薔薇紳士の興じ事

世万江生紬

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冬の風は

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 カランカラン

 「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ~。」

「こんにちは、薔薇紳士さん、いちごちゃん。」

 ここは悩めるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はこのお店の常連さん、高橋百合です。百合は三人の子どもを育てる元気な主婦で、息抜きにたまに訪れます。

「百合さんこんにちは~。今日もいつもの紅茶でよかったですか?」

「えぇ、ありがとう。」

いちごはニコッと笑うと、百合の脱いだコートを椅子の背もたれにかけます。そのコートは長年使っているのが分かるくらい、薄くボロボロ、着古した雰囲気のするものです。

「今日は冷えますねー、もう冬って感じです。」

「そうね、もう衣替えが大変ったらないわ。」

「おぉー、百合さん主婦ですもんね、お子さん三人分の衣替えとなると結構な重労働そうです。」

「ほんとよ、これでもかってくらいの肉体労働。まあでも子どもたちの服を見てると、もうこんなに大きくなったのかーなんて感慨に浸ったりしちゃって。」

「わぁ、素敵です!服って子どもの成長ダイレクトに感じそうですもんね。」

いちごと百合が他愛もない話に花を咲かせていると、紅茶の良い香りがふわっと漂ってきました。

「紅茶、入りましたよ。どうぞ。」

「ありがとうございます、薔薇紳士さん。」

百合はお礼を言うと、ゆっくりのカップを口に運びました。そしてこくりと一口飲むと、「はぁぁぁぁ」と声を上げます。

「美味しい~。やっぱり薔薇紳士さんの紅茶を飲むと心が落ち着きます。」

「ふふ、ありがとうございます。しかし百合様?」

「はい?」

薔薇紳士はふわっと笑顔を見せると、少し真面目な口調になります。その薔薇紳士の様子に、百合もほんの少しだけ体を強張らせます。

「先ほども言われていましたが、そろそろ冬も近づき寒くなってきます。冬の風は夏の風より冷たい。体も壊しやすいです。百合様はどうもお子様方を優先する傾向がありますね、そちらはとても良いことだとは思います。しかし、百合様ご自身の体も大切にしてください。そちらのコートも、新しいものにされても罰は当たらないと思いますよ。」

百合は薔薇紳士の言葉を真剣に聞いていましたが、やがて俯き、カップを見つめました。そしてカップに残った最後の一口を一気に飲み干しました。

「薔薇紳士さんにお説教されちゃいましたね。」

「失礼しました、出過ぎた真似を。」

薔薇紳士は頭を下げながら言います。頭を下げる姿も紳士の振舞です。

「でもでも!自分も思いますよ!百合さんすごく頑張ってると思うけど、自分は百合さんも元気でいてほしいです!体に気を付けてほしいです!」

「あら、いちごちゃんまで。ふふ、ここまで言われちゃ、私も気を付けなきゃね。お説教も、この年になるとされないもんだから、されるとちょっと嬉しいものね。」

「自分はお説教したつもりはないんですけど...。」

「あぁそうね。ごめんなさい。でも、私のためを思って言ってくれてるって結構嬉しかったわ。ありがとう。薔薇紳士さんもありがとうね。」

薔薇紳士はまた紳士に、軽く頭を下げます。

「ま、確かに冬の風は冷たいし、コートも新しいのにしましょうかね。あ、薔薇紳士さん、紅茶おかわり頂けますか?」

「かしこまりました。」


 この日、いつもより早く帰って言った百合はそのままの足でコートを買いに行ったとか。新しく買ったコートを薔薇紳士といちごが目にするのはまた別のお話。
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