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【ヤンデレβ×性悪α】 高慢αは手折られる

第一話

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つまらない。
快晴の空のしたに青々しく茂る庭園の薔薇の植え込みを自室から見下ろし、そう思った。リドールから帰国してから自室から出ることは許されず、同じ毎日をただ無為に繰り返してばかりいる。

屋敷についた当初、使用人や父上が絶句するほど顔が腫れていたせいか、私の部屋から鏡が撤去されてしまった。だから痛みがひいた後でも自分の顔がどんな状況なのかは分かっていない。何度も蹴られたから、もしかしたら鼻が曲がったり骨格が歪んだりしているのかもしれない。家柄と血筋以外の唯一の長所だったのに。

今はヴィルム殿下の身を危険に晒した罰がくだされるのを待機期間だが、今朝、父上が青白い顔をして立太子の式典に参加してくると私に告げてきた。今日の式典の終わりに父上に私の罰が伝えられるのだろう。そして私は父上からそれを聞く。良くて生家からの除名。最悪の場合は身ひとつで国外追放だろう。どちらにしても、容姿も家柄も奪われた私に残るのはアルファである矜持だけだ。

そういった考えを巡らせていたのに、廊下が騒がしくて気が逸れてしまった。しかもその音が近づいてきている気がする。部屋から出ることはできないので、喧騒が過ぎ去るのを窓際で待った。しかしなぜか扉がノックといいがたいほど強く乱暴に叩かれた。

「どうぞ」

不躾なと思いつつも返事をすると、今度は勢いよく扉が開かれる。

「セラフ様!」

大きな体躯の見知らぬ男が私の名前を呼び駆け寄ってくる。その勢いに驚き後ずさろうとするも、窓際だったので逃げ場はなかった。
瞬く間に男は私のもとに来て手を握りしめる。

「…どちら様でしょうか?」 

「バナト様!旦那様がお帰りになるまでお待ちください」

男が名乗る前に執事じいやが男を制止する。ついでにじいやは、男の手から僕の手を解放する。バナトといえば一つしか思い浮かばないが、まさかそこの関係者なのか?

「じいさん、さっきから何回も言っているが俺はフィリアス卿アーシュレイからすでに許可を貰っている。王太子の番から許可を貰っているのに、レトア侯爵からの許しが必要なのか?」

男はこともあろうに、エステートの二大侯爵のうちの一つであるフィリアス侯爵家の嫡男を呼び捨てだ。個人的にフィリアス卿には恨みしかないので、彼を呼び捨てにするのは構わないが、話し方の野蛮さや礼儀のなさに不快感すら感じる。

「すみません。私には話がまったく見えていません。バナト殿は、フィリアス卿から何の許可を得たのですか?」

「セラフ様にはまだ伝わっていなかったのですね。あなたのヴィルム殿下への背信行為の罰は、レトア侯爵家生家からの追放です。でもいくら罰を受けたとしても、王太子へ背信行為をした貴方の今後についてはアーシュレイから許しをもらって、後々問題にならないようにしたのです」

じいやに話す時とは打って変わって丁寧な口調になる。礼節は弁えているみたいだ。
それにしても、まさかこの男から私の罰の内容を伝えられるなんて思わなかった。なぜ、父上よりも先にその内容を知っているのか。そして、フィリアス卿が何を許可したのかは結局わからない。

「坊ちゃまの今後のことになりますので、ここから先の内容は旦那様同席のもとで進めるのがよろしいと思いますが…」

「ですが、じいや。私はレトア家から追放されるのですから、父上の許可はいらないのでは?それにフィリアス卿から既に何かの許可が降りたのならば、それに従わない理由はありませんよね?」

「罰の内容を聞いたら取り乱して話を聞いて貰えないんじゃないかと思っていました。でも面識の私に冷静に対応してくれている。やはりあなた以外は考えられないと思いました。アーシュレイから許可をもらった自分が誇らしいです」

「その許可というのは?」

私が再度聞き直すとバナトは私の前に跪き、私の手を取る。そして瞳は迷いなく私を真っ直ぐ見つめる。

「セラフ様、私、バナト・フェナーラのになっていただけませんか?」

伴侶?聞き間違いかと思い近くにいるじいやに視線を向けると、じいやは頭を抱えるように眉間に手を当てている。
どうやら、私の聞き間違いではないようだ。だが、伴侶なんて冗談じゃない!なぜ私が得体の知れない男に嫁がねばならないのだ。これも全て、にっくきフィリアス卿の仕業だと思うと腹ワタが煮えくりかえりそうになる。そんな私の心中とは対照的に目の前のバナトは私をうっとり見つめていた。
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