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4話 衣食住を整えよう

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 翌日、人間に合わせて夜中の間に睡眠を取ったボクたちは、日の出と共に動き出す。

 家の屋根の上や海岸の釣り道具の横など、思い思いの場所から集落の中央へと集合する。

 すると、人間たちは既に集会所と決めた場所に全員そろっていた。

「聖王レクス様、魔王アビス様、ルナ姫様、竜王ナーガ様、おはようございます!」
 人々は声を揃えて挨拶をした。
 それにしても竜王ナーガって……やっぱ彼だけ別の生き物になってるよね?

 ボクは気を取り直して人々に問う。
「ボクたちは見ての通り猫で、人間たちが生きるために絶対に必要なものが分からない。それをまずは教えてほしい」

 人間のうちの1人が答える。
「衣・食・住です!」

「なるほど……確かに、みんな服を着ているね。それは前の世界でもこの世界でも同じこと、か……」
 ボクはちょっといいなぁと思いながら人々の服を見る。

「この中で、住はこの集落があり、食は魚があります。しかし、衣類は材料がなくクラフトが出来ません。我々は……国を追い出されてからもう何か月も同じ服を着ています……」
 さっきの人間がそう補足をした。
「同じ服では、何かダメなことでもあるの?」

「はい、我々は、あなた様方のように毛づくろいをすることができません。そして肌の露出を嫌う生き物です。常に何か衣類を身につけていなくてはなりませんが、替えの衣類がありません……」
 ふむ、確かに向こうの世界でもボランティアさんは毎日違う服を着てきていた。

 人間は説明を続ける。
「そのためバイキンが繁殖して……臭くてかゆいです……。今までは生き残ることに精一杯で気にしている余裕もありませんでしたが……。こうして安全を確保していただいた現在、皆気になりだしています……」

「分かったよ。その服っていうのを作るには何が必要なの?」
「服職人の私が説明します。エマと申します」
 ボクたちの居た世界の人間と同じような容姿のヒュナム族のメスが名乗り出る。
 服職人さんはエマというヒュナムのメス……と。ボクは人間の情報を頭に叩き込む。

「まずは何をするにも職人道具です。職人用の“作業台”、そして、布製であれば“布”と“糸”と“針”です」
「それはどうやって用意できる?」

「自分が用意します」
 そう言ってイヌ耳のオス、クルス族の人間が名乗り出る。ちなみにクルス族のメスはウサ耳らしい。

 彼はそのまま話を続ける。
「自分は素材職人のジョンと申します。職人たちが作りたいものの材料として使えるように元の素材を加工します。作業台は家を建てる時に必死に集めたメタの木の枝がまだ少し残っているのでそれを加工します。それから……」

 どうやらジョンが言うには、木製や紙製の物はメタの木の枝。布はテーラのつる。糸はシルクの実、綿はコットンの実、ついでに革はクエのつた
 そして針は金属が必要だけど今は採取が難しいから、そこらへんの石で代用するとのこと。
 この辺りがあれば衣類だけでなく、住居内の布団等も作れるらしい。

 この移動式の住居を作る際も、メタの木を確保するため草原よりも強い魔物が出る森へ命がけで取りに行ったのだそうだ。
 そこでは満足な採取もできず、必要最低限の枝しか集められなかったそうだ。

 ボクたちにとって、魔物が強いとかはどうでもいいことだった。
 そのため早速、それらが採取できる北西の森へ、3匹を派遣した。
 ボクは飛べないから……お留守番。


⸺⸺1時間後。


 彼らは大量に持って帰ってきた。

 そうか、ルナが浮かせるから手に持てるだけとかそういう概念がないんだ。でも、あんまり重い物は魔力の消費が激しいんだよ確か。
 ちなみに枝を切る作業はアビスが“猫使い魔”を召喚してみんなで集めたらしい。何それ召喚とかできるの? みんな、ズルイなぁ……。

 そして素材職人のジョン、服職人のエマが狂ったように作業を始めた。
「るぁぁぁぁぁ! 素材作るぜぇぇぇぇ!」
えぇぇ! 縫いまくれぇぇぇぇ!」
 何だろう、楽しんでいるというよりは、今までクラフトできなかった分の鬱憤うっぷんを晴らしているような、そんな感じだった。

 ボクはみんなが作業をしている中、集落の外れに植林場を作っていた。
 地属性の初級魔法を使って土を耕し、みんなが取ってきた枝や実などを地面に埋めていく。そして、水属性の初級魔法で水やりをして、緑属性の魔力を送ると、あっちこっちからぴょこぴょこっと芽が出てきた。
 枝やつたなどは根を張り少し伸びていて、引っこ抜こうとしてもなかなか抜けないくらいにしっかりと根付いていた。

「よし、これでもういちいち素材を取りに行かなくても大丈夫だね」

 ふぅっと一息つくと、新しい服に着替えた人々がそこら中で楽しそうに会話をしていた。
 その中のエマがボクを見ると何か小さい服を持ってこっちに走ってきた。

「あぁ、レクス様。ここにおられたのですね。レクス様のお召し物も用意しました。良かったら……」
 そう言って差し出されたのは白い服に赤いズボン、そして赤いローブだった。

「わぁぁ、ボクも服欲しかったんだ!」
 エマはボクの嬉しそうな表情を見るとノリノリでその服を着せてくれた。

「良くお似合いです! 王の威厳が感じられますよ!」
 エマはそう言ってニコニコ笑いながら拍手をしている。
 なるほど、これは王様の格好なのか……。なんか毛がムズムズして落ち着かないけど、ボクも人間みたいにすっぽんぽんを卒業できたのだ。
「ありがとう。できればもう1着欲しいんだけど……」
 だって洗わないとバイキンが……。

「もちろん用意してありますよ! 建築職人のアダンが皆様の住居を用意しましたので、そちらに置いてあります」
「にゃんと!? ボクたちの住居!」
 ボクはびっくり仰天する。家なんて……入ったことない……。
「はい、こちらですよ」

 エマに案内されて集落の中央へ行くと、集会所のあった場所に人間の家ほどの木製のお城が出来上がっていた。

「お城、お城だぁ!」
「はい、レクス様は王ですから」

 ボクはぴょんぴょん跳ねながらそのお城の中へと入る。
 中はワンルームだったけど、巨大なキャットタワーにふかふかの小さいベッド、キャットウォーク。そしてたくさんの爪とぎやトイレが設置されていた。

「わぁぁぁぁ……!」
 ボクはまたもや感動で泣きそうになってしまったが、先に入って寛いでいた3匹が見ていたので、なんとか泣くのをこらえた。

 もちろん他の3匹も服を用意してもらったようで、アビスは悪魔っぽい黒のタキシードにマント、ルナは戦いに邪魔にならないようなスタイルの着物、ナーガは砂漠の王の様なローブをそれぞれ着ていた。
 エマの仕立てはみんなのクセつよ個性をよく反映していて感服だね。

 家の中にはヒュナム族のメスのアンナという子もいて、この子が今日からボクたちの身の回りのお世話をしてくれることになった。
 ちなみにアンナはエマの娘さんでピチピチの16歳だ。

 そして、この日からボクはふかふかのベッドをふみふみしながら寝るのが日課になった。




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