僕が書いた世界の果てで、君の幸せを問う

 二〇五七年――AI資本主義が隅々まで行き渡り、幸福が制度として整備されたAI時代の日本。

 カスタムVRワールド制作専門〈スタジオ・ジェネシス〉で働く金子は、ある日、奇妙な依頼を受ける。

 依頼人は、著名な小説家・そら。脳卒中によって「閉じ込め症候群」となった妻は、聞くことも話すことも見ることもできない。さらに記憶すら欠けたまま、暗闇の中で生き続けているという。そこで依頼人が望んだのは、妻がかつて愛した、自分が書いた「異なる三つの小説」の世界を巡る、三日間の旅だった。

 圧倒的な美しさで作り上げられた偽物の世界で、二人は手を取り合い、愛を囁き合う。だが、その旅には、残酷な契約が隠されていた。

 死よりも重い苦痛のなかで、「わたしを殺して」と願う妻。そして夫は、三日間の旅を共に楽しむことを条件に、「あなたを殺してあげる」と静かに告げる。

 AIによる徹底した管理と支配のもと、死すら許されない、腐りかけた現実の病室。そして、美しすぎる仮初めの楽園。その境界線で二人を見守る金子は、やがて「本当の幸福」とは何かを知っていく。

 これは、死に向かう二人が遺した――世界でいちばん悲しい愛の記録。
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