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1話 できるなら選択肢にない選択をしたい

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 ボクは野良猫。性別はオスで年齢は多分2歳くらい。
 がらはハチワレでお手手とあんよ全部に白い靴下をいている。
 まぁ、可愛いってこと。

 ボクには夢がある。

 それは、一国の王になること。

 王様になって、毎日カリカリをいっぱい食べて、ふかふかの毛布でふみふみをして、陽の当たる窓際でゴロゴロしながらお昼寝をしたいのだ。


 今日もそんなことを夢見て公園で猫友達と一緒にボランティアさんからカリカリをいただく。

 食後、公園のベンチの上で毛づくろいをしていると、何やら林の方が騒がしいことに気付いた。
 友達同士の喧嘩だろうか。ボクの種族スキル『好奇心』が発動して、ボクは一目散にその林へと入った。

 林に入ると、3匹の猫友達が集まっていた。その友達の目の前には、不思議に光る魔法陣が地面に刻まれていた。
 ボクはちょっと怖くなって尻尾がへにょんと下がってしまったが、やはりスキルの発動には抗えなく、3匹の友達と共に肉球をぷにっとその魔法陣へと押し当てた。

 すると、魔法陣から強い光が放たれ、ボクたちは逃げる間もなくその光に吸い込まれた。

⸺⸺

 気を失っていたボクが目を覚ますと、そこはオレンジ色の優しい光に包まれた、何もない空間だった。
 地面はないのに落ちることもなく、ただふわふわとただよっている。

 3匹の友達も近くでふわふわしていて、呆気にとられて固まっていた。
 せっかくなのでこの友達も紹介しようと思う。

 1匹目は白猫のオス、尻尾だけ黒く、尻尾の先は白い。友好的で、よく鼻チューやお尻をぐ仲。

 2匹目は茶トラのオス、ビビリで何かあるとすぐ逃げちゃうのに、今回の魔法陣はよく逃げなかったなと思う。多分種族スキルが発動しちゃったんだな。

 ラスト3匹目はミケのメス。急に近寄ってきたり、ぷいっとどっか行ったり、一番何考えてるかわからない子。女の子心は難しい。

 ボクたちが4匹でふわふわしていると、目の前に白いローブが現れる。
 ローブはひらひらとなびいていて、フードの中から声が聞こえてきた。

『やぁ、いらっしゃい。僕はこの次元の狭間の管理人』

 コノジゲンノハザマノカンリニン?
 変で長い名前だ。ジゲンノさんでいいや。そもそもローブの中は真っ暗だけど、どんなお顔の人なんだろう。そもそも人なのか……猫かもしれない。

 皆無表情でローブを見つめていて、白猫くんはフレーメン反応のように口が微妙に開いている。

『君たちはどうやらまれに出現してしまう転移トラップに入ってしまったようだね。これから君たちは異世界ヴァシアスへと転移される。そのままじゃ何かと大変だろうから、人語を君たちに提供しよう。これは僕からのサービスだよ』

 ジゲンノさんのローブがひらひらと揺れて淡い光を放つと、ボクは喉に違和感を感じた。

「アレ……?」
 はっ、心の声が人間の言葉になった……!

「ワシ、しゃべっとる……すご」
 茶トラくんは落ち着いたトーンでボソッと呟いている。
 もしかして茶トラくんはビビリというよりは落ち着いて達観してる感じなのかな。
 それにしてもまだ3歳くらいだから人間にしたら30歳前後だと思うけど、ワシって貫禄かんろくがあっていいね。

「これがわらわの声……にゃんと……にゃん……にゃー……にゃんとにゃまめかしい」
 ミケちゃん……“な”が言えないんだね……。

 きっと白猫くんはフレンドリーで穏やかに話すんだろうな……。ボクは白猫くんへ目を向ける。

「……ついに俺様は人語を理解し、人知じんち超越ちょうえつせし存在となった……!」

「……うそだ」
 どうしよう思ってたのとだいぶ違う。ボクのお尻嗅ぐとき一体何を思っていたのだろう……。

『どうかな、しゃべれるようになった気分は。気に入ってくれたかな』
「ありがとう。まだちょっとなれないけど、新鮮な感じで気に入ってるよ」
 ボクは素直にお礼を言う。
『それは良かった。大丈夫、すぐなれるよ』

「悪くにゃ……悪くにゃい。お主、めてつかわすぞ」
 ミケちゃんは“な”が発音できなくてもめげることなく女王口調をつらぬいている。何考えてるか分からなかったけど、多分意外に単純でピュアだ。
『うん、頑張って練習しようね』

「すごい……」
 茶トラくんは相変わらずボソッと話す。
『ありがとう』

「素晴らしいぞ、貴様。俺様の下僕しもべにしてやろう。喜ぶがいい」
『……ごめんね、僕こう見えて結構忙しいから』
 ジゲンノさんも大変なんだな。

 ここでボクはある提案をする。
「そうだ、みんな名前決めない? なんて呼んだらいい?」
「良くぞ聞いてくれた竹猫たけねこの友よ」
 白猫くんはそう言って犬かきならぬ猫かきをして近寄ってくる。
 白猫くんもしかして、“竹馬ちくばの友”って言いたいのかな。
 無理に猫仕様にするから響きが“たけのこを一緒に取りに行く友達”だよ。

 でも、あんな口調でもボクのことちゃんと友達って思っててくれてたのはちょっと嬉しい。

「俺様のことは“魔王”と呼べ」
 白猫くんはそう言って口がフレーメンになる。
「え、魔王!? 名前ってそういう事なの? しかもなんでフレーメンになるの。それってニオイを嗅いだときになっちゃうやつじゃん。使いどころ間違ってない?」

「むっ、普通の猫はそうなのか? 俺様は決めポーズとして使っている」
 そして再びフレーメンへ。
「そっか……」 

 一応伝えておくと、フレーメン反応とはボクらがニオイに興味を持ったときにもっとよく嗅ごうと思って口がちょっと開いてしまう生理現象だ。
 人間はこの顔を“臭がってる”とか“変顔”だとか言って面白がるけど、決して笑わせようと思ってやってるんじゃないんだよ。
 白猫くんもそうだって、信じたい……。未だに口がフレーメンになっている白猫くんをボクは呆れ気味に見つめた。


「妾は“姫”と呼ぶがよいぞ」
 と、ミケちゃん。
「やっぱ名前ってそういう事なの?」
『……違うけど、みんながそれがいいならそれでいいんじゃないかな……』
 ジゲンノさんはちょっと投げやりになっていた。


「ワシ、“飛竜ひりゅう”と呼べ……」
 それもう猫じゃないじゃん。


「え、じゃぁボクは……“王”で」

⸺⸺

 結局みんなジゲンノさんがヴァシアスの世界での古代語を教えてくれて、それを参考に決めた。

 茶トラくんは竜を意味する“ナーガ”、白猫くんは深淵しんえんを意味する“アビス”、ミケちゃんは月を意味する“ルナ”。
 そしてボクは……王を意味する“レクス”だ。

『次、決めたいことあるんだけどいい?』
「うん、ジゲンノさん。次は何?」
『ジゲンノさんって僕のこと?』
「? うん」

『そっか……まぁいいや。異世界ヴァシアスには、9つの属性がある。炎、水、雷、風、氷、地、緑、光、闇だよ。人間はどれか1つの属性を持ってて、動物は本来どの魔力も持たない生き物だけど、どれか1つ選ぶならどの属性がいい?』

「俺様はめいだな」
「妾は月光じゃ」
「ワシは竜……」
 え、ちょっと待って。選んでって言われてるのにみんな当然のように選ばないのなんで?
「待って、みんななんか色々図々ずうずうしくない? いいの?」
『……できるかどうか分からないけど、やってみるよ』
 いいんだ。じゃぁボクは……。

「じゃぁボクは、できれば9つ全部で」
『……君が一番図々しくない??』

⸺⸺

「ねぇジゲンノさん。できればでいいんだけど何か固有スキルが欲しい」
 ボクは調子に乗って更にお願いする。

『できればって最初に付けたら何でもお願いしていい訳じゃないんだよ?』
「そうなの? できればでいいから、できないなら無理にとは言わないよ」
「次元の下僕に不可能などなかろう!」
「妾もお主はきっとできると信じておるぞ」
「……無理だろう」
『もう、分かったよ。何をつけて欲しいのか順番に言ってごらん』

「ボクは“聖王”」
「俺様は“魔王”」
「妾は“浮遊”」
「ワシは“飛竜”」

『イマイチよく分からないのがあるけど、それっぽいのつけておくね……。それじゃぁ最終確認だよ。

 ハチワレのレクスは9つ全ての属性に固有スキル“聖王”。
 白猫のアビスは冥属性に固有スキル“魔王”。
 ミケのルナは月光属性に固有スキル“浮遊”。
 茶トラのナーガは竜属性に固有スキル“飛竜”。

これでいいね?』

「YES!」


『じゃぁ異世界ヴァシアスへいってらっしゃい』
 ジゲンノさんがローブをひらひらさせると、ボクたちの身体が光に包まれていき、やがて意識を失った。

『はぁ……今日はすごい疲れた』
 そんなジゲンノさんの愚痴ぐちもボクたちには届かなかった。




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