その令嬢、商会長につき

かぼす

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第1章:魔道具の夜明け

10・疾風の靴と疾風の冒険者

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 パール魔道具店の新商品の治験は続く……。

 この治験には『メイズ』の冒険者とは別に『フィールド』の冒険者も参加しているんだ。

 『メイズ』の冒険者の5人は話し合いをした後、治験から離脱した。

 つまり魔道具の靴の治験に参加した残りの冒険者は残り8人だ。

「お待たせしました、『メイズ』の冒険者と少し話し合いがありましたので」

 待たせてしまったのでアンさんが一言彼らにフォローした。

「はい、飛翔実験、反復横跳びです」

「ということで皆さん、その円の中でジャンプしてみてください、少しづつその力を強めるイメージでだんだん大きく飛んでください、魔力は最初は抑えて、自分の力量に合わせて増やしてみてください」

 冒険者の足元には直径2メートルほどの円がひかれている、そのなかでバランスを崩さないようにその場ジャンプをするのが今回のテストだ。

 残った8人の冒険者はみんなバランス感覚や魔力の制御になれているのかまるでトランポリンのように1メートルから5メートルの高さを駆けていた、想定していた最高到達点までジャンプしている人までいたのだ。

「おー! すっごいね! とくにあのこ! ぎんいろのかみのこ!」
「うふふ、あの子のことが気に入ったの? たしかに一番ジャンプしてるものね、カッコいいわね」
「あの少年とその傍の2名でチームを組んでいるようですね、そのお二人もどうしてなかなか」

 確かに8人の冒険者の中でこの3人が突出してジャンプできていた。

「お疲れ様です、飛翔実験は皆さま問題ないようでしたので、反復横跳びに移ります」

「こちらの線のところに並んでください」

「そして20秒間でその左右の線を何回跨ぐ事が出来るを数えます、先ほどの両足ジャンプと違い各足に込める魔力の量が変わるとバランスを崩したり片方に行きすぎたりしますので、気を付けてください」

「また、この実験は靴を履きこなしたり魔力操作を円滑にするための訓練としてもお役に立つと思いますので、お買い求めいただけた場合、鍛錬のメニューに入れることをお勧めいたします」

 普通の反復横跳びは中央線から1メートルのところに線が引かれている、でも今回のは2メートル、靴の効果が出ると1メートルじゃ短すぎるからね。

「それでは……始め!」

 凄い! ひゅんひゅんしてる! 残像拳? みたいな感じで面白い! でも……。

「やっぱりころんじゃうひともいるねぇ」
「そうね、それでもだいぶ速いわよ」
「訓練すれば皆さん使いこなせそうですね」

「はい! 20秒です! 止まってください」
 ※片道で1カウントするルールで大体常人は50回です

「カウントした人は集計結果をこちらに」
「すごかったねぇ」
「うふふ、そうね、これは時代が変わる、そんな気持ちがするわね……」

「1番の方以外は名前は差し控えますね」

 カウント数の低い順に結果を発表するのだが、今回のは試験ではなく治験、優秀な人のやる気を出すのとともに成績が悪かった人を貶める必要なんてない。

「8番の方、34回、踏み足の筋力と魔力のバランスが悪かったようですね、右に2歩なのに比べ、左には3歩かかっています」
「次、7番の方、42回、踏み込むときの体の向きなど、反復行動をするうちに誤差が大きくなってしまったようです、左右への行き来のほかに前後への移動も大きかったです」
「次、6番の方、49回、魔力の込めるタイミングやその量が毎回違ってしまっていたようです」
「次、5番の方、65回、込めた魔力が少なかったのだと思いますが左右のブレは少なく、安定していたようです」
「次、4番の方、66回、若干の魔力のムラがあるようですが体幹の安定など、訓練の練度は群を抜いていますね」
「そして、3番の方、101回、素晴らしいです、魔力の出力も高い次元で安定しています、着地の際に滑ったことで回数が減ったようですね」
「次点、2番の方、137回、3番の方と比べると魔力水準は低いようですが、その安定性や体捌きの面で好成績になったようです」

「最後に……1番の方、匿名希望ということなので今回は『ライ』様とお呼びします、回数は306回です」
「すごいね? ぎんのこ!」
「うふふ、そうね疾風のように駆けていたわね」

「『しっぷーのぼうけんしゃ』さんなんだね!」
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