その令嬢、商会長につき

かぼす

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第1章:魔道具の夜明け

8・迷宮探索者とヌイグルミ

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 どう躓いてしまったのか?

 ちょっと予想外の段階で多くの脱落者が出てしまったのだ。

 靴を履いた後、その場で立ってステップを踏む。

 たったこれだけの行動で数人は吹っ飛び、すっころび……脱落。

 そこを乗り越えても最初テストの予定だったジャンプテストの位置に移動するまでの歩みでまた同じような事になりまた脱落。

 この時点で既に半数を切る13人、もちろん被験に参加してもらった冒険者の人は手付金は支払ってから帰ってもらいました。

「残ったのは……Bランクの方が5名、Cランクの方が3名、Dランクが1名とEランクから2名ですね」

 やはり上位の冒険者ほど比較的練度が高いのか多く残っていた……のだが。

「ちょっといいか?」

 声を上げたのはBランク冒険者の5人グループだった……つまりパーティとして活動していた5人組だった。

「少し話し合ったんだがな、俺たちは迷宮探査を主な仕事にしてるんだ、光を出す魔道具で助けられていてな? このパール商会のお世話になってるから今回参加したんだ、それでなんだが……ちょっと今回の趣旨と違うのかもしれないが聞いてほしいことがある、大丈夫か?」
「なるほど……少々お待ちください、オーナーの判断が必要になる可能性がありますれば」

 今回のテストの担当は普段から店頭で荒くれを相手にしている白髪の令嬢、通称アン、本名アーニャ・モンブラン、実は流しの冒険者だったのだが、奥様の嫁いだランスロット家に縁があってメイドとして働いていた、そして今現在表向きの店長として働いているのだ。

 そんなアンが私と奥様が控えている小屋に入ってきた。

「私としてはお嬢様を人前に出すべきではないと思うのですが……」 
「いいわよ、私は商売を考えるオーナーとして出るわ、リッカちゃんはその膝に置いてるヌイグルミってところかしらね」
「ぬ……ぬいぐるみ」
「確かに愛玩動物ではありますが……」
「ちょ!」
「決まりね、ヌイグルミでも時々口を挟んでもいいわよ、私が発案したように誘導するわ」

 ◇ ◇

 テーブルのあちら側には発案した冒険者チームのリーダーとサブリーダーとみられる人が座っていた。

「はじめまして、私はランスロット侯爵の妻、『エッシャルデン・ランスロット』よ、『ランスロット婦人』と呼んでくださいな」
「では私も改めて……元冒険者アーニャ・モンブランだ」

「ランスロット婦人……でしたか、よろしくお願いします、そして『白銀の巨人』先輩ですね……」
「私は今はランスロット家の家臣だ、その名では呼ぶな……呼ばないでくださいませ」
「それで……アンからはあなた達からなにか意見があるようなことを聞いたのだけれど?」

「あ……あぁそうですね、でもそちらの小さい子に聞かせるような内容ではないのですが」

 冒険者のお仕事は血を見ることも多い、その気遣いは正しいと思う、この場以外では。

「気にしないで、今はヌイグルミだと思うように」
「いやいや……」
「思うように」
「いや」
「思うように……(ニッコリ)」

 奥様怖い!

「では本題に入ります……」

 冒険者さんたち、完敗!

「冒険者は地上で冒険や各種手助けをする『迷宮探索者フィールド』組と迷宮やダンジョンの攻略、そしてそこからの氾濫を抑える活動をする『メイズ』組の2種類に分けられます」
 ※フィールドは平原、森、山、街中など陽の当たるような場所での活動をする
 ※メイズは洞窟、未踏破ダンジョン、など暗所や罠のあるような主に閉所になる場所での活動をする

「我々のチーム『アリアドネ』はその『メイズ』に潜るのが今回の靴は非常に便利なのは理解しました、ですが天井が低く足音の反響が大きくなりやすい洞窟ではこの魔道具の恩恵はありません、しかしこれ以前の光の魔道具、火の魔道具、水の魔道具で我々の生還率は大きく向上しています、まずはここに感謝します」

「しかし、そんな閉所での活動をする我々はこの魔道具を使うことができても、利用することができません、見えないところを探る『メイズ』の探索者と、大抵の場合といっておきますが……見えているところに迫る危機を危険を冒して払いのける『フィールド』の冒険者ではどちらが上ということはないのですが、必要なものが違うのです」

 ヌイグルミは……まだ動けない。
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