宝かごみかは、君しだい

七草すずめ

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光の雨通り

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 雨の日の信号、暗闇を濡らして、
 コンクリートに、虚ろに映る
 ざあざあと降る音よりも、道を行く、
 車の音が、心を埋める
 知らぬ間に変わっていたのは、雨の色
 季節を連れた、やさしい香り
 小さくて、ふわりと落ちる雨雫、
 わたしの奥に、やわらかに降る

   *

 雨のきらいなところ。靴が濡れるときもちがわるい。カッパを着ないと自転車に乗れない。外で体育ができない。おにごっこもできない。とにかく外に出るのが億劫で、憂鬱。
 つまり、家にいればいいのである。わたしは休みの日の雨がだいすきだ。
 休日の朝。さむ、と目を覚ます。窓は結露して、レースカーテンが触れると水滴が流れる。こまかな雨でも、刺すような雨でも、ああ許された、と思う。
 ふだんは一日中家にいると、おかしな罪悪感に支配され正気じゃいられなくなる。家にいようと決めた日も、結局夕方ごろ、不安に押しつぶされそうになりながら本屋に行く。だけど雨の日はそうならない。だって雨だから。家であったかい紅茶を飲みながら、ステイシー・ケントの曲をかけ、「世界の果てのありえない場所」を一日中読んでいてもいい。
 雨の昼は少し薄暗い。いつもは聞こえない音が聞こえてくる。圧倒的な雨の存在感が、ワンルームの部屋ごとわたしを包む。おなかのなかって、こんなかんじだったかも。水槽の水の音と、ホットカーペットのぬくもり。静かに時間がすぎていく。
 だけど夜。やっぱりすこし外に出たくなる。傘をさしてコンビニへ。たくさん雨が降る夜は、いつもの二倍明るい。車の、さああ、という音がきもちいい。袋にアイスとパン、明日はしごと。朝には止んでほしいけど、もう少しなら降っていてもいい、と思う。
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