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第三話
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幼い頃から僕の側には常にアーシュがいた。
誰にも見られない様に中庭のバラの植え込みの影で小さくなって泣いている時や、父上からオメガであることを詰られ、それに耐えている時も、僕に寄り添い支えてくれていた。
「ねぇ、アーシュ。ずっと側に居てくれる?」
「もちろん!例えヴィルが嫌だって言っても、絶対に側から離れないよ。」
そんな幼くて拙い睦合いをしたりもして。
だから、僕がアーシュを想うようになったのはごく自然の流れだったんだ。
僕が自分の気持ちを自覚してからしばらく、ネックガードにまだ鍵なんてついてなかった頃。
いつもの様に僕の私室のソファに二人並んで座っていると、アーシュが真面目な顔をして僕に向き直った。
「ヴィル、俺と番になって欲しい。」
そう言い何の躊躇いもなく僕を抱きしめた。
この時の温もり、息遣い、匂いを今でも鮮明に思い出せる。いや、忘れられるはずがないんだ。初めて好きな人に触れられたのだから。でも、それを思い出す度に報われないことが辛い、悲しいと心叫び張り裂けそうになる。
この時は、突然のことに驚きはしたものの、想い人からそう言われて、僕は喜びで浮き足だった。
「嬉しい!でも、なんでアーシュは僕と番になりたいの?」
愚かな僕は、アーシュが僕と同じ気持ちだと信じて疑っていなかった。だからアーシュから愛の告白を聞きたくてした質問に予想外の答えが返ってくるなんて思いもしなかったんだ。
「それは…番になればヴィルが王太子になれるから。」
一瞬何を言われたのか分からなかった。
でも、アーシュの表情は真面目なままで、ふざけている訳でも嘘をついている訳でもないというのは分かった。
番になれば僕が王太子になれるから?
幼い頃から傷ついた僕に寄り添ってくれたのは、僕に特別な感情があった訳じゃなくて、僕がオメガの王族だからか。そう気づいたとき、自分の想いは報われることはないのだと絶望に打ちひしがれた。
そこから先の記憶は朧げで、アーシュを置き去りに部屋から飛び出したことと、その時、右手の甲が何故かジンジン痛んでいたことだけしか覚えていない。
* * *
「殿下?」
苦々しい記憶が蘇りぼぅとしていたのだろう。アーシュが僕の顔を覗き込み、確認する様に頬に触れようとしてくる。
パァンッ
条件反射で、その手を払いのければ室内に乾いたら音が響く。
「僕に触れるなっ」
咄嗟に口から出た言葉はいやに攻撃的で。
僕の言動にアーシュの表情は何一つ変わらない。そのことに、僕ばかりが意識していることを思い知らされ苛立ちが募っていく。
「失礼しました。…殿下の発情期が明けましたら、彼の大国の使者が謁見に参る予定となっておりますので、お忘れない様。」
宙を彷徨っていた手を引き、何事も無い様にアーシュが言う。カリーノが張り詰めた僕らの空気にオロオロと狼狽えているが、それを気にせず、僕は更に攻撃的なセリフを吐く。
「…分かった。
僕はいつも通り、発情期が明けるまで私室に籠る。その間、僕には絶対に近づくな。
間違えても、お前とだけは番にならない。」
今日も僕は愛おしい人を拒む。
だって、こうする以外に叶わない想いに蓋をする方法が分からないのだから。
誰にも見られない様に中庭のバラの植え込みの影で小さくなって泣いている時や、父上からオメガであることを詰られ、それに耐えている時も、僕に寄り添い支えてくれていた。
「ねぇ、アーシュ。ずっと側に居てくれる?」
「もちろん!例えヴィルが嫌だって言っても、絶対に側から離れないよ。」
そんな幼くて拙い睦合いをしたりもして。
だから、僕がアーシュを想うようになったのはごく自然の流れだったんだ。
僕が自分の気持ちを自覚してからしばらく、ネックガードにまだ鍵なんてついてなかった頃。
いつもの様に僕の私室のソファに二人並んで座っていると、アーシュが真面目な顔をして僕に向き直った。
「ヴィル、俺と番になって欲しい。」
そう言い何の躊躇いもなく僕を抱きしめた。
この時の温もり、息遣い、匂いを今でも鮮明に思い出せる。いや、忘れられるはずがないんだ。初めて好きな人に触れられたのだから。でも、それを思い出す度に報われないことが辛い、悲しいと心叫び張り裂けそうになる。
この時は、突然のことに驚きはしたものの、想い人からそう言われて、僕は喜びで浮き足だった。
「嬉しい!でも、なんでアーシュは僕と番になりたいの?」
愚かな僕は、アーシュが僕と同じ気持ちだと信じて疑っていなかった。だからアーシュから愛の告白を聞きたくてした質問に予想外の答えが返ってくるなんて思いもしなかったんだ。
「それは…番になればヴィルが王太子になれるから。」
一瞬何を言われたのか分からなかった。
でも、アーシュの表情は真面目なままで、ふざけている訳でも嘘をついている訳でもないというのは分かった。
番になれば僕が王太子になれるから?
幼い頃から傷ついた僕に寄り添ってくれたのは、僕に特別な感情があった訳じゃなくて、僕がオメガの王族だからか。そう気づいたとき、自分の想いは報われることはないのだと絶望に打ちひしがれた。
そこから先の記憶は朧げで、アーシュを置き去りに部屋から飛び出したことと、その時、右手の甲が何故かジンジン痛んでいたことだけしか覚えていない。
* * *
「殿下?」
苦々しい記憶が蘇りぼぅとしていたのだろう。アーシュが僕の顔を覗き込み、確認する様に頬に触れようとしてくる。
パァンッ
条件反射で、その手を払いのければ室内に乾いたら音が響く。
「僕に触れるなっ」
咄嗟に口から出た言葉はいやに攻撃的で。
僕の言動にアーシュの表情は何一つ変わらない。そのことに、僕ばかりが意識していることを思い知らされ苛立ちが募っていく。
「失礼しました。…殿下の発情期が明けましたら、彼の大国の使者が謁見に参る予定となっておりますので、お忘れない様。」
宙を彷徨っていた手を引き、何事も無い様にアーシュが言う。カリーノが張り詰めた僕らの空気にオロオロと狼狽えているが、それを気にせず、僕は更に攻撃的なセリフを吐く。
「…分かった。
僕はいつも通り、発情期が明けるまで私室に籠る。その間、僕には絶対に近づくな。
間違えても、お前とだけは番にならない。」
今日も僕は愛おしい人を拒む。
だって、こうする以外に叶わない想いに蓋をする方法が分からないのだから。
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