴンは、はぐらかす。
「とにかく、突っ立っていないで、中に入ろうぜ」
持ち主に案内されて、コテージ内に入ると、そこはまさに別世界。
空調機能も付いているようで、快適空間、そのものだった。
「何これ?一体、いくらお金をかけたら、これが出来上がるの?」
「まぁ、それなりだよ」
このコテージは今回の砂漠用ということではなく、以前、レイヴンが旅した時に特注で作らせた代物。
金額を聞いたら、全員、引くだろうから、詳細は教えない。
「ちょっと狭いかもしれないが、浴室もある。女性陣は、先に入ってくれ」
体は汗と砂まみれ。外にいる分には気にならなかったが、ここまで、過ごしやすい場所にいると、確かに少々気持ち悪く感じてきた。
お言葉に甘えて、カーリィたちは体の汚れを洗い流すことにする。
コテージ内の浴槽は、狭いといいつつも大人三人は、余裕で浸かれる広さだ。
こんな贅沢な砂漠の旅を体験するヘダン族は、カーリィとメラが初めてだろうと感想を漏らす。
「覗き見するんじゃないわよ」
「するか!とっとと行け」
カーリィとメラが浴室に向かう中、アンナが動こうとしなかった。
「どうした?」
他人と裸の付き合いをするのは、部族的に何か問題があるのか?
気になったカーリィとメラも立ち止まる。
すると、アンナがもじもじしながら、小さな声で訴えた。
「レイヴンさんの『金庫』の中に女性ものの衣服や・・・下着はないですよね?」
さすがにそれはない。逆にあったら、どういう目的で使用するのか疑われてしまう。
だが、アンナが言いたいことはすぐに理解できた。さすがに深緑のフードは脱いでいたが、中に着ていたシャツの替えがないのである。
カーリィとメラは、王都を発つ前に準備を進めていたが、アンナはそうではない。
それまでの旅で使用していた荷物は、あの豪華客船の船倉の中に置いて来てしまったのだ。
出発前、準備は必要ないとアンナに言ったが、これは完璧にレイヴンのミスである。
食事や水、単なる旅のことしか考えていなかったのだ。
「すまん。配慮が足りなかった」
「いえ、私がきちんと話しておけばよかったんです・・・」
ここは、レイヴンが責任をとって、呪文を唱える。
『買う』
「え?」
すると、アンナが着ていたがシャツが綺麗になり、まるで新品のように変わったのだ。
これは、レイヴンが服ごと汚れや蓄積されたダメージも買い取った結果である。
「『洗浄』のスキルとは違うようですが、どうやったんです?」
「まぁ、細かいことは気にするな。カーリィとメラも、良かったら同じことするぜ」
衣服が新品に代わるのなら、願ってもない。二人は二つ返事で、頼んできた。
何とか、それで誤魔化して三人を浴室へと送り込む。
もし詳細な話をして、『金庫』の中に、衣服の汚れが八日間だけ残っていると話したら、きっと気持ち悪がられるはずだ。
変な誤解は生まないに限る。
レイヴンは、三人がお風呂から上がってくる前に食事の準備をしておこうと、キッチンに向かった。
「兄さん、色々、大変だね」
女性と一緒に旅する気苦労を分かってくれるのは、クロウだけ。
そんな弟にレイヴンは、背中越し手を振って応えるのだった。
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