薫くんにささぐ

七草すずめ

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MINORIと薫くんはスマートにセックスする

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 さっきは上手く書けなかったけれど、今なら大丈夫な気がする。そうだ、今日は恋愛小説じゃなくて、官能小説を書こう。とびきりエッチなの。主人公をわたしだと思って、たくさん満足させてあげよう。そうしたら、きっと薫くんに「感情移入ができない」なんて言われることはない。だって感情しか詰まっていないんだから。その上もしかしたら、興奮した薫くんが四ヶ月と十三日ぶりにセックスしてくれるかもしれない。
 わたしは意気揚々と官能小説を連載しているページをひらいた。そしてがっかりする、そうだった、ちょうど男が射精した場面まで投稿していたことを思い出した。
「はあはあ……お前、今日、どうしちゃったんだよ」
 朝の日差しがまぶしい中で、海斗はそっと玲奈を抱きしめたのだった。続く。
 って、今わたしが書きたいのはセックスのシーンなんですけど。
 仕方ないからもう一回セックスさせるか。でも、朝っぱらから? ロマンチックなデートのあとに夜景を見ながらセックスしたって場面なんですけど、ていうか朝からもう一発って暇な大学生かよ。あれ、ていうかこれだと朝までずっとセックスしてたってことになってない?
 辻褄を合わせようと四苦八苦しているうちに、気持ちが萎えてしまった。もうセックスシーンなんてどうでもいい。パソコンをシャットダウンする。わたしと薫くんの夜みたいな間の悪さだった。MINORIと薫くんはもっとスマートにセックスするんだろうな。
 気がついたら外はもうオレンジ色だった。
 三人できゃっきゃとはしゃいだのが昨夜のこととは思えない。薫くんに、もう一ヶ月くらい会っていないような気がする。
 同時に、一日が過ぎたのに何も生み出していないことに気がつき、なにをしてたらこんなにも簡単に時間をワープできるのだろうと不思議に思う。時計の針がスローモーションのように動いていたOLのわたしに、その方法を教えてあげられたらいいのに。もしワープの方法を知っていたら、わたしは仕事を続けていただろうか。
 会社で働いていたときは、ちっとも小説を書く時間がとれなかった。土日になったら書こうと思いながら平日を過ごし、休日になるとだらだらと過ごしてまた平日が始まる、その繰り返し。
 電車に揺られて出勤して仕事して、みたいな無駄な時間を全部小説に捧げられたら、どれだけ筆が進むだろうと思っていた。それから、どんなに幸せだろう、とも。
 紗奈ちゃんはわたしに似ていると勝手に思っていたけれど、それはそう思いたかっただけで、本当はちっとも似ていない。だって紗奈ちゃんは絵が描きたくて苦しんでいるのに、わたしは小説が書けなくて苦しんでいる。こういうのが才能だというのなら、わたしは永遠に本当の小説なんて書けない。
 お前、書く気なんて、最初からないんじゃないか。脳内のお父さんが知ったような顔をして言ってくる。うるさい、あんたとはとは違うんだから。いつもならそれで幻影を振り払えるのに、だけどお前は俺のこどもだからなあ、本質はおなじなんだよ、今日のお父さんはしぶとくて化け物みたいにわたしを煽る。
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