その令嬢、商会長につき

かぼす

文字の大きさ
18 / 27
第2章:魔道具変革

18・忌子と疾風のライ

しおりを挟む
 放課後、アイル殿下に呼び出されていたので、学校内で申請があれば貸し切りで使用できる訓練スペースへとやって来ました。

 そこにはアイル殿下と銀髪レンジャー……じゃなくてカイル殿下もいた、ちなみに取り巻きはいないみたいだ。

「来てくれたのね、リッカ」

 そして隣のカイル殿下はというと。

「ふん……」

 またか……。

「はぁ……それでアイル殿下、そろそろ何か教えてくださるのですか?」
「アイルでいいって言ったでしょ、口調も気にしないで」
「むぐ……アイル、どういうことだか教えてよ」

 それでよし、みたいな顔をしたアイルがようやく説明を始めた。

「まず、忌子が世間的に見て評価が悪いというのは昨日説明したからいいわね?」

 聞いていたことなので頷く、納得はしてないけどね。

「前提として忌子は欠点を持って生まれるの」

 新情報だよ……。

「それで、アイルと……カイル殿下は?」
「うん……私は魔力だけは多いのに魔力の操作が極端に苦手なの、カイ……カイルは私とは真逆、魔力は無いのに魔力操作は得意なの」

 魔力がないのに魔力操作が得意って……どういうことだろう?

「簡単に言うと、双子に生まれると何かしらの才能が別の兄弟に奪われて……その逆に、奪われた欠点の代わりに別の才能が伸びるの、これは何百年も観察されてきた事だからまず間違いないみたいなの……それで、貴族や王族に欠点――弱みがあってはいけないのは分かるかしら? つまり弱みね」

 カイル殿下は何も言わずに目をつむっているし、王族が下手に欠点を見せてしまうと反逆や謀反の足掛かりになってしまうのは理解できる。

「話を戻すわね、今日の魔道具の授業の時、私は1人で大失敗、カイルは4人に囲まれて背中に手を添えられていたのは覚えているかしら?」
「うん、周りの4人が殿下に魔力を必要以上に送ってたように見えたよ」

 っという最近の私にとっての何気ない一言は、アイル殿下には特別だったようで……話の腰を折ってしまうことになってしまった――。

「……え? あなた……魔力が見えるの?」

 この1年間魔道具の研究開発をしてきた私だ、効率化のためにいろいろな事の『見える化』にも力を入れていたのだ。

「眼鏡のすごく小さくしたような道具(コンタクト)に、ちょちょっと魔法陣を書くと……魔力というか、魔素がぼんやり程度だけど見えるようになるの、それで周りの人がレンジャー……じゃなくてカイル殿下に魔力を送ってるのが分かったんだよ、もっと細かく見えるようにしてから売ろうと思ってたから、まだ試作品なの……」

「さすがパールの……」

 アイル殿下がパールと口にしたその時、ここまでほぼ無言だったカイル殿下が突如として口を開いた。

「待てアイル、パールっていうのは……なんなのだ?」

 それなりに名前が売れてきてると思ってたんだけど……ぐぬぬ。

「あら? カイは知らなかったの? ライお兄様から何も聞いてないの?」
「ライ兄? 冒険者のまねごとなどをしてる放蕩兄さまか?」

 ライ? 聞いたことがある名前だな……。

「ライお兄様はすでに真似事どころか騎士団の上位に匹敵するBランク冒険者になっているのよ? 小さいころライお兄様にくっ付いて離さなかったあなたがこんなことも知らないの?」
「ぐ……それは関係ないだろう? ――というかライ兄っていつのまにBランクになってたんだ?」
「その秘密がここにいるリッカちゃんなのよ、ね?」

「ほえ?」

 どういうこと?

「あら……まだわからないのかしら、お兄様はパール魔道具店のおかげで今の自分がある! って言ってるくらいなのに……先日は鞄からその見た目以上の戦利品を自慢されたのです」

 ん? 鞄拡張パッチはミスリルを使っていたから結局一つしか売れていない……つまりそういうことなのか?

 確かに、あの準ストーカーのような常連冒険者は私の店が生み出してしまったようなものだ……。 先日もそれを利用して新商品を売りつけたのだから。

「……疾風の靴の治験の時にはお世話になりましたね、あとでチームメンバーが殿下の護衛だったとか聞かされて」
「それは聞きました、その時一緒だったのが取り巻きの4人だったのです……ライ兄様は王族ですのに、自由すぎるのですわ――うらやましい」

 尻すぼみだったからか、最後のほうは聞き取れなかった。

「私たちは小さいころからライお兄様以外の兄弟や家臣や使用人から、直接ではないにしろいろいろと言われてきましたの」
「……そうだな、その声の向きがある時を境に別の対象に移った、そう言いたいのだなアイル」

 ……つまり?

「ライお兄様は私達への当たりを少しでも減らすため、臣民の仕事を引き受けて風よけになってくれているのよ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...