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2話 名もなき島へ

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⸺⸺ヴァース暦1000年、南洋、名もなき島⸺⸺

「ぎにゃっ」
「ごはっ」
「んにゃっ」
「ふにゃっ」

 ボクたちは順番に地面へ落下した。
 いててて、と身体を起こすとそこには、広い草原が広がっていた。

 そして、みんなを見たボクはビックリする。
 アビスは悪魔のつばさが、ナーガは竜の翼が、2匹とも猫の身体に合わせた小さいものだけど、器用にバッサバッサと飛んでいる。
 ルナは外見の変化はなかったが、2匹同様空に浮いていた。

「もしかしてボクだけ飛べない!? あれ、でもなんかボク足だけで立ってる!」
 ボクだけ普段の何の変哲もない猫……と言いたいところだけど、何故なぜか二足歩行になっていた。

「貴様、聖王であったか? あれでは飛べぬのか?」
 と、アビス。

「うーん、飛べないみたい……」

「にゃぜお主も浮遊系のスキルにせんかったのじゃ。浮き上がるのはにゃかにゃか気分が良いぞ」
 ルナはそう言ってふわふわ浮いている。

「竜になれた……嬉しい……」

「スキルの選択ミスったかも……」
 ボクは異世界へ来ていきなり後悔した。

 まさか聖王のスキルって二足歩行になるとかじゃないよね!?


 あてもなくただひたすらに続く草原をトボトボと進んでいると、前方に木製の柵で囲われた小さな集落が見えてきた。
 しかし、近付くにつれて人の悲鳴が聞こえてきて、何か黒いモヤモヤしたものが動き回っているのが確認できた。

「何だろう? 行ってみよう!」
 ボクたちは種族スキル『好奇心』が発動し、一目散にその集落へと向かった。

⸺⸺名もなき集落⸺⸺

「きゃぁぁぁ!」
『ガルルル……』
 人々はその黒いモヤモヤから逃げ回っているが、追いつかれ攻撃を喰らう。
 中には剣や斧を持ち戦う人もいたが、なかなか苦戦をしていた。

 その黒いモヤモヤは狼のような姿をしていて、目は赤黒く光っていた。

深淵しんえんひそみし魔物が人々を襲っているのか……」
 と、アビス。そうカッコつけてはいるものの、よく見ると尻尾がお股に巻き付いている。
 どうやらあんな怖そうな格好に変化をしてもあれは怖いらしい。

「人間を助けて恩を売ろう。大丈夫、ボクたちには最強属性にチートスキルがあるじゃないか!」
「レクス……。貴様なかなかいいことを言うではないか」
「うん……恩、売ろう」
わらわあがめ称えさせてみせようぞ」


 ボクたちは集落へと飛び込んだ。

 まずボクの番。どういうスキルとか、属性とか、イマイチよく分からないのにどうすればいいかは分かる。
 えっと、家がたくさん建ってるからやり過ぎちゃいけない。
 ボクはそのことを念頭に置いた。

 ボクは右のお手手を上げて肉球を化物の方へと向ける。そして少し念じるとすぐにお手手の前に黄緑色の光の魔法陣が現れた。

「くらえっ、中級緑魔法、ニードル!」

 ボクがそう唱えた瞬間、化物の真下から茨のツルがボンボンと飛び出して来て、次々に化物を貫いていく。
 おお、こんなすごいことができるようになっていたとは……!
 化物はある程度ダメージを受けると黒い霧となって消滅するようだ。

 逃げ惑っていた人間もボクたちの存在に気付き、次々にボクたちの背後に逃げ込んできた。

「誰、いや、何、いや……どなたか存じませんが素晴らしい魔法でした……! どうかお助け下さい……!」
 どうやらボクたちのことをどう認識していいか分からないみたい。
 でも大丈夫。ボクたち自身も分かってないから。


 そして次はアビスの番。
「いでよ、混沌こんとんなる黒き刃」
 アビスがそう言うと地面が黒くドロドロと溶け出し、その中から彼よりも遥かに大きいかまが出現した。

「小悪魔の悪戯いたずら

 アビスが短いお手手をちょこちょこと動かすと、鎌はひとりでに浮き上がり、化物をズバッズバッと切り裂いていった。
 人間からもわぁっと歓声が上がる。


 次にナーガ。彼は軽く息を吸うと、ふぅっと吐き出す。

「竜の吐息」

 魔力のかたまりのような光の弾が彼の口から勢い良く飛び出し、何体もの化物を次々に貫いた。彼は生物学的にはまだ猫に属するのであろうか。ボクはそれがどうしても気になる。


 ラストはルナ。
「妾の華麗かれいにゃる一撃、受けてみよ! 爪月そうげつ!」

 彼女は空を蹴りその勢いで化物を引っく。
 すると普通の猫の引っ掻きではなく、大きな5枚の真空刃しんくうはが飛んでいき、化物を何枚にもおろした。
 ルナはまさかの物理系だ。か、カッコいい……。

 ボクたちはあっと言う間に化物を全滅させると、生き残った人々に感謝され崇拝すうはいされた。
 そして、ボクは怪我をした人たちへ肉球を向ける。

「中級範囲白魔法……ホールクラティオ!」
 ボクの肉球から放たれた光に包まれ、人々はみるみるうちに怪我を回復していった。

「ありがとうございます、本当にありがとうございます。この御恩は一生忘れません」

「それならボクのこと、王って呼んでもらいたいんだけど……」
 ボクがチラッとそう言うと、人々は皆次々に「王よ」「王」「王様」と即座に連呼れんこしてくれた。
 王になるって、簡単なことだったんだ。

 ボクはこのとき、よし、この島の本当の王になろう、と決意するのである。





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