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3話 国を追放された職人たち
しおりを挟むボクたちはひとまず集落の人たちからこの世界の説明を受ける。
あの黒いモヤモヤの化物は“魔物”で、地面から定期的に湧き出てくるらしい。それを防ぐためには結界が必要。
しかし、結界作成に必要な魔石が取れなくなってしまい、移動式の集落で大草原を転々としながら日々魔物に怯えて過ごしていたという。
その時、ボクは直感的にお手手の肉球を地面へと押し当ててみた。
すると、ボクの手から白い光が広がっていき、やがて集落中の地面を埋め尽くした。
⸺⸺白の領域⸺⸺
はっ、何故か脳内に技名が……!
「おおお、これは結界だ!」
人々が感嘆の声を上げる。
「レクスお主、これはまさか聖王のスキルとやらではにゃいか?」
ルナが白い地面を突っつきながら言う。
「そうかも……。そうか、ボクは聖王となって魔物に強くなったんだ……!」
「おぉ、聖王様……!」
「聖王……!」
人々がボクを崇める。
「うん、聖王って呼んで。ひとまずここはもう大丈夫だね。それで君たちは……50人くらいかな。何で魔石が取れなくなっちゃったの?」
ボクの問に対し、角の生えたオスの人間、オーガ族の男が代表して答えた。
「はい……我々は皆、国を追放されてしまったのです。結界用の魔石のある鉱山は国の所有地ですので……」
「追放? 何で?」
「国王が我々の技術を独占するためです。我々は皆、国では一応名の知れた職人だったのです。例えば私は鉱石職人で、鉱石の加工を得意とします」
「独占って、おじさんの職人の技術が盗られたってこと?」
「はい……全く身に覚えのない罪を着せられ、レシピや職人道具が没収されました。そして、出ていかなければ家族共々処刑すると言われ、家族を連れて国を飛び出しました。他の皆も一緒です。皆職人と、その家族たちです」
「この愚王がぁ!」
アビスが怒りを顕にする。
「……ズルい」
と、ナーガ。
「妾たちでその国滅ぼそうぞ」
ルナは怖いことをサラリと言う。
「ま、待ってください。私たちはもういいのです。あの国には国王だけでなく普通の人々も住んでいます。どうか、滅ぼすのだけは……」
「お主、優しいのう」
ルナは柔らかな眼差しをオーガの男に送る。
「それに、元々重税で苦しんでいたので、正直解放された気持ちもあります」
「でも、魔物のいるところを転々と移動する生活は大変だね」
ボクは野良猫時代のボクたちを思い出す。もし、道路から魔物が湧いてきていたら、当時のボクたちではどうすることもできなかったはずだ。
「はい……。そこなのです。この島には国は1つしかなく、整備され資源豊かな東側は国が独占しています。私たちが今いるのは、西の未開拓の地なのです」
オーガの男にそう言われ、ボクはあることを思いついた。
「未開拓なら、ボクたちで開拓すればいいよ」
人々がざわざわし始める。
「そう、簡単なものでは……」
そう弱気になるオーガの男をボクは鼓舞する。
「大丈夫。ボクたちが君たちの安全を守るし、必要な材料があればこの3匹がひとっ飛び」
「お主、飛べぬことをいいことに我らに押し付けたにゃ?」
と、ルナ。
「ごめんよルナ。でも、ルナもこのままこの人たちが死んじゃうのは嫌でしょ?」
「もちろんじゃ。妾も一度捨てられた身故、この者らの気持ちは痛いほどわかるぞ……」
そっか、ルナは、捨て猫だったんだ。
「そうだな。我ら流浪同士、共に手を取り合っていこうではないか!」
「うむ……ワシ、頑張る」
アビスとナーガもそれぞれやる気を見せる。
「聖王様方……。なぁみんな、私ら、この方々の元でもう1回やり直してみないか?」
「そうね、安全にまた物を作れるなら、ぜひチャレンジしてみたいわ!」
顔の横から魚のヒレを生やしたクラニオ族のメスがそう言う。
魚の美味しそうな匂いがするのは気のせいかな……。
そして皆次々に賛同していき、満場一致で島の西側を開拓していくこととなった。
「まずは拠点の確保だね。ボクお魚さんがたくさん食べたいから海の近くがいい」
ボクはここぞとばかりに提案する。
反対する者も誰もおらず、ルナが浮遊の力を使って集落を浮かせると、皆で海の見える南側へ大移動した。
浮遊って、自分以外の物も浮かせられるんだ……ずるいやい。
⸺⸺名もなき島、西側、南の海岸⸺⸺
すっかり暗くなった頃、ボクたちはようやく海岸へとたどり着く。
「着いた! よし、今日からここがボクたちの拠点だ。まずは安全を確保しよう」
ボクら猫組が辺りの魔物を一掃する。
そしてボクは80cmほどの小人であるドワーフ族のおじさんのドミニクと力を合わせて集落周辺の結界を整備する。
どうやらボクの“白の領域”という技はボクがずっと力を発動し続ける必要があるけど、結界技師であるドミニクはその力を集落周りの柵へ閉じ込めることができ、それが結界として機能し始めたのだ。
この日は人間たちがみんなで夜釣りを楽しみ、ボクたちは新鮮なお魚をたらふく食べることができた。
元野良猫であったボクはこの日初めて“焼魚”というものを食べて、美味しすぎて泣きそうになった。
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