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【ヤンデレβ×性悪α】 高慢αは手折られる
第二話
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「セラフ様は、何か苦手な食べ物はありますか?ちなみに、私は野菜が少し苦手で幼馴染からは好き嫌いせずに食べなさいと、よく怒られます。」
馬車の車窓からよく見知った景色が通り過ぎていく。レトアの邸宅から王都の市街地に向かう馬車の中、向かいに座る私にバナトは満面の笑で色々と質問を投げかけてくることが無性に気に触る。
「とくにありません」
視線は車窓に向けたまま返事だけする。これ以上会話する意思がないことを示しているのだが、バナトはそんなことを気にせずに会話を続ける。
「それなら良かった。うちの食事がセラフ様のお口に合うかシェフが心配していたので」
「……」
実家でこの男から求婚を受けた直後に真っ青な顔をした父上が私の部屋を訪れた。いつも厳格でアルファであることに誇りを持っている父上がバナトをみて驚いたのか目が飛び出るのではないかと思うほど目を見開いていた。私は尊敬する父上がそんな表情をしたことに失望を覚えた。父上のあの顔は忌々しい記憶として一生忘れることはできないだろう。
その後、父上とバナトから今回のことの顛末を教えられた。やはりヴィルム殿下に発情誘発剤を飲ませたことが原因で、陛下から私をレトア侯爵家から除名するよう命じられたらしい。嫡男の私を除名することになったレトア侯爵家は父上の代を以て廃名になるのかと思っていた。しかし次の当主はアルヴィにすると父上から聞き、それも納得できなかった。ベータの弟を当主にするくらいならば廃名した方が由緒正しいレトアの名を傷つけずに済むのに。
「怒っていらっしゃいますか?」
不愉快なことを思い出していた私にバナトが遠慮がちに聞いてくる。そもそも質問するまでもなくわかりきったことだと思うが。バナトに視線を向けると、筋肉で隆々とした肉体を申し訳なさそうに小さく縮こまらせ、こちらを伺っているバナトが目に入る。
「…なぜそう思うのですか?」
「俺…私がアーシュに頼み込んでセラフ様の身請け人になったことが気に触ったのかと思いまして」
「そうですね。…でも、肝心なのはそこじゃありません」
憎たらしいフィリアス卿が今回の懲罰について裏で手を回していることは想像していた。それでもやはり、彼の思惑通りにことが運ぶのは腹立たしかったが、それ以上に虫の居所を悪くしたのはバナトの発言だ。
「お顔が無事で良かった。と言ったのが不愉快にさせた原因ですか?」
「よくわかっていらっしゃる」
バナトの名を聞いてバナト商会の会長の親族だとすぐに分かった。バナト商会が私の身請け先になるなら伴侶でなく別のポストでもいいはずなのだ。それなのに伴侶として迎え入れる理由を聞いたら答えが『セラフ様の顔が好きなんです。だからお顔が無事で良かった』とのたまったのだ。つまり私の顔がフィリアス卿の蹴りでダメージを受けていたら、迎え入れるつもりはなかったということだ。私も自分の顔が好きだし、この見た目だからこそ幾人もの騎士爵のアルファと関係を持てたのだと思う。ただ、見た目だけが好きだと面と向かって言われるのは、あまりいい気はしない。
「でもセラフ様の内面が好きだと言って、後で嘘だと分かったら、今より不愉快な気持ちになると思いますよ」
「そうだとしても言い方はあるでしょう?見た目なんて劣化していくのだから、美しくなくなった私には興味がないとはっきり言うのは違いませんか」
「貴方の見た目が好きなのは事実なので。それにプライドの高いセラフ様なら、そう言われたら見た目を劣化させることなんてしないのでは?それにたった今もう一つセラフ様の好きな所が出来ました。プライドが高くて、すぐにいじけてしまう所も可愛らしくて好きです」
先程までの健気な態度とは打ってかわり、また私の手を握り、瞳を輝かせる。本当に、この男は暑苦しいったらない。
「そうですね。あなたに見捨てられるなど私のプライドが許しませんから、そうならないように最善を尽くしますよ」
「セラフ様がこの先ずっと私と一緒にいてくれるなんて、私は幸せ物ですね。でも、伴侶になると決まったからには善は急げですね!」
バナトはそう言うと、タイミングよく馬車が止まり御者が扉を開ける。広い馬車の中でそのまま私の手を引き横抱きにすると、大股で降り歩を進める。
「フェナーラ様お帰りなさいませ」
「フェナーラ様、お部屋はもう準備できていますよ」
「フェナーラ様、お昼は…後ほどですね」
挨拶や話しかけてくるバナト家の使用人たちに首を縦にふるだけの挨拶をするバナトは迷いなく進んでいく。そしてバナトの私室とおぼしき部屋のベッドに私を横たえた。
レトア邸からバナト邸の距離は離れていので日はまだ高く明るい。
「ねえ、セラフ様。あなたを愛したい。いいですよね?」
カーテンも開け放たれ明るいままの室内でバナトは私の上に覆い被さり聞いた。
馬車の車窓からよく見知った景色が通り過ぎていく。レトアの邸宅から王都の市街地に向かう馬車の中、向かいに座る私にバナトは満面の笑で色々と質問を投げかけてくることが無性に気に触る。
「とくにありません」
視線は車窓に向けたまま返事だけする。これ以上会話する意思がないことを示しているのだが、バナトはそんなことを気にせずに会話を続ける。
「それなら良かった。うちの食事がセラフ様のお口に合うかシェフが心配していたので」
「……」
実家でこの男から求婚を受けた直後に真っ青な顔をした父上が私の部屋を訪れた。いつも厳格でアルファであることに誇りを持っている父上がバナトをみて驚いたのか目が飛び出るのではないかと思うほど目を見開いていた。私は尊敬する父上がそんな表情をしたことに失望を覚えた。父上のあの顔は忌々しい記憶として一生忘れることはできないだろう。
その後、父上とバナトから今回のことの顛末を教えられた。やはりヴィルム殿下に発情誘発剤を飲ませたことが原因で、陛下から私をレトア侯爵家から除名するよう命じられたらしい。嫡男の私を除名することになったレトア侯爵家は父上の代を以て廃名になるのかと思っていた。しかし次の当主はアルヴィにすると父上から聞き、それも納得できなかった。ベータの弟を当主にするくらいならば廃名した方が由緒正しいレトアの名を傷つけずに済むのに。
「怒っていらっしゃいますか?」
不愉快なことを思い出していた私にバナトが遠慮がちに聞いてくる。そもそも質問するまでもなくわかりきったことだと思うが。バナトに視線を向けると、筋肉で隆々とした肉体を申し訳なさそうに小さく縮こまらせ、こちらを伺っているバナトが目に入る。
「…なぜそう思うのですか?」
「俺…私がアーシュに頼み込んでセラフ様の身請け人になったことが気に触ったのかと思いまして」
「そうですね。…でも、肝心なのはそこじゃありません」
憎たらしいフィリアス卿が今回の懲罰について裏で手を回していることは想像していた。それでもやはり、彼の思惑通りにことが運ぶのは腹立たしかったが、それ以上に虫の居所を悪くしたのはバナトの発言だ。
「お顔が無事で良かった。と言ったのが不愉快にさせた原因ですか?」
「よくわかっていらっしゃる」
バナトの名を聞いてバナト商会の会長の親族だとすぐに分かった。バナト商会が私の身請け先になるなら伴侶でなく別のポストでもいいはずなのだ。それなのに伴侶として迎え入れる理由を聞いたら答えが『セラフ様の顔が好きなんです。だからお顔が無事で良かった』とのたまったのだ。つまり私の顔がフィリアス卿の蹴りでダメージを受けていたら、迎え入れるつもりはなかったということだ。私も自分の顔が好きだし、この見た目だからこそ幾人もの騎士爵のアルファと関係を持てたのだと思う。ただ、見た目だけが好きだと面と向かって言われるのは、あまりいい気はしない。
「でもセラフ様の内面が好きだと言って、後で嘘だと分かったら、今より不愉快な気持ちになると思いますよ」
「そうだとしても言い方はあるでしょう?見た目なんて劣化していくのだから、美しくなくなった私には興味がないとはっきり言うのは違いませんか」
「貴方の見た目が好きなのは事実なので。それにプライドの高いセラフ様なら、そう言われたら見た目を劣化させることなんてしないのでは?それにたった今もう一つセラフ様の好きな所が出来ました。プライドが高くて、すぐにいじけてしまう所も可愛らしくて好きです」
先程までの健気な態度とは打ってかわり、また私の手を握り、瞳を輝かせる。本当に、この男は暑苦しいったらない。
「そうですね。あなたに見捨てられるなど私のプライドが許しませんから、そうならないように最善を尽くしますよ」
「セラフ様がこの先ずっと私と一緒にいてくれるなんて、私は幸せ物ですね。でも、伴侶になると決まったからには善は急げですね!」
バナトはそう言うと、タイミングよく馬車が止まり御者が扉を開ける。広い馬車の中でそのまま私の手を引き横抱きにすると、大股で降り歩を進める。
「フェナーラ様お帰りなさいませ」
「フェナーラ様、お部屋はもう準備できていますよ」
「フェナーラ様、お昼は…後ほどですね」
挨拶や話しかけてくるバナト家の使用人たちに首を縦にふるだけの挨拶をするバナトは迷いなく進んでいく。そしてバナトの私室とおぼしき部屋のベッドに私を横たえた。
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