異世界で水の大精霊やってます。 湖に転移した俺の働かない辺境開拓

穂高稲穂

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2巻

2-2

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 それから数日経ち、連合会議当日を迎えた。

「それじゃあ行くぞ」

 俺を迎えに屋敷にやってきたユウキとともに、会議の会場へ向かうことになった。
 ユウキが大杖で床を軽く小突くと、床に魔法陣が現れる。
 魔法陣の外側ではヨナとルト、スイコが見送ってくれた。

「行ってくるね」

 俺はそう言いながら、三人に手を振る。

「行ってらっしゃい!」
「早く帰ってきてね、ナギ様!」
『お父様、お気をつけて』

 ヨナ、ルト、スイコがそう言うと同時に、魔法陣がカッと輝き出す。
 次の瞬間、俺は見慣れない部屋に転移していた。

「ここは?」

 俺の質問に、ユウキが答える。

「ユナシア帝国の宮殿じゃ。もう皆集まってる。行こう」

 ユウキに促されるまま俺は後を付いていく。
 しばらく進むと、ユウキは大扉の前で立ち止まり、杖の頭で扉をコツンと突く。
 巨大な扉がひとりでにゆっくりと開くと、中にある巨大な円卓が目に入った。
 ほぼ全ての席に人が座っている。
 ざっと見た感じ百人はいるだろうか……そのほとんどが人間で、他にエルフが一人、ドワーフが一人、獣人が五人、竜人が一人、それから武藤がいた。
 それらの人々が、俺の姿を確認して一斉に立ち上がり、深く頭を下げる。
 武藤は座ったままだった。
 それ以外の人間も、チラホラと座ったままふんぞり返っているのがいた。
 俺が円卓に歩き出そうとすると、ユウキが武藤の隣に空いている席を指さした。

「お主はひろむーの隣じゃ」
「あ、うん」

 俺は、ユウキの言葉に従って武藤の隣の席に座る。

「よ、久しぶりだな!」

 席に着くなり、武藤が明るく声をかけてきた。

「久しぶり? かな」

 眠っていた俺にとっては数カ月くらいの経過しか感じていないけれど、武藤にとっては五年ぶりの再会だ。
 武藤との挨拶もそこそこに、杖で床をコンコンと叩く音が響き、会議が始まった。
 先ほどまで立っていた皆が一斉に座り、広い議堂にユウキ声が響き渡る。

「さて、ようやく全員揃うことが出来た。まずは集まってくれたことにこの場で感謝を述べたい。ありがとう」

 ユウキの言葉に、全員が耳を傾けている。

「魔族による脅威は差し迫り、多くの国々が身をもって、その片鱗へんりんを理解したと思う」

 その言葉で、この場にいるほとんどが苦虫をつぶしたような顔をする。
 俺の村と同じく、禁呪に染まった精霊石によって変容させられた魔物に襲われたのだろう。
 中にはその襲撃で甚大な被害を受けた人もいるのかもしれない。

「化け物を倒して、脅威は去ったか……答えは否じゃ。まだ脅威は去っておらぬ。必ず奴らは何かを企み、我々を脅かすじゃろう。各国が個々で対応していてはいつかは限界を迎える。消耗しょうもう戦じゃ。そうならないためにも、我々は協力し問題を解決せねばならない!」

 ユウキが強い口調で言った。
 この場に集まった人々は恐らく各国の君主、国王や皇帝、首長といったリーダーなのだろう。
 それぞれが明日は我が身と考えて、難しい顔をしていた。
 そんな中、ドワーフが手を挙げる。

「ワシはドルガノフ王国国王のヴァノヴォフじゃ。その問題を解決するというのは……具体的にどうするのじゃ?」

 ユウキはヴァノヴォフの問いに淡々と答える。

「ワシが情報を集めたところ、魔族が着実に戦争の準備を進めているというのが分かった。さらに、ワシの予見の力で、その戦争が三年以内に起こるのがえた。問題の解決……それは即ち、魔族との戦いに勝利することじゃ」

 ざわざわざわ。
 ユウキの言葉に会場が騒然となる。
 そのほとんどが怯えているようだった。
 語り継がれる古の魔族と神々の戦いでは、人間やエルフやドワーフといった、ほぼ全ての種族が神々に協力して圧倒的な戦力差を生んだ。にもかかわらず、決着がつかず長引いたという話を以前聞いたことがあった。
 それほどまでに、魔族とは強く恐ろしい存在なのだ。
 ユウキが大杖でカッと強く床を突くと、空気が揺らいだ。
 そこから発せられた重く濃密な魔力が全員を包み込み、その威圧で騒ぎが収まった。
 俺や武藤は特に気にならなかったが、ほとんどの人は額に大粒の冷や汗を浮かべている。
 ユウキの圧倒的な存在感におののいているようだった。
 すぐに重苦しい魔力がフッと消えた。

「悲観することはない。魔族に伝承ほどの絶大な力はもうないはずじゃ。かといって、ワシ等人間が束になって大戦を勝ち抜けるかと聞かれれば、それは難しいじゃろう……」

 再びざわめきが起ころうとする前に、ユウキは床を突き、言葉を続けた。

「ワシ等が束になっても五分の戦なのはたしか。じゃが、それはドラゴンと大精霊という勢力がいなかった場合の話。今、この場にはドラゴンと大精霊がいる!」

 ユウキが俺たちに目線を向けたのにあわせて、他の面々も一斉にこちらに注目する。

「この大戦には大きな希望があるのじゃ!」

 ユウキが杖を天に掲げると、歓喜の声が上がった。
 何やら大きく期待されているなぁと、俺と武藤は苦笑いをした。
 ユウキが士気を高めた後は、話し合いは具体的なものになった。
 各種族がどう協力体制を築くか、資金や物資の調達方法、魔族への対応、それから大戦に向けての準備など。
 話し合いが白熱する中、俺と武藤はその光景を遠目に眺めていた。
 実際の大戦が起きた場合に、人間たちと同じ動きをすることがほぼない以上、俺たちがかき乱すのも良くないと思ったのだ。
 俺たちに何か意見を求めたいというような視線も多く感じたが、彼らも俺たちの存在を恐れ多いと思っているのか、遠慮して近づいてこない。
 武藤は暇そうに頬杖ほおづえを付いていた。
 俺は終わるまで、じっと椅子に座って目を瞑っていた。
 神経を研ぎ澄ますと、強者の気配があちこちから感じられるな。
 この会議に参加している王たちの護衛だろう。

「ん?」

 ふとそこで、そんな彼ら強者の中に、違った何かが混じっているのを感じ取った。
 極薄くだけど、邪悪な……

「どうした?」

 俺の様子に気がついた武藤が俺に尋ねる。

「なんか変な気配を感じたんだ。ちょっと気になるから行ってくるね」

 俺は武藤にそう言い残して席を立った。
 話し合いをしていた王たちは、一斉に俺の方を向いて静まり返る。
 俺は部屋から出る前に精霊体となって姿を隠してから、扉をすり抜けた。
 妙な気配のもとに向かうと、俺が怪しさを感じた人物はこちらに気がつく様子は無く、寛いでいた。
 見た目は人間の姿だが、そばまで来て俺は確信した。
 こいつは人間じゃない。

「な、何だ!?」

 何もないところに水の膜を出現させて、相手に気づかれる前に男を覆った。
 突然水の膜に覆われた男は、目を白黒させていた。
 俺はそいつの前に姿を表す。

「君、魔族だよね? なんでこんなところにいるのかは後で聞くとして、とりあえず来てもらうね」

 有無を言わさず、男を包み込む水を宙に浮かび上がらせると、俺は室内まで誘導した。
 男は焦った様子を見せて、水膜の中で激しく暴れる。
 だが俺が出した水の膜は、決して破れない。
 皆のところに戻ると、俺とその後ろのものを見て一同が騒然となる。
 それから一人の王が立ち上がって、俺に問いかけた。

「だ、大精霊様!? そ、その男がいかがなさいましたか!?」

 もしかして、この王様の護衛だったのだろうか。
 まぁ、見た目は騎士っぽいしな。
 取り乱す王を見て、ユウキはそれをなだめる。

「シェネス王、落ち着くのじゃ。それでナギ……その男がどうかしたか?」

 だが、俺が答えるより先に武藤が鋭い口調で言った。

「……そいつ、人間じゃねぇな」

 武藤の言わんところを察したのか、その言葉に場は再び騒然となる。
 シェネス王は目を見開いて驚いていた。
 そのリアクションからは嘘偽りは感じられず、この王が魔族を手引きしていた可能性はないだろうと感じた。
 掴まった男は懐から変な道具を取り出して、必死に釈明しゃくめいする。

「ご、誤解です! お、おそらくこの魔道具のせいです!」

 ユウキが俺の方を見る。それは本当かと聞きたげな目をしていた。
 そこに武藤が再び口を挟む。

「その魔道具からも妙な気配はするが、お前自身からしっかり邪悪な気配が沁み出てるぞ」

 武藤の言葉に男は奥歯を強く噛み、ギリィと鳴らす。
 だが、水の膜に捕らえられた男になす術はない。
 ユウキが、静かに男に近づいた。
 その様子をみんなが固唾かたずを吞んで見守る中、ユウキは杖の頭で水膜に触れた。
 次の瞬間、バリバリバリとけたたましい音を鳴り響かせて、男を電気が襲った。

「……!」

 男はその電撃を受けると、身体を仰け反り強ばらせる。
 叫び声を上げることもできずに苦しんだ後、ユウキが杖を水膜から離した。
 力無く倒れた男の身体から白い煙が上がる。
 そして、皮膚がただれ始めて、ポロポロと崩れ落ちた。
 そこから現われたのは、まさに魔族というべき姿だった。
 本来の姿を晒して気絶したままの魔族の処遇を、王たちが急いで話し始めた。
 即刻殺すべきだと主張したのが大多数。一方で、ユウキたち少数が尋問するべきだという意見を述べた。
 俺と武藤がその流れを傍観していると、ユウキが王たちを落ち着かせ、魔族を尋問するということで話はまとまった。
 しばらくして魔族の男は意識を取り戻した。
 自分に集中する視線にハッとして、俺たちへの敵意を剥き出しにする。

「さて、お主に聞きたいことがある」

 ユウキがそう問いかけた瞬間、魔族の男はこの後の流れを理解したのか、懐から短剣を取り出した。
 それを自分の心臓に突き立てようとしているのを見て、その場にいたほとんどが驚愕する。
 ユウキが止めに入るより早く、俺は水膜から水の縄を伸ばして、魔族の男の両腕を縛り上げた。短剣が乾いた音を立てて床に落ちた。

「……クソッ」

 魔族の男が憎々にくにくしげに吐き捨てる。

「全部喋ってもらうまでは簡単には死なせないからね」

 魔族は俺の方を見て焦りを滲ませた。
 ユウキの尋問が始まると、全員がそれを黙って見守る。

「まず始めに、お主の名を聞かせてもらおうか」
「……」

 これだけ不利な状況でも魔族の男は沈黙した。
 ユウキは杖の頭を水膜に触れさせると、先ほどと同じように電撃を浴びせる。
 魔族の男は、悲鳴を上げられないほどの電流に襲われた。
 杖を水膜から離すと、魔族の男は再びぐったりした。
 水の縄に支えられて力なく項垂うなだれている。
 意識はまだあるようだが、度重なる電撃でハァハァと過呼吸気味の様子だ。
 その苦しさは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。

「さて、再度聞こう。お主の名は?」
「ハァ……ハァ……ジュー……ナス……」

 弱々しく自分の名を名乗るジューナスという男。

「続いての質問じゃ。なぜお主は人間に化けてシェネス王の護衛をしていた?」
「……」

 ジューナスは下唇を噛み、再び黙った。

「なるほど。苦痛が好みのようじゃな」

 それを見てユウキが杖を近付けようとすると、ジューナスが恐怖に顔を歪ませる。
 電気がよほど恐ろしいようだ。

「は、話す……話す……から……それをやめて……くれ……」

 そう俺たちに懇願してから、ジューナスがぽつりぽつりと語り始めた。

「俺は……魔族軍の諜報部隊の一人だ。シェネス王に接近した目的は……今回の連合会議の内容を……偵察するため、特に会議に参加する大精霊とドラゴンがどういう存在なのかを知るためだ。この二大勢力は、こちらにとっても脅威になる可能性があったからな」

 最初こそ途切れ途切れだったが、ジューナスは徐々に調子を取り戻して、そこまで説明してくれた。
 話を聞く限り、魔族側は今回の大戦で俺たちが参戦することを把握しているようだ。
 諜報活動が行われており、俺と武藤という戦力が知られている点で、この戦いでは既に後手に回っているな。
 同じことを考えているのか、王たちは頭を抱える。

狼狽うろたえるな。戦力自体がバレたところで、こちらにいるのは全種族の中で最強を誇る大精霊とドラゴン。先に知られたって問題ない!」
「そ、そうだ! 我々には大精霊様とドラゴンがついている!」

 ユウキの言葉に誰かが賛同し、王たちが奮い立つ。
 その様子を見て、危機的な状況にいるはずのジューナスは僅かに口角を上げていた。
 俺はその様子が気になって質問する。

「一つ聞きたいんだけど……お前たち魔族がルギナス王国で攫った、多くの精霊術師と精霊の件、それらを使って何をしようとしている?」

 俺がジューナスに問いかけると、王たちがシンと静まり返った。
 と、同時にジューナスからはこれまでにない焦りや恐怖といった感情の揺らぎを感じた。
 この質問が核心かもしれない。
 俺はそう確信すると、精霊力を高めてジューナスを威圧した。

「知っていることは全部話してね」

 ジューナスは奥歯をガチガチと鳴らして極度に怯え始めた。

「ナギ、脅しはそれくらいでいいじゃろう。それ以上やると、もはや話せなくなるぞ?」
「わかった」

 ユウキに止められて、俺が威圧を辞めると、重い空気感から開放された王たちが大きく息を吸い込む。
 俺の威圧を全身に受けたジューナスは呼吸が浅くなり、目の焦点が合っていなかった。
 相当なストレスで精神負荷を負って、正気を保てなくなったのだろう。
 このまま情報を得られなくなったら元も子もないと思い、俺は頭上から一滴の雫を垂らす。
 俺の体を構成する神癒しんゆの力を持った湖の水によって、ジューナスは意識を取り戻す。
 正気に戻っても俺に対する恐れは消えなかったようで、怯えながら言葉をつむぎ始めた。
 この世界で触れてはならない精霊という存在の静かな怒りを受け、ジューナスはようやく自分が何を相手取っているか自覚したようだ。

「せ、精霊術師は洗脳し、せ……精霊を召喚させ……、精霊をい、生贄に……クッ……カハッ!」

 ジューナスの言葉に俺が怒りを覚えると、その感情にリンクして両腕を拘束する水の縄がギリギリと彼の腕を締めつける。
 骨がミシミシと鳴って、その痛みでジューナスは呼吸が乱れていた。

「続きを」

 俺の言葉にジューナスは苦痛に顔を歪め、額に大粒の汗が浮かび上がる。

「ハァ……ハァ……せ、精霊力を全て吸収し、ま、魔王の復活を……」
「なんじゃと!?」

 今度はユウキがジューナスの言葉を遮った。
 魔王の復活という言葉に、またしても全体が騒然となる。
 魔王といえば魔族の頂点だ。古の魔族と神々の大戦のときには猛威もういを振るった、正真正銘の化け物。その力は神々に届くほどと言われている。

「どの魔王だ! どの魔王を復活させる気じゃ!」

 鬼気迫る勢いでユウキがジューナスに問う。

「ハァ……ハァ……双黒そうこくの……血魔王けつまおう……ヴィデル様……」

 それを聞いてユウキが力無く椅子に腰かけた。
 それほど詳しくない俺は、その魔王がなんなのかユウキに尋ねた。
 どうやら、伝承の神魔大戦で世界を脅かした魔王の一角らしい。それも最も力があった相手だとか。
 ヴィデルは一体の神を滅ぼし、三体の神を地上に引き摺り下ろした伝説があるとのことだ。
 それこそ再び蘇ったら、大陸全土に今とは比べ物にならない被害が出るようだ。
 俺はユウキからジューナスに視線を移して、静かに言った。

「なるほど。まぁ、魔王以前に、魔族には精霊を生贄に精霊結晶を生み出したこと、それからその結晶に禁呪を込めて魔物に植え付けて化け物を生み出したこと。許せないことがいくつかあるからね。精霊を弄んだこと、必ず後悔させる」

 俺がそう言うと、心の内の怒りが伝播でんぱしたようで、水の縄の締め付けが最大限に達した。そしてジューナスの腕がその力に耐えられず、ゴキンと折れる。

「グアアアアアアアアアア!」

 ジューナスが激痛にあえいだ。

「フゥー……! フゥー……!」

 痛みに耐えながら周囲を見回すジューナス。

「フ、フハハ……ま、魔王様は必ず蘇る……グゥゥ……そして……必ず貴様らを滅ぼしてくれる」

 激痛を堪えながら、最後の意地とばかりにジューナスは高らかに言った。

「滅べ人間ども……我らが悲願……この世界を……必ずこの手に……」

 その言葉を最後にジューナスは気絶した。
 魔王の復活を目論もくろんでいることを知って、王たちは意気消沈いきしょうちんする。

「伝説の魔王に勝てる訳がない…‥」

 誰かがそう言うと、その諦めが伝染したように、王たちが絶望する。

「いや、そう悲観するのはまだ早い」

 先ほどまで座っていたユウキが、そこで声を上げた。

「そうだな」

 武藤がその言葉を肯定する。

「それはどういうことでしょうか?」

 王のうちの一人が不安げに尋ねると、ユウキが説明を始めた。

「そこの魔族、ジューナスだったか? そいつは必ず魔王がと言った。つまり、現時点では魔王はまだいないということだ」
「た、確かにそうですが……いずれは……」
「じゃからこそ、向こうの準備が整う前に、魔王に対抗する力、勇者の選定を行うのじゃ。そして、軍の編成を行う。こちらが持てるすべてで魔王の復活を止めるのじゃ! 皆の者、よいな?」

 ユウキの言葉に異論を唱える者はいなかった。
 全会一致で賛成されると、それぞれがすぐに準備に動き出したのだった。

  

  古の怪物


 連合会議から一週間。
 サンヴィレッジオに戻った俺はただただのんびり過ごしていた。
 以前ディアゾダスを助ける過程で手に入れた卵を抱えながら、ソファでゆっくりしていると、ヨナが慌てて部屋に入ってきた。

「ナギ様! なんか人間が来たよ!」

 ラミアなどの異種族ならいざ知らず、この村に人間が来るのは珍しいなぁ。

「人間? どんな感じの人?」
「えっと、白い服を着た人!」
「白い服?」

 聞いただけでは、さっぱりわからない。
 とりあえず、その人がいるというサンヴィレッジオの結界との境目までヨナと一緒に向かった。
 結界のそばでは、ダークエルフの男たちが武器を持って外にいる人間を睨みつけていた。
 それはそうだ。
 ダークエルフは人間に迫害されてここまで逃げてきたのだ。人間に対して警戒しないわけがない。
 俺はダークエルフたちの中に分け入って前に出た。
 俺の姿を見つけると、白い服を着た男が名乗った。

「あ、あなたがこの結界村の主でしょうか? わ、私はアルニス聖教から参りましたドーナンと申します!」
「アルニス聖教? 聖職者がサンヴィレッジオになんの用です?」
「勇者の件についてお話がありまして……」

 それを聞いて、連合会議で言っていた魔族に対抗する勇者を集めるという話とすぐに結びついた。
 だが、その件については、俺は基本ノータッチだ。
 人間たちの中で勝手にやってることだと考えていた。
 ますます何の用かわからない。
 まぁ、勇者選定の関係者がここまで来たのだから、話だけでも聞くか。
 ダークエルフたちを宥めてから、俺は聖職者たちを結界の中に招く。

「どうぞ中に入ってください」

 そう言うと、彼らは戸惑いつつも結界の中に入ってきた。

「こ、この結界はあなたが……?」
「うん。俺は大精霊ナギ。この結界は、ここに住む皆を守るために俺が張ったものだね」

 ドーナンたちが目を丸くした。

「た、大変失礼いたしました! 大精霊様とは気が付かず、ご無礼をお許しください!」

 ドーナンと、その護衛の白い鎧をまとった騎士が一斉に跪く。
 そんな彼らを、ダークエルフやラミアたちは厳しい目で見ていた。

「立ち上がってください。詳しい話は俺の家で聞きましょう」

 アルニス聖教の人たちは、素直に立ち上がると俺の後を付いてきた。
 サンヴィレッジオの中心部を歩く最中、彼らはそびえ立つビル群を間近で見て、呆気に取られていた。

「こっちです」

 俺がそう言って先を行くと、ドーナンたちが慌てて付いてきた。

「す、すごいですね……あんなに大きく高い建物は初めて見ました……」

 村以外に住む彼らからしても、ドワーフが建てたものはかなり高いようだ。
 それから少し歩くと、俺の邸宅に到着した。


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