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第1部 第1話 大和薫英学院

2、高校生活に暗雲の兆しあり?!

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前日の朝に藤日々希は学校に入っていた。

男子寮の玄関10時に集合である。
延々と続く他者を拒絶したような壁が途切れるところに、立派な門構をした校門がある。警備員が常駐している。
二人いるところがただの学校にしては物々しい。
インターフォン越しに声が掛かる。
「身分証は?お持ちですか?」
日々希は焦る。学生証も持っていない。
「健康保険証でもいいのではないですか?」
とタクシーのおじさんが言ってくれたので、日々希は窓から顔を出してカードをスキャンさせて、ようやく門を越える。
「この学院の中まで送るのは初めてですよ。ここの皆さんはお抱えの運転手がいらっしゃるので」
タクシーのおじさんは少し興奮ぎみにいう。
「お抱えって、お金持ちの家なんだね?」
日々希はピンとこない。
「そりゃあもう。すごい家柄の方ばかりですよ。ここに通われる皆さまはそれはもう」
ちらりとルームミラーに写る日々希を見た。
「皆ってばかりじゃあないよ?僕も学生だし」

日々希はタクシーのおじさんの興奮と反比例して、血が下がっていく。
早朝6時に家をでて、ようやく辿り着いた明日から通う学校は、とんでもない大きさだった。
校門から見えるのは、森。
森を分断するように、桜の道が突き抜けて、その道を日々希を乗せたタクシーが走る。
美しい桜並木を抜けると校舎が見える。
入学案内に同封してあった地図を確認して、さらに奥に入り、日々希は寮の玄関に横付けしてもらう。
イギリスがスイスかといった、煉瓦作りの重厚な建物群のひとつである。
建物は全て重要文化財であるといわれても信じたかもしれない。

まるで世間から隔絶された牢獄のようだ。
都会の喧騒は学院には届かない。
時間が田舎よりも緩やかに流れているなんてことはあるのだろうか?
いや、百年前からぴたりと止まっているかのようだ。

「都会の学校って思っていたのに、どうも想像したのと違う」
それが、日々希が感じた学院の第一印象であった。


もたもたと、タクシー代金を払って日々希はタクシーを降りる。
そこには、先輩らしき姿勢の良いすらっと整ったメガネの男が待っていた。


「君が新入生の藤君?はじめまして。わたしは寮長の東郷」
初めて会った先輩は、優しい笑顔を浮かべて手を差し出す。
それが握手を求めているのだとわかるのに数秒。
「あ、は、はじめまして、藤 日々希です」
自分のまごまご加減に顔が真っ赤になる。
寮長の東郷はクスリと笑う。
「他の新入生は、、?」
キョロキョロと見ると、東郷の後ろには一人、小柄な男子がいた。
「男子は藤君と、西野くんが総合クラスで、あと5名枠ができたから、5名は一般クラスだよ。彼らは午後から案内予定だ」
「7人だけ?」

ぴょこんと西野は頭を下げた。
愛嬌のある笑顔がかわいい。
東郷寮長に連れられて、日々希と西野は寮の三階に案内される。
案内されながら、11時の門限の時間や酒の持ちこみの厳禁、9時以降の馬鹿騒ぎは注意。注意三回で罰があることなど、説明を受ける。

「なにか、トラブったら、いやトラブらなくてもすぐわたしのところに。
寮内の喧嘩は厳禁だよ。怪我をさせるのも、怪我するのもなしね?」
にっこり笑って東郷寮長は行く。

部屋は二人部屋だった。ベランダに続く大きな窓つきである。
左右にベッドが寄せられている。
日々希の荷物はスーツケースごと届いている。
「おっかないね。東郷進一郎が寮長なんて」
西野はポンとベッドに飛び込んだ。
日々希もそうしたいと思っていたところで、同じくダイブする。
あははっとルームメイトは笑った。
快活で明るい性格なようで、日々希はほっとする。
彼となら、同室でもやっていけそうな気がする。

ベッドも新品ではなさそうだが、よいスプリングだった。
「東郷進一郎っていうんだ?寮長。西野君は知ってるの?」
「僕は、西野剛。剛でいいよ。
東郷進一郎はふたつ上の三年のはずだよ。
東郷警備保証の社長の息子」
東郷警備保証といわれて、強い女子のレスリング選手をイメージキャラクターにしたCMがすぐに浮かぶ。
「テレビでCMしてるあれ?すごい、社長の息子さんなんだ」
剛は眉を挙げた。
「そうだよ。まさか、知らなかったのかよ?ちなみに俺の西野は西条グループだ」
「西条グループ」
日々希はおうむ返しする。
「西条貿易?西条組、、、」
西条といえば、暴力団組織の西条組を連想してしまう。
西野剛はそれには答えず、ベッドから体を起こして、愛嬌のある顔立ちに似合わない底光りする目で日々希を見た。
日々希も体を起こす。

「で、あんたは、藤っていうの?どこのグループに所属してるの?名前からは分からないな、ごめんね。
東郷でもなく、西条でもないよね?だったら北条なの?それとも南野?」
日々希も体を起こす。
この屈託のないルームメイトの言わんとするところがわからない。
頭のなかにクエッションマークが一杯である。
「?僕はどこのグループにも所属していないよ?皆グループに属しているもんなの?」
その質問に、西野剛は驚いた。
「あんた、何いっているんだよ?ここは大和薫英学院だぜ?
日本の財界や、警察組織、裏社会を牛耳る源氏一族の学校だ。
裏社会の西条、警察組織の東郷、財界の北条、宗教の南野といったら日本を牛耳る源氏一族の四天王といわれるもんだ。
そのトップの子や、孫組織の次世代を担う子供は皆、もれなく大和薫英学院に入る。
逆に言うと、ここをでないとそれぞれの組織で上には上がれない。
ここで培った人脈が大事なんだ。
だから、ほとんど小学や中学から入る。
俺は兄が抜けたので、兄の代わりに急きょ、高校から入ることになったんだ。遅いぐらいだ。
いづれかの四天王に繋がらない一般は、賄賂を払ってでもお近づきになりたい親が、子息子女をいれる。
すごい競争率でなかなかはいれないはずた。せっかく入った学校でも、厳しい環境に脱落するものだって多い。であんたは?」
「ぼ、僕は田舎から出たくて、インターネット試験で合格したから。そんな源氏一族が存在していることも知らないし、どこの四天王?にも入っていない」

源氏一族とは聞いたことがあった。
陰謀を暴くサイトか何かで、何気ない事件が実は巧妙に隠されたテロの未遂事件であり、日本国の混乱を防ぐために、警察や暴力団、財界に繋がる源氏一族が情報操作している、などの眉唾の内容だった。

「ネット試験!?なにそれ。総合クラスで本当に、般ピーなの?母方の姓は?」
日々希は母方の姓は知らない。
一度も母が父親と出会う前の話を自分にしたことがないことに今更ながら気がついた。
「母の姓は知らない」
声が震える。
以前に母の衣装ダンスの中から見つけた封筒の宛名には、母の旧姓が書いてあったような気がする。
それにはなんて書いてあったか?

「特待生だから入学することにしたんだよ」
「まじそれ!?」
パタンと西野剛はベッドに背中から倒れこむ。
「特待生って成績がめっちゃ優秀か、理事長の推薦者でないともらえないやつだよ。
ひびき、あんた、何者なんだ?
般ピーで頭が良くて、その面だったら、あちこちからお誘いがあるだろうから、気を付けてね?」
なんだか、さらに血が下がっていく。
「お誘いって、どんな?」
「この学校では、宙ぶらりんで卒業するなんてあり得ないよ。東郷、西条、南野、北条からそれぞれ仲間というか、下僕?というか配下に率いれようとするお誘いがあるということだよ」
「入らないと駄目なのかな」
なんだか、面倒な予感がする。
お手てつないでしょんべんな気分だ。

「どこかに入れば卒業後の進学や就職は安泰。
四天王に気に入られたら、彼らのすぐ下で組織を動かせる。日本を動かす快感を得られるぜ?
気に入られなければ、主要な源氏一族の会社に入れないだろうよ?
例えば西条に気に入られたのなら、西条組はいやだろうから、西条貿易関係に入れる」

まさか、入学そうそう、人生を決めなくてはいけないなんて思いもしなかった。
決められなくて、総合クラスを選んだのだ。

「剛、まさか今の話全部冗談でした~なんてお茶目なこといわないよね?」
「冗談でもそんなこというかっ」
剛は憤慨して言うが、付け加える。
「でもま、将来が決まるんだし、どこでもいいのなら、じっくり東西南北見極めて、きめたらいいんじゃない?
俺は西野で西条派から抜けられないが、ひびきは自由なんだろ?ある意味、羨ましいよ。どこに所属しても、ルームメイトだし仲良くしようぜ。
できれば東郷はやめてほしいけど。
あんたの、なんかぽわっとしたところ、気に入ったぜ?」

ぽわっとしたところとは、田舎育ちから醸し出している雰囲気なんだろうと日々希は思う。
楽しみだった高校生活が始まりもしないうちに暗雲に翳るのを感じたのだった。

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