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第一話
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柔らかい春の日差しが、大聖堂のステンドグラスを照らして、ステンドグラスの華やかな色彩が床に映しだされる昼下がり。暖かな光を背に受け、祈りを捧げながらも私は、とある問題に頭を悩ませていた。
-神よ、私はどうしたらいいでしょうか?
縋り付く気持ちで問いかけるが、もちろん答えなど返ってくるはずがない。解決しない悩みを考えていると自然とため息が出てきた。
「イルダよ、祈りながら余計なことを考えておらぬか?」
大聖堂には私しか居ないはずなのに、しゃがれた低い声に痛い所を指摘された。私は聞き覚えのある声がした方に視線を向ける。そこには大聖堂の扉の近くに佇む老人の姿があった。
腰を折り杖を使って歩く姿は、年相応の老人に見えるが近づくたびに、こちらを威圧する雰囲気は増し、声を聞けば背筋が伸び体に力が入る。それは正にこの国を統べる者の威厳に他ならない。
「枢機卿…すみません。今、生きていることが現実だとは、とても思えなくて…まだ頭の整理が出来ずにいました」
「そうだろうな。お前のあの惨状を見た我々も、にわかに信じられないでおる。体が半分吹き飛んだお前を蘇生させるなんて、今世の魔王は我々の想像を遙かに超える力を持っているようだ」
枢機卿は私に歩み寄ると、観察するように私の身体をみる。枢機卿の言うように、私の体は半分吹き飛んだ痕跡見当たらず、元のままだ。それは魔王が私の体を蘇生したからに他ならないが、そのことが今まさに私を悩ませていることだった。
彼の端正な顔がニヒルな笑いを浮かべていた光景を思い出し、愛しいはずの彼が憎らしくて仕方なくなる。
「陛下のお力もですが、どんな思惑があって私を蘇らせたのかも分からないので、油断できません」
「そうだな。今回のことでお前は魔王に大きな貸しを作った。そこにつけ込まれるなど許されないぞ。お前の職務は分かっておるな?」
「それは、もちろんです。魔王を籠絡し、聖教会の意のままの傀儡にすること。それが出来ないなら、魔王を私の手で葬ります」
枢機卿は私の答えを聞くと満足したように頷く。
「お前の口から聞けて、安心したわ。もし、魔王に恩など感じ職務を真っ当できないようなら、代役をたてねばならんかと思っておった」
立派な顎鬚を撫で笑いながら言うが、表情と内容が全く合っていなかった。それどころか、作り笑いをしている目は全く笑っていなくて、射抜くように私を見ていた。
「ご安心ください。聖教会のため、この命を賭けて職務を全ういたします」
枢機卿と目が合えば、全てを悟られてしまう気がして、その視線から逃れるように、片膝をつき最敬礼をして伝える。
「そうか。お前の働きに期待しているぞ」
枢機卿は私の返事に今度は納得したようで、大聖堂を後にした。枢機卿の杖の音がどんどん遠くなるのを聞きながら、私は心の中で自分に言い聞かせる
-私が魔王に心奪われるなんてこと、あってはならない。この想いは誰にも悟られず隠し通さなければならない。もしそれが出来なければ、私は自分の手で彼を…
最悪な結果を想像して、胸が酷く締め付けられる。私がこんな風に想っているなんて、彼は知らないだろうな。だって、彼にとって私はせいぜい体のいい玩具でしかないのだから。
-神よ、私はどうしたらいいでしょうか?
縋り付く気持ちで問いかけるが、もちろん答えなど返ってくるはずがない。解決しない悩みを考えていると自然とため息が出てきた。
「イルダよ、祈りながら余計なことを考えておらぬか?」
大聖堂には私しか居ないはずなのに、しゃがれた低い声に痛い所を指摘された。私は聞き覚えのある声がした方に視線を向ける。そこには大聖堂の扉の近くに佇む老人の姿があった。
腰を折り杖を使って歩く姿は、年相応の老人に見えるが近づくたびに、こちらを威圧する雰囲気は増し、声を聞けば背筋が伸び体に力が入る。それは正にこの国を統べる者の威厳に他ならない。
「枢機卿…すみません。今、生きていることが現実だとは、とても思えなくて…まだ頭の整理が出来ずにいました」
「そうだろうな。お前のあの惨状を見た我々も、にわかに信じられないでおる。体が半分吹き飛んだお前を蘇生させるなんて、今世の魔王は我々の想像を遙かに超える力を持っているようだ」
枢機卿は私に歩み寄ると、観察するように私の身体をみる。枢機卿の言うように、私の体は半分吹き飛んだ痕跡見当たらず、元のままだ。それは魔王が私の体を蘇生したからに他ならないが、そのことが今まさに私を悩ませていることだった。
彼の端正な顔がニヒルな笑いを浮かべていた光景を思い出し、愛しいはずの彼が憎らしくて仕方なくなる。
「陛下のお力もですが、どんな思惑があって私を蘇らせたのかも分からないので、油断できません」
「そうだな。今回のことでお前は魔王に大きな貸しを作った。そこにつけ込まれるなど許されないぞ。お前の職務は分かっておるな?」
「それは、もちろんです。魔王を籠絡し、聖教会の意のままの傀儡にすること。それが出来ないなら、魔王を私の手で葬ります」
枢機卿は私の答えを聞くと満足したように頷く。
「お前の口から聞けて、安心したわ。もし、魔王に恩など感じ職務を真っ当できないようなら、代役をたてねばならんかと思っておった」
立派な顎鬚を撫で笑いながら言うが、表情と内容が全く合っていなかった。それどころか、作り笑いをしている目は全く笑っていなくて、射抜くように私を見ていた。
「ご安心ください。聖教会のため、この命を賭けて職務を全ういたします」
枢機卿と目が合えば、全てを悟られてしまう気がして、その視線から逃れるように、片膝をつき最敬礼をして伝える。
「そうか。お前の働きに期待しているぞ」
枢機卿は私の返事に今度は納得したようで、大聖堂を後にした。枢機卿の杖の音がどんどん遠くなるのを聞きながら、私は心の中で自分に言い聞かせる
-私が魔王に心奪われるなんてこと、あってはならない。この想いは誰にも悟られず隠し通さなければならない。もしそれが出来なければ、私は自分の手で彼を…
最悪な結果を想像して、胸が酷く締め付けられる。私がこんな風に想っているなんて、彼は知らないだろうな。だって、彼にとって私はせいぜい体のいい玩具でしかないのだから。
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