薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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春が終わると

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 カランカラン

「いらっしゃいませ」

「こんにちは、薔薇紳士さん。」

 ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はこの店の常連さんです。

「百合様、ようこそいらっしゃいました。お好きなお席へどうぞ。」

「ふふ、私はいつも決まってカウンター席よ。」

百合は三人の子どもを育てる元気な主婦で、以前この店で悩みを聞いてもらってから、時々羽を伸ばしに来ます。
この喫茶店は悩みを抱えるお客様しか来店されませんが、一度来店された方なら悩みがなくとも来店することが出来ます。百合もそれに倣い何度も来店され、今ではすっかり常連さん。薔薇紳士も下の名前で呼ぶほどです。

「本日も紅茶で?」

「そうですね、疲れが取れるような紅茶をお願いします。」

「かしこまりました。」

薔薇紳士は百合の注文に沿い、リフレッシュの出来る香り穏やかなケニア紅茶のミルクティーを淹れます。薔薇紳士の無駄の無い動きの中で、ふわっといい匂いが漂います。

「いい匂いですね。」

「紅茶は匂いだけでもリラックスできるものです。ところで百合様、疲労回復の紅茶をご注文とは、お疲れなのですか?」

「えぇ、まあ。ほら、今春で卒業シーズンでしょ?一番上の子が今年小六だから卒業でね。下も下で、進級の手続きだの書類とかすること多くてさすがに疲れちゃうんです。」

「春ですものね。」

「えぇ。でも大変だけど、あんなにちっさかった子どもがもう中学生かぁ、とか、もう小学校の制服着ないんだよなぁ、とか考えると寂しいものもありますけどね。嬉しいような寂しいような...春ってほんと、そういう季節ですよね。」

百合は感慨深く話します。百合の話を聞きながら紅茶を淹れていた薔薇紳士は紅茶をコトリと百合の前に置きます。

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

「春とは様々な感情があふれ出る季節ですが、それでも春が終われば夏が待っています。夏には夏の、また大変なこと、成長を感じられることがありますからね。季節の移り変わりというものは、いつだって感慨深いものですね。」

「ふふ、そうですね。はー、母親って大変だけど、最高ですね。何だか薔薇紳士さんと喋っていると子どもたちに会いたくなっちゃいます。」

「お帰りになりますか?」

「まさか、しっかりリフレッシュしてから帰りますよ。」

「それはそれは。」



 春は出会いと別れの季節。別れに嘆いても、春が終われば夏が来ます。出会いに心躍らせても、春は終われば夏になります。春には春の、夏には夏の、辛さ楽しさがあるのです。どんなに時が続けばいいと思おうと、必ず次の季節はきます。ならば、今を精一杯に生きていたいと思いませんか?


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