その令嬢、商会長につき

かぼす

文字の大きさ
21 / 27
第2章:魔道具変革

21・人と人たらしめる物

しおりを挟む
 アイルとカイルの短所と長所を受けとめ、それらを死なせない魔道具を作るのが目的だということが分かった。

「つまりアイル殿……アイルは魔力の制御を、カイル殿下は魔力がないことをどうにかしたいってことでいいのね?」
「大体そうね、私はまずは制御というか出力の部分だけでもどうにか出来れば魔道具は使えるようになると思うのだけど、カイルは魔力そのものがないから、どうしようもないの」

 ふむぅ? そんなに難しいことかな?

「あのー、ちょっと考えが……あと次女さんも呼んで貰っていいかな?」
「? なにをするつもり?」
「即席で簡単な魔道具を作っちゃおうかな……っと?」
「なんで疑問形なのよ!」
「いやぁ……そりゃまぁいきなりだから期待だけさせてから失敗しちゃったら悪いかなって」
「アイル、いいだろ? おい、そこの者」

 カイル殿下はそう言って訓練場に控えていた兵士のような人に次女を呼びに行かせた」

「それじゃちょっと作業するね」

 ハンカチ大の布を用意して……取り出したりますは魔力ペン。
 魔力を集める『●』を書いてその外に円を描いて制御の『Ω』も書いておくかな、あとはゴニョゴニョして……よし! 出来た。

「リッカ? 次女が来たわ」
「うん、こっちも出来た、あのね? 次女の……」
「いまは名前はいいから、用件だけでいいわ」
「はぁ、ではカイル殿下の肌着の内側にこのパッチを当ててもらっていいですか? 陣を描いてあるほうが肌にあたるようにおへそのあたりに縫い付けてください」
「は? はい、かしこまりました」
「早め頼むわね」
「よし! カイル殿下のは準備完了、次女さんが戻ってきたら肌着を着替えていただいていいですか?」
「お? おう……いいだろう」

「それでですね? アイルなんですが……」
「なに? 私のは解決方法がないとでもいうの?」

「とっても簡単に解決できる予定です、私の実験中の『魔道具学III』が正しければ」
「『魔道具学III』って? そんな学問ないでしょう」
「まぁまぁ……私が提唱しようとしてる理屈なの、とにかく騙されたと思って一回試しませんか? ただ……」
「ただ?」
「はい! お肌に魔法陣を書かせてください!」
「「!?」」

 はぁ?! って顔で同じ顔2つに見られた。

「リッカ……私も一応王族よ、ほとんど貰い手のない嫁ぎ先をさらに減らすようなことはないわよね」
「それは大丈夫、数日で消えるインクで試験的に描くだけです!」
「……それでも騒ぐ貴族はいるのだけれど、まぁ乗り掛かった舟ね? どうすればいいの」
「肩までなんですが肌をさらすことになるんですが……ここでやって問題にならないですか?」
「それは描く時だけ?」
「そうです」
「なら控室に行きましょう、そこでお願い、幸いあなたは女の子だもの、不貞にはならないわ」

 ということで控室に行きアイルの利き腕に付け根に近いほうから手首に等間隔くらいで5本円を描いた、そして付け根のほうは大きな『Ω』を線に重ねて書いて、手首のほうは魔道具に書くような大きさの『Ω』に縮めた。

 書かれたくすぐったさで大笑いしていたアイルを落ち着かせて訓練場に戻ると、次女さんがもどっていたので入れ替わりでカイル殿下に着替えてきてもらった。

「カイル殿下、体調は大丈夫ですか?」
「ああ……これは……どういうことだ」
「お腹が温かいですか?」
「……そうだ、いつも友人が魔力を注いでくれているときの荒々しさはないが、なにか同じような感覚は感じるぞ」

「それじゃアイル、カイル殿下? さっきの授業で使ってたコレを持って、やってみちゃって下さい」
「これは?」
「授業の時の」

 さっきの授業で使っていた旧光の魔道具、魔力を注ぐと光るタイプだ。

「お二人に少しだけアドバイスです、今の状態のお二人の魔力を見たところアイルは思いっきり魔力を出そうとしても大丈夫だよ、カイル殿下もお腹の温かさを操るイメージでやれば……できるよ!」

「カイル」
「なんだアイル」

「緊張してきた、もしかしたら自分の出来ることが……」
「俺は早く試してみたい……だが、もし出来たらこれからあいつらとどう付き合えばいいのか……」

 そうか、カイル殿下は取り巻きがいたからその安心感もあった、でもアイルはその助けになる人もいなかったんだ。

「おっほん! カイル殿下! アイルが不安そうでしょ! 手を握ってあげなよ」
「はぁ?! 未婚の女子の手をか!?」
「姉弟なら関係ないでしょ!」
「……! そういえばそうだな……いいか?」

 カイル殿下の右手にアイルの左手が繋がれた。

「ん!」
「おし!」

 あ……いまさらだけど魔力の流れが変わるな……でもこのタイミングで言うことじゃないか。

「うん、準備完了だよ、そこで隠れて見てるカイル殿下の側近の人、アイルの護衛の人、次女の人、とっくに見てるのは気が付いてるんだからね、二人の融資を見届けてよね、それじゃ……いい?」

「うん!」
「あぁ!」

「うん、二人とも落ち着いて……信じて」

「ひかって……」
「ひかれ!」

 ぎゅっと祈るようにして閉じた目を開いたとき。

 二つの光と、泣きながら笑っている二人の様子は、たくさんのいろいろな思惑の人たちから見られていた……だが今この時だけは暖かく見守られていたのは間違いない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~

天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。 どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。 鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます! ※他サイトにも掲載しています

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...