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8話 召喚侵攻

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 オスカーは語る。

「あの城は今でこそフォーリア城という名だが、20年前まではローレンツ城という名だった」

「ローレンツって……!」
 オスカーの苗字だ。

 オスカーは静かにうなずいた。
「俺がまだ8歳の頃、我がローレンツ王国は召喚者を従え急に侵攻してきたフォーリア王国に完敗した」

「召喚者!?」

「そうだ。その召喚された子は当時まだ5歳だったにも関わらず、人を石にするスキルを持っていた。当時のローレンツ王国の王都は、一晩で全員が石にされたんだ」
 オスカーは悔しそうな表情を浮かべる。

「ひぇぇ、ヤバすぎる……」

「俺の父上、つまりローレンツ国王は無条件降伏を受け入れ、その後処刑された。母上は国外追放となり没落貴族となった。残ったのは俺と、5歳と3歳の弟2人。俺が一生フォーリア王国に仕えるのを条件に、弟2人はフォーリアの孤児院へ逃れることとなった」

「ふぇぇん……ひ、ひどい……」
 私は気付けば涙をダラダラと流していた。本当に泣きたいのは彼の方だろうに。

「エマ……」
「あちゃー、ピュアなエマちゃんには少々キツい話だったか……」
 と、ノエル。

「ご……ごめんなさい。ぐすっ……続けて下さい……」

「……分かった、続けよう。それからローレンツ王家は事実上の消滅、領土は全てフォーリア王国のものとなった。だが、俺の母上が国外に出たことで、この惨劇は島中の国へ知れ渡ることとなる」

「お母様が他の国へ伝えてくれたんだね……」

「あぁ。ローレンツ王国は他国との交友も深かったことから、どうやら母上の話は聞き入れてもらえたらしく、このフォーリア王国の一方的な侵攻は後に『召喚侵攻』と呼ばれることとなる」

「召喚侵攻……」

「本来なら国同士のいがみ合いは他国が参入することはないが、召喚という行為の危険性について、島の諸国会議にて議論されることとなった。フォーリア国王も召喚した事実をもみ消すことはできず、召喚者を制御しきれず被害が拡大してしまったことを明かした。また、召喚自体はこの島では禁止されていたことではなかったため、その国王の処遇が問題となった」

「ど、どうなったの……?」

「結果的に、国王の王位は将来的に剥奪されることとなった。というのも当時ドム王子は王妃のお腹にいる状態であったため、王位を継承することもできず、かと言って別の王家を立てるほどの有力な貴族もいなかった。だから、元ローレンツ領の復興に尽力する制約付きで、フォーリア国王の王位剥奪は猶予されたんだ」

「あ、だからローレンツ城に……?」

「そうだ。ローレンツ城を拠点として、フォーリア国王は確かにローレンツ領を復興させた。俺はその監視の意味でも1人ローレンツ城に残り、騎士として主君の監視を続けていた。そして年に1回の諸国会議でその成果を報告していた」

「そう、だったんだ……フォーリア国王は反省してたってこと?」

「どうやらそうらしい。毎晩、人が石になっていく夢にうなされるようになって、ようやく自分の過ちに気付いたと俺に謝罪してきた。俺としては到底受け入れられなかったが、ローレンツ領が復興してきたことはこの目で見てきたし、過去を憎むよりも未来を見据えようと思い、その謝罪を受け入れた」

「そっか……辛い選択だったね……」

「それでも、母上と弟2人の貴族への復帰を支援して、弟2人は今侯爵と伯爵の位置を得ていて、母上も今は上の弟の屋敷で暮らしている。俺は騎士団長への任命があったため、地位は辞退した」

「えっと、それじゃぁ……無理くりにも丸く収まった感じなのかな……?」

「そうなんだ。俺らももう精神的にも疲れていたから、それで収めようと思っていたんだ……でも、それも長くは続かなかった……」

「フォーリア国王、何かあったんだよね……」

「その通りだ。だがもう辺りもだいぶ冷えてきたな。続きは明日にしようか」

「うん、分かった……実は、眠たいです……」
 私は重たいまぶたをこすった。

「そうだな。ノエルはもうとっくに寝てるしな」
「えっ!?」

 私が驚いてノエルの方を見ると、彼は座ったままスースーと寝息を立てていた。


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