高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

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【ヤンデレβ×性悪α】 高慢αは手折られる

第十七話

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「うわっ。アンヌ…」

「あんたね、うわって何よ。にしても、性悪がこんなとこに居るなんて意外ね」

嫌そうな顔をしたフェナーラにアンヌ嬢がすかさずツッコむ。この二人は、ある意味息がぴったりだと思う。

「セラフは俺とデート中なの。だから邪魔すんな」

私を見るアンヌ嬢の視線を遮るように私達の間に立ち、アンヌ嬢にあっちへ行けと手で追い払う仕草をする。

「フェナーラ、アンヌ嬢に失礼ですよ」

「そうよ。あんたね、性悪に言われるって相当だからね」

「あのなぁ、アンヌ。前にも言っているけど、性悪じゃなくてセラフ様な」

「呼び方なんてどうでもいいじゃない。それに丁度あんたに用事があったのよ。パパも今、店にいるから、あんた来なさい」

「はぁ?だから、俺はセラフとデートしてるって言ってんだろ」

「それなら、性悪も一緒でいいわ。どうせあれも性悪が身につけるものなんでしょ?はい!行くわよ」

アンヌ嬢が何やら気になることを言っていた。しかし、アンヌ嬢がフェナーラの手を引いて行ってしまい、芋づる式で、私も引っ張られ確認するタイミングを逃してしまった。
フェナーラといえば、商売絡みの話になったので文句こそ言ってはいないが、不服に思っていることは横顔から読み取れた。
私が彼の横顔をマジマジと見ていると、不意にフェナーラがこちらを向き「ごめんな」と申し訳なさそうに謝られる。
確かに、邪魔が入ったのを残念に思う自分もいるが、それ以上に変なことを口走らなくて安心したのだ。

「お気になさらず。それに、あなたが仕事をしている姿を見られるいい機会ですし」

「そう言われたら頑張らなきゃな」

私は気持ちを隠すように素っ気なく可愛げゼロで言う。それでもフェナーラは嬉しそうな様子だ。こんなに塩対応されてもめげない姿を見ると、私への思いが本物なのだと実感して、私は胸が高鳴り自分の頬が熱くなるのが分かった。

「セラフ大丈夫か?」

「……気になさらないでください」

赤くなった顔を見られないように咄嗟に俯くと、私の行動を不審に思ったフェナーラが心配そうに聞いてくる。私は自覚してしまった自分の恋心を整理するのに精一杯で、また素っ気ない返事をするしかなかった。

* * *
アンヌ嬢に手を引かれて商店街を抜けた先には、貴族だった頃に通っていたブティックやバナト商会の店舗が立ち並ぶ見慣れた街並みだった。
路面の立派な店舗の間の小道を入ると、路面店よりも小ぢんまりした店が並ぶ。アンヌ嬢とフェナーラは迷わずに、その中の一店舗に入る。

「フェナ、待ってたぞ!」

「うぶっ。おじさん。離れて」

店の中にいた恰幅のいい壮年の男性に力一杯ハグをされたフェナーラが苦しそうにうめく。おじさんということは、アンヌ嬢の父親なのだろう。男性は健康的に日焼けした肌に年齢の割には筋肉のついた腕からフェナーラを解放すると、フェナーラの背後にいた私の存在に気づいたようで目を丸くする。

「この別嬪さんは、フェナのこれか?」

私を一瞥したあと、男性は何故か小指をたてて、フェナーラを見やる。

「おじさん、紹介するわ。俺の伴侶のセラフ。綺麗だろ?」

「パパ、この見た目に騙されないで。こいつは、フェナが片思いしてたあの性悪のレトアの嫡男よ」

男性が口を開く前にアンヌ嬢が口を挟む。

「あぁ、あのアルファ以外はゴミ扱いするレトア家の坊ちゃんか。噂に聞いてたけど、本当に別嬪だな。いくら片思いしてたっても、男だから、伴侶ってのも冗談だろ?」

「正真正銘、セラフは俺の伴侶だ」

婚姻式はこれからだけどな。とフェナーラが付け加えると、男性は今度は落胆したように項垂れる。

「おいおいマジかよ。フェナにはうちのアンヌを娶ってもらおうと思ってたのに。うちのお転婆娘は、お前にしか手に負えないのに、どうしたらいいんだ?」

「昔から言っているけど、俺はセラフ一筋だから。アンヌの相手は頑張って見つけてくれ」

「フェナあんたねぇ!前から言ってるけど、私はあんたがいいの!だから、あんた達の婚姻は絶対に認めない!」

アンヌ嬢が宣言すると、男性がそうだそうだと相槌を打って援護する。

「あぁ、はいはい。お前に認めてもらわなくても、俺とセラフはふかーく愛し合っているから。お前の入る隙間なんてないの」

「なに言っているんですか!」

「ほら、性悪は違うみたいよ」

フェナーラがさらりと事実を誇張したことに、声を上げるとアンヌ嬢がしたり顔でフェナーラに追い討ちをかける。だが、私もフェナーラに惹かれているので、違う訳ではない。

「そう言う訳じゃ…」

「アンヌ、セラフを困らせるな。で、本題だが商品できたんだろ?見せてくれ」

フェナーラは私の言葉を待たずにアンヌ嬢をあしらうと、商人の顔つきになる。
アンヌ嬢も、その表情をみてそれ以上言い募るのは辞め、「パパ、お願い」と男性に声をかける。男性は軽く返事をすると店舗の奥から、商品が載ったトレイを持ってくる。

「ほら、フェナ。俺とアンヌの力作だぞ」

男性は近場のテーブルにトレイを置く。そして、その上に被せてあった白い布を外すと、その上には綺麗に並べられたネックガード。

「おぉー。さすが、おじさん。やっぱり腕いいな」

ネックガードを手に取ってフェナーラがネックガードを眺める。
よく見ると、それはただの革のネックガードではなく綺麗に装飾されていた。

「まぁな。フェナからネックガードをナイフで切ろうとした輩がいたって聞いたから、今回のは縁を金属で覆ってみた」

男性の言葉にギクリとしていると、フェナーラが私を流し目で見ながら

「そうだな。これなら切られる心配はないな」と言う。

多分、フィリアス卿から聞いたのだろう。目の前のネックガードは殿下達がつけていたものと似ている。

「綺麗に装飾されてますね。きっと腕のいい職人さんなんですね」

フェナーラの視線に居心地の悪さを感じて、話題を変える。

「まぁね!私の腕にかかればこんなものよ!」

アンヌ嬢が得意気に言い、またも男性が「レトアの坊ちゃんに褒められるなんて、さすがアンヌ」と彼女を持ち上げる。見た目に似合わず子煩悩なタイプなのだろう。

「アンヌ嬢が装飾されたんですね。この装飾なら貴族のご令嬢も抵抗なくつけられますね」

オメガのご令嬢でも時々、ネックガードをせずに社交の場に来てしまう人がいる。そしてそこで、不運にも発情期が来てしまい望まぬ番になったなんて話も聞く。ご令嬢達がネックガードをつけたがらないのは単に無機質なネックガードがドレスに合わないからといった理由らしい。お年頃な理由だが、それで望まぬ番になっては元も子もないと親達は頭を悩ませているらしい。

「まぁ、それがこの商品のコンセプトらしいから。性悪がこれをつけて、次のリドールでのパーティーに行って宣伝するんでしょう?」

アンヌ嬢が当然のように聞いてきた内容に私の頭には疑問符が浮かんだ。
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