信濃の大空

ypaaaaaaa

文字の大きさ
15 / 67

撤退

しおりを挟む
爆撃隊が攻撃を開始したのと同時に雷撃隊も空母に近寄っていた。
「爆撃隊、攻撃開始!」
「そうか。我々も負けてはいられないな。」
彼は一層操縦桿を握る力を強める。
既に弾幕がその厚さをましてきている。
操縦桿を倒し海面すれすれに降下する。
後ろには彼の隊の機が続いていた。


「左舷より敵機接近!」
空母『バンカーヒル』の対空機銃の兵士が叫ぶ。
「撃ち落とせ!」
誰ともなくそう叫んだ。


対空砲火が炸裂し最後尾の機体が火を噴く。
だがいまさらそんなことを気にしてはいない。
艦中央部に照準を定める。
その時、左翼に直撃弾を喰らった。
「魚雷投下!」
魚雷が正常に投下されたことを確認した後、彼の機体は横にそれながら海の中に消えていった。


「敵機、魚雷投下!」
その報告が来た時には回避不能な距離だった。
「これが、執念か。」
誰かが呟いた直後、魚雷が炸裂した。


「司令官、すでに我が艦隊の空母は半壊状態です。」
バークが報告したのは日本の攻撃隊が撤退していった30分後だった。
「…どの程度だ?」
「『ホーネットⅡ』、『バンカーヒル』、『エセックス』、『モントレー』と防空巡の『オークランド』が沈没。『ワスプⅡ』、『ラングレー』と駆逐艦4隻が中破です。」
それを聞いた瞬間、ミッチャーの視界が一瞬白くなった。
空母4隻喪失だと!?
冗談じゃない。
「幸い、航空機の収容については現有の空母で事足りるそうです。また、スプールアンス長官も撤退を命令しており我々には艦隊直掩の要請が来ています。」
「分かった。今動ける戦闘隊は上げておいてくれ。」
ミッチャーはそう言って椅子に崩れ落ちた。


「艦隊が撤退しただと!?それは本当か!」
サイパン島上陸作戦の指揮官であるリッチモンド・ターナー大将が副官に問いただす。
「さっ先ほど、連絡がありまして…。我々にも撤退を勧告してきています。」
「くそ!呑気に言いやがって!」
ターナーはすぐに各師団長に連絡を送る。
それとほぼ同時に各地から日本軍の反撃が開始されたという連絡が来た。
『現在、日本軍が道路を占拠!撤退には時間がかかる!』
『こちら第324歩兵中隊!約半数が行方不明です!』
このままではまずい…。
我々が敵中に取り残されてしまう。
彼は悩んだ末に決断した。
「1時間以内に輸送船に乗り込めた者たちだけで撤退する。」
ターナーは重い口調で命令を下す。
「しかし、それでは現在も日本軍と死闘を繰り広げている将兵たちを見捨てるということですか!」
副官が反論しようとするもターナーはきっぱりと言った。
「あぁそうだ!できる限り多くの将兵の命を助けることが今の我々の使命だ!私はそのためならどんな汚名も被る!」
「…各師団長に連絡!これより撤退戦に入る!」
副官が悔しそうに叫んだ。
これでいい。
私の名誉が傷つくくらいで命が助かるのならそれでいい。
ただ、その覚悟も無駄になった。
突然、護衛に当たっていた重巡が轟音と共に真っ二つに折れた。
海岸の物資集積所や港などからも火の手が上がる。
「なんだ!?」
ターナーは海を見て目を見開いた。
「大きすぎる…!」
そこには遠くからでもよくわかる巨艦が数隻浮かんでいた。
直後に彼の近くにひと際大きな砲弾が命中し、ターナーは行方不明となった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

処理中です...