40 / 44
40話 アビス談
しおりを挟む⸺⸺転送の間⸺⸺
「2番手は俺様が行くぞ!」
アビスが意気揚々と名乗り出る。
「うん、アビスの土地に連れてって」
ボクはそう気楽に言ってみたけど、アビスの土地って普通の人も入れるのかな……。
「あぁ、こっちだついてこい!」
アビスはそう言って何の注意もなく右の祭壇へと入っていったので、ボクたちも彼を信じて祭壇にある転送陣へと乗り込んだ。
⸺⸺大魔王アビスの深淵⸺⸺
そこは普通の城の中のようだった。
「ここは、大魔王アビスの深淵だ」
と、アビス。
「え、大魔王!?」
「そうだ。俺様はあれから更に下僕や、その……」
アビスはここで何故かモジモジする。
「アビス? どした?」
「あぁ、いや……下僕や……こ、子供を増やしてだな……力をつけたから俺様が今は大魔王なんだ」
「子供!? サタン様は?」
急に聞きたいことがありすぎる。
「サタン様は、名誉大魔王として俺様をサポートしてくれている」
何その名誉会長的な……。アビスは話を続ける。
「それで俺様の子供なんだが……」
アビスがまた恥ずかしがってモジモジしていると、通路の奥から元気な声が聞こえてくる。
「ママー! パパまだー!?」
「こっちよ! ほら、パパはお客様と一緒だから一列に並んで!」
ベリたんことベリアルの声だ。
「まぁ、あっち行けばわかるか」
と、アビス。
ボクたちはアビスについて城の中を進んでいった。
⸺⸺玉座の間⸺⸺
「ただいまー」
アビス、普通に家に帰ってきたテンションで玉座の間に入っていくんだね。
「あ、だーりん、おかえりなさいっ」
ベリたんがアビスに抱きついてきた。アビたんじゃなくてだーりんになってる……。
「え、なんかいっぱいいる!?」
だーりんがどうのこうのよりも、小さな子猫の悪魔や子供の悪魔がズラーッと綺麗に整列している方が気になってしまった。
「ほら、だーりん、紹介してっ」
と、ベリたん。
「わ、分かってるよベリたん……。いいかお前ら、これが我が子の……ジョン、マイク、エリー、アーロン、エイベル、ビリー、ボブ……えっと……」
「パパー! 僕の名前忘れたの!?」
アビスの止まった子が涙目になる。
「そ、そんな訳がなかろう! そ、そうだ、タロウにハナコにリュウノスケ……」
なんか急に日本人っぽい名前になった!?
それからもアビスは延々と我が子の紹介をしてくれて、総勢50人の大家族ということが分かった。
途中からウォルトやフェリクスは目がどっか行っていた。
「で、一番最後が、サタンおじいちゃん様だ」
アビスが列の最後を指し示すと、猫の姿になったサタン様がフレーメンの顔で並んでいた。
いや、なんで子供の列に一緒になって並んでんの!?
「レクス、久しぶりだ。余はこの通り楽しくやっている」
と、サタン様。
「ええ、本当に楽しそうで良かったです……」
ボクは苦笑した。
⸺⸺
再びアビスは口を開く。
「デーモン族の子供はな、その……そういう行為をするとメスに召喚の魔力が溜まっていって、それがいっぱいになると子の召喚が行えるのだ。つまり、妊娠期間がないからこうなってしまった……」
「えええ、そりゃビックリだ」
召喚ゲージがMAXまで溜まると召喚できるってことか……。なんか面白い。
「で、こいつらはまだ皆仮の名だ。15になると成人の儀を受け、真名を授かる」
あぁ、だからタロウとかハナコとか悪魔っぽくない名前が付けられているのか……。
「すごいやアビス。すっかり魔界の生活に馴染んでるんだね」
「まぁな……というかここはまだ魔界ではない。魔界は流石にお前らは入れんからな」
ボクはここであることに気付く。
「あれ? そう言えば……デーモン族のみんなと同じ空気を吸ってる!?」
ボクがそう言うと、アビスもベリたんもサタン様もみんな口元が緩んでいた。
アビスが口を開く。
「やっと気付いたか。俺様は大魔王になって、自分の深淵の法則を捻じ曲げることに成功した」
「おぉ……」
「今までこの地上界と魔界の狭間の深淵は、俺様とその下僕しか入れなかったんだ。それを、誰が入っても無事なように理を捻じ曲げた。大魔王になると、やろうと思えば大抵のことはできるようになるぞ」
アビスはわっはっはと愉快そうに笑っていた。
「それはすごいや。ここでなら、何の空気も気にせずみんなでお話ができるね! アビス、ちゃんと宣言通りにできたんだ」
「まぁな!」
それからもボクたちはこの深淵の城を案内してもらい、サタン様のお付きのシリウスや、アビスの下僕たちと挨拶を交わした。
⸺⸺
「そう言えばアビス。地上界なんだけどね」
ボクが話を振る。
「ん? なんだ?」
「最近、国のパトロール隊の報告で、魔物の出現が緩やかになってることがわかったんだ。それってアビスがこうやって狭間で色々やっててくれたからだよね。本当にありがとう」
「む、そうか。恐らく魔物として地上に追いやられそうになっている魔族共を片っ端から下僕にしていたからであろうな。結果オーライだったな!」
「深淵の下の力持ちだね!」
「わっはっは! うむ。その通りだ!」
アビスは、大魔王サタンの娘であるベリアルと結婚し、50人の子を授かり、更に力をつけて大魔王まで昇格していた。
そして、自らの空間である深淵を自由にカスタマイズして、世界の理を超えた種族の交流を可能としていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
113
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる