異国の王子の花嫁選び

藤雪花(ふじゆきはな)

文字の大きさ
22 / 22
第四夜 夏至祭

21、帰国 (異国の王子の花嫁選び 完 )

しおりを挟む
アズール王子はリシアを抱いて崖の道を渡る。
ノキアが自分のマントを差し出し、王子と王子の姫に被せた。
リシアはしっかりとアズールにしがみつき、その顔を彼の胸に押し付けていた。
二人は頭の先から足の先までずぶ濡れだった。


「ベルゼラに戻るぞ!わたしの用事は終わった!」

アズール王子は言う。
二人の騎士は頷いた。
文句なしの美しい花嫁だった。


目の前の出来事に呆然としているデクロアの王と王妃と、先程まで花嫁候補の一番目に来ていたアクア、そして王族たちの前を、異国の戦士たちは歩き、置いていく。
誰も彼も無言で、なすすべなく見送る。
彼らは、戦わずしてベルゼラの王子に負けたのだと思った。


王も王妃も、上の姉のアクアが悲痛に叫んだ通りに、何もできなかった。
王妃が望んだ通り、ベルゼラの王子は自らの意思で彼女とアランの最愛の娘を選んだ。

アラン王は、隣のシシリア王妃に言う。

「目の前で雪豹に殺されるよりかは、ベルゼラで生きている方が良いと思うべきなのだろうか?」
王妃は気弱になっている王にいい放つ。
「あの娘は、古き因習に囚われて逃れられないわたしたちに、一度殺されかけたのです。
どこで生きるとしても、命がけで助けられ愛されて、これ以上の幸せがありますか!」


かがり火は燃料を燃焼し尽くして、白い煙を幾つも幾つも上げていた。
アズールは、一人の若者の王騎士を横目で見る。
彼はここまで案内をした騎士、クレイだった。
彼は、年配の白髪の混ざる王騎士と若い騎士に腕を捕まれた形のまま、両膝をついていた。
彼の横には抜かれた剣が落ちていた。
悲痛な顔でリシアを見る。

「怪我はない。安心せよ」
アズール王子は言う。

彼の姫が彼を残していってしまう。
最初の威嚇の弓で、雪豹を仕留めるべきであった!
押さえるクロウを切り殺してでも、ベルゼラの王子より前に、飛び出してリシアを守るべきであった!


「わたしが、リシア姫と一緒にいられる方法はなんだったのか教えてください、、」

クレイはそばに立つザッツに言う。
ザッツのリシアのお守りの役目も解任だった。
クロウはもうクレイの腕を拘束していない。
あの場でクレイが雪豹を殺してリシアを助けたとしても、その後クレイは非難にさらされて無事ではいられなかっただろう。

「なんだ?まだ答えを出していなかったのか?
それは、誰よりも先にキスして、好きだと伝えて、デクロアの王になる覚悟でリシアを奪い、結婚することだ。
まあ、先にやられてしまったからなあ」

馬番の息子、クレイにはデクロアの王になる覚悟はなかったのだ。

好きならば、命がけで守り奪う。

ベルゼラの王子はやってみせた。
完敗だった。
クレイは声もなく泣いた。



ベルゼラの王子一行の帰国の準備は早い。
だが、彼らはもう一夜、デクロアに留まることになる。
雪解け水に凍えたリシアを温めるために、サウナにゆっくり入る。
そのまま王子の部屋で二人の時間を過ごし、翌朝までその扉から恋人たちは出てこなかったからだ。

ベットの上で、リシアはちょんと褐色の肌に顎をのせる。すっかり、元気になっていた。
リシアは森であった型破りなこの男と、デクロアを出ることを決めていた。
リシアの知らない大きな世界が待っていた。

平和なデクロアは、リシアを閉じ込める小さな瓶のようなものだったのかもしれない。
男は手を繋ぎ、その小瓶からリシアを引き上げる。
彼らは帰国の準備をしている。
そろそろリシアたちも服を着なければならない時間だった。

リシアにはわからないことがあった。

「で、あなたの王子は誰を選んだの?」
「、、わたしがアズールだ」

リシアは驚きすぎて、ベットから転がり落ちそうになった。

「、、、言っていなかったか?」
「聞いてない!」

アズールはそういえば、リシアが別の名前を呼んでいたことを思い出す。すぐ、その口を自分の口で塞いだので、気にもしなかったのだが。

アズールはベットから体を起こした。
リシアも起こす。
アズールはいつになく真剣な顔を作る。

「わたしは、ベルゼラ国第二王子アズールだ。デクロア国の美しいリシア姫を、妻にもらい受けにきた。一緒に来てくれるか?」
花のような笑顔が答える。
「もちろん!喜んで!」


デクロア国中が大騒ぎした花嫁選抜は、アズール王子が一人を選んだ時点で、終了する。
次の20名に残っていた娘の親たちはほっと胸を撫で下ろす。
王子は花嫁を黒馬に乗せ、12人の赤い騎士は、祝福と歓声の中、王都を後にする。

王子の腕の中の、王子の心を射止めた金茶の娘は輝く笑顔。
沿道の見送りに来た国民は思う。

美女の国デクロアが誇りに思える美しさではないか?

デクロア国民は、自分の、また娘の花嫁選抜試験で健闘した話や、雪豹から命がけで姫を守ったベルゼラの王子の話を、いつまでも語り継いだのであった。



異国の王子の花嫁選び  完
しおりを挟む
感想 20

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(20件)

ハルぽん
2020.09.01 ハルぽん

こんばんは(*^^*)

完結作品を一気に読んだ後
再度じっくり読むのが好きです。

何度も読み直したい作品です

2020.09.02 藤雪花(ふじゆきはな)

ハルぽんさん

そうでしたか!!
過去作品は恥ずかしくて、読み始めると手直ししたくなる、性癖があります。。。
一番、書いているときにピコンピコンとお気に入り登録されて、投稿するのに緊張した作品でした。

藤雪花

解除
Ma
2019.03.22 Ma

完結作から飛んできて
一気読みしてしまいました!


最終更新から日にちがたって
コメントされても
煩わしいかもしれませんが
コメントせずにはいられないぐらい
物語に引き込まれ
とても面白かったです(´∀`*)


他作品も面白そうなので
ゆっくり読ませて頂きます(^^♪


良い作品をありがとうございました!

2019.03.23 藤雪花(ふじゆきはな)

Maさま
ご感想ありがとうございます!!
楽しんでいただけて嬉しいです♪
感想はどんなタイミングでも本当に嬉しいです。
明日への活力剤、執筆をささえる底力になります♪
ぜひ色々読んでご感想をくださいませ!!

藤雪花

解除
ゆー
2018.12.25 ゆー

完結おめでとうございます🎉
とても好きな作風でした!

2018.12.25 藤雪花(ふじゆきはな)

ゆーさま

ご感想ありがとうございます!
好きな作風とおっしゃって頂けて嬉しいです♪
次回作品も構想してますので、また読みに来てくださいね!

藤雪花

解除

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。