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第2章 炎の砂漠 編

第30話 本当の砂漠の旅

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ダネス砂漠にポツンと建つレイヴンのコテージ。無機質な砂の上に、突然現れた生活感あふれる建物は、そこに生活する者にとって違和感しかなかった。
砂漠の中、夜に活動する小動物は、不思議そうに見つめる。

そのコテージ内の浴室、湯船に浸かるカーリィが、いつになく深刻な表情をしていた。
その理由が思い当たるメラは、カーリィの隣に座り、優しい口調で語りかける。

「姫さま、お役目の件をお考えですか?」
「・・・まぁ、生まれた時から、覚悟はしていたけど・・・いざ、近づくとね」

お役目とは、『炎の宝石フレイムルビー』に溜まった霊力を取り除くこと。その役目に、自分を追い込むほどの覚悟が必要なのは、単なる儀式ではないためだ。

「・・・姫さま。今回、旅に同行してくださるレイヴンさまの常識外れのスキル。もしかしたら・・・」
「相手は四大精霊のサラマンドラさまよ、いくらレイヴンだって・・・」

この件に関しては、自分の使命を父である族長から知らされたあの日より、希望を持たない事にしている。
何故なら、その覚悟が鈍ってしまうのが怖いから。

ヘダン族の・・・ダネス砂漠の運命が、カーリィの双肩にかかっている以上、迷うことすら許されないのだ。
この重たい話、アンナが遅れて浴室に入って来たことで、中断される。

「お先に失礼して、お風呂をいただいていたわ」
「お構いなく。私は動作が遅いので・・・」

カーリィは努めて明るく、アンナを迎え入れた。そして、アンナも何事もなかったように受け答えするのだが・・・
実は、先ほどの会話、脱衣中のアンナにも聞こえていたのだ。

普段、明るく振舞うカーリィが、あれ程、沈んだ声を出す覚悟とは何なのか?
気になるところだが、アンナは敢えて触れないように努めるのだった。


本来、砂漠の旅とは非常に過酷なもの。旅人には、体力と忍耐が求められる。
それがレイヴンのスキルのおかげで、その常識が変わった。今回だけが、特別なものと理解しつつも、これならいくらでも歩き続けられるような錯覚に陥る。

暑い日中は休息にあて、気温が下がる夜間のみ活動を再開するスタイルは、砂漠の旅の定番なのだが、ここまで体力を回復できることは通常ない。
まさに、レイヴンのコテージさまさまだった。

砂漠の環境に不慣れなアンナも足手まといになることがなく、砂漠の難路を踏破して行く。
旅は順調に進み、三箇所目のオアシスに到着すると、一旦、一息をいれた。

これより、いよいよ『光の道ライトロード』を外れ、砂漠の街ミラージを目指すことになる。
ここから先のルートはヘダン族の者にしか分からなかった。途中、オアシスのようなものは存在しないそうなので、旅の装備を再確認する。

特に不足分はないのだが、買い求められる物資は念のために補充しておいた。
準備万端、整ったところで、オアシスを出発する。

そして、「ここからが本当の砂漠の旅よ」と、カーリィが宣言した。
過酷さは『光の道ライトロード』を歩いていた時の比ではないと、ヘダン族の二人から指摘が入る。

「そんなに、何が違うんだ?」

砂漠の暑さや砂地の歩きにくさは、どこも同じだろうと思うレイヴンが、単純な疑問を呈した。
それには、メラが答える。

「砂漠の環境は、『光の道ライトロード』だろうと、どこだろうと変わりません。大きく異なるのは、モンスターの存在です」

確かに言われてみれば、これまで砂漠特有のサンドウォームや大蠍デスストライク。夜行性のサンドジャッカルなどに出会っていない。

なぜかと言うと、それは『発光植物ランププラント』のおかげだとメラが解説してくれた。
砂漠の夜道を照らす植物は、魔物除けの役割も果たしていたのである。

光の道ライトロード』から外れれば、当然、その恩恵を受けることは出来ない。

「分かった。つまり、これからは周囲を警戒しながら進まないと駄目ってことだな」
「その通りです。モンスターに遭遇すれば、それはそれで厄介ですが、それ以前に精神的な疲れが倍増するのです」

この説明で、『ここからが本当の砂漠の旅』という意味を理解した。
そうなると、歩く際の陣形も考え直さなければならない。

一番危険なのは先頭、次いで最後尾である。
レイヴンが、前を歩くとして一番後ろをどうするかだ。

そこで名乗りを上げたのは、メラである。
彼女はカーリィの護衛役も兼ねる侍女だ。その役割を考えれば、絶対譲れないと強く主張する。

こうなれば、カーリィでもメラを翻意させるのは無理とのことなので、そのままお願いすることにした。
後は二番目にアンナで右を警戒。三番目のカーリィが左を警戒しながら進むことで隊列が決まる。
最後にクロウが自慢の視覚を最大限に活用し、全周をカバーすることになった。

砂漠なので、遮蔽物が少ない。全体的に開けており、地上を歩行するモンスターの急接近を簡単に許すことはないが、問題なのは、砂に潜っているサンドウォームだ。

前兆として、砂の起伏が変わり、大きな窪みができるとのこと。
ただ、目印も何もない砂の地面は、どれも同じに見えるため、見極めがなかなか難しい。

昨日までの順調な旅と打って変わり、歩行距離は案外、伸びなかった。
陽が昇り切る前だが、メンバーの疲労を考慮して、レイヴンは早めの休憩をとることにする。

毎度利用するコテージの造りは頑丈であるため、万が一、休憩中に大型モンスターに襲われたとしても破壊されることは、まずない。とりあえず、見張りを立てるのも止めて、全員でコテージの中に入った。

「この調子で歩いて、ヘダン族の街にはどれくらいで着く?」
「そうね。・・・あと三日ってところかしら」
「ですが、取り立てて遅いという訳ではありません」

ヘダン族、二人の話を聞く限りでは、焦る必要はないようだ。
今の所は、これまで通りの活動スタイルでも問題なさそうである。

「じゃあ、いつものようにシャワーでも浴びてくれ」

レイヴンが女性陣に、休息を促した時、突然、大きな音が聞こえた。
コテージの窓から、外の様子を覗くと、今、一番出会いたくなかった相手の姿がそこにある。
それは巨大なサンドウォームだった。

このまま、やり過ごそうかと考えているところ、コテージの壁に衝撃が加わる。
完全に標的とされたようなので、それは無理なようだ。

「これから、休もうって時に・・・ちっ、しょうがねぇから、ちょっと倒してくるわ」

そのまま、外に出ようとするレイヴンに対して、一斉に声がかけられる。

「一人で行く気?」
「相手は、ただのでかいミミズだろ。みんなは、ゆっくり休んでてくれ」

ミミズとは、明らかに違うのだが、その余裕の表情から察すると、レイヴンにとって、大したモンスターではないのだろうか?

「主に嚙みつきと体当たりが攻撃パターンだけど、たまに出す消化液には気をつけて」

その後ろ姿に、カーリィがサンドウォームの特徴を伝える。振り返らずに手を挙げて応えたレイヴンを、皆で見送るのだった。
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