薔薇紳士の興じ事

飛行機は着陸するまで

　カランカラン
　
　「いらっしゃいませ。」

「いらっしゃいませ～。」

「はっは！ついに夏目莇も国外の地に足をつけたよ！！」

　ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様はこの店の常連、新人作家の夏目莇です。いつにも増してテンションがおかしい莇の様子に、いちごは苦い顔をします。

「莇さん、なんですか？海外に行ったんですか？」

「あぁ！聞いてくれるかいストロベリー！」

「うざ...いえ、なんだかノリが鬱陶しいですね。どうせ聞かなくても勝手に話すじゃないですか。」

「言い直してもあまりマイルドになっていないね！？まあいい！聞いてくれ！この夏目莇、次回作を海外が舞台のものにしようと思っていてね！勉強のためにイギリスのロンドンに行ってきたんだ！素晴らしい地だよあそこは！まさに第二の故郷！」

「違いますよね。」

いちごはハイテンションな莇の言葉に冷たいツッコミを入れます。その冷たさも、今の莇には全く響きません。

「まあ違うんだが！それにしても初めての飛行機は感動だったよ！」

「莇さん飛行機乗るの初めてだったんですね。」

「まあね！初めての飛行機は着陸するまで飛び続けていたよ！あっはっはっは！」

莇は高々と声を上げて笑います。しかしその大きな笑い声は他のお客様の迷惑になるのでいちごが注意しようとしたとき、莇の前にコトリと紅茶が置かれました。

「莇様、楽しげなのは分かりましたからもう少しお静かに。他のお客様のご迷惑ですよ。」

「あ、はい。すみません...。」

薔薇紳士の丁寧な注意に、莇はすっかりしおらしくなります。そして紅茶をこくりと飲むと、落ち着きを取り戻したようでした。

「はぁ...美味しい。」

「それは良かった。莇様、ロンドンが舞台の次回作、楽しみにしていますね。」

「薔薇紳士さぁん...！」


　この後莇はロンドンのお土産を渡し、落ち着いた様子で、でもどこか興奮を抑えられないようにロンドンで体験した思い出話を楽しそうに話しました。