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【ヤンデレβ×性悪α】 高慢αは手折られる

第二十四話

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騎士爵出身なだけあって、鍛えられた体は服の上からでも筋肉の形がわかるほどだ。顔の造形は目を引くほどではないが、優しげな笑顔に心打たれる女性はいるだろう。そんなモテそうな雰囲気を纏っているエイヴィアン伯爵とは、顔を合わせるのは今回が初めてのはず。何故なら屋敷に到着した時、諸事情で私は挨拶できない状態だったからだ。でも伯爵は以前にも会ったことがあるような口ぶりだ。

「えっと、すみません。以前、どこかでお会いしましたか?」

私に敬称をつけるのは、エステートの騎士爵だった時の名残なのだろう。もしかしたら、エステートで会ったことがあるのかもしれない。それに騎士爵の時に、私と寝ている可能性もある。当時の私は騎士爵のアルファが嫌がっても、権力にモノを言わせ自分を抱かせていたから、関係を持たせたなら、その非礼は詫びなければいけない。そう考えると、失礼を承知で確認しなければいけなかったし、過去の自分の軽率な行いに頭が痛くなった。

「セラフ様が俺をのは分かってましたが、ここまで綺麗に忘れ去られていたら流石に落ち込みますね」

人の良さそうな笑は相変わらずだが、少しトーンダウンした声でエイヴィアン伯爵が言う。

「すみません…」

「いえ、少し意地悪が過ぎましたね。私達は、王立学院の先輩後輩だったんですよ。私が入学した時、セラフ様は2学年上に在籍してました」

王立学院で一緒だったから私を知っていたのか。どうやら体の関係は無さそうだと安堵した。ただ、あの時期の私も学院の生徒とワンナイトをしていて、特に優秀な特待生は片っ端から誘っていたから、その噂は流石に知られているだろう。そう思うと、やはり若気の至りを悔いるしかなかった。

「そうでしたか。あの時期を知られているのは何だか気恥ずかしいです。確か王立学院ではフェナーラと同級生だったとか」

「そうなんです。私と違ってバナトは優秀でしたよ。なんたって主席で卒業してましたから。と思いましたよ」

フェナーラの学院時代の話を聞き、また一つ彼のことを知れたと喜びがわくと同時にフェナーラも私の当時のことを知っているのだろうと不安が芽生える。

「それは初耳ですね。でもエイヴィアン伯爵も大変優秀じゃないですか。エステートの騎士爵からリドールの伯爵になるなんて、至難の業ですよ」

「そんな。私はたまたま運が良かっただけですよ。騎士として配属された辺境で妻に見初められて、婿入りしただけですから。それより、セラフ様とバナトの馴れ初めを知りたいです」

「馴れ初めになるかはわかりませんが、私が侯爵家を除名になった所を、フェナーラが助けてくれて今の関係になったんです」

話を逸らすようにエイヴィアン伯爵に聞かれる。彼は興味深々といった様子だ。それに素直に答えると彼は目を丸くする

「除名⁈それは大変でしたね。でも、バナトが伴侶を作るなんて意外でした。学院時代のあいつはモテたので取っ替え引っ替えして特定の相手は作らなかったんです。あまりにも相手がコロコロ変わるから、恋人を作る気はないのかと聞いたんですよ…」

フェナーラはモテるだろうと思っていたから、遊んでいても不思議ではない。でも例え過去のことでも、その事実は知りたくなかった。自分だって同じ…いや、それ以上に奔放なことをしているのに、何故か胸がチリチリと痛む。さっきまで、フェナーラが過去の私の行いを知っていたらどうしようという不安が、学院時代のフェナーラへの不信感に飲みこまれる。

「そうしたら、本気になれないから。って言ったんです。……でも、あいつも歳を食って本気になれる相手が見つかったんですね」

過去のエピソードを話し終えたエイヴィアン伯爵が、私の顔を見て急いで言葉を足す。
私は今どれほど酷い顔をしているのだろう。

「そうだといいですが…」

若い頃に本気になれないと特定の相手を作らなかったフェナーラが私を伴侶にしているのは、私の外見が好きだから。
それ以外で私に惹かれている所なんて見当たらない。自分で長所を考えてみても、外見以外見つからないのだから、当然か。
だから、今は私の外見を愛してくれているけど、歳をとって見た目が変わったらきっと捨てられる。
思考が負のスパイラルに入り、気持ちも落ちていく。

「…セラフ様」

「少し暗い顔してましたか?すみません。フェナーラは私に本気かどうかは分かりませんが、バナト商会の役にたてたらなと考えてはいるんですが。役に立てそうなことが、まだ見つかっていなくて…。確か、エイヴィアン伯爵も商売をなさっているとか?商いを営む上でどういう人材が欲しいですか?」

伯爵に気遣うように声をかけられ、現実に引き戻される。そして、早口に取り繕うための言葉が出てくる。

「商いで欲しい人材…。今回、バナトをこのパーティーに呼んだのはバナト商会と商談がしたかったからなんです。もし良ければ、その橋渡しをセラフ様にやっていただけないでしょうか?」

「私が?伯爵とフェナーラの間柄なら直接持ちかけた方がよろしいんじゃないですか?」

「商会に役立ちたいと仰られたので、微力ながらお力添えできればと思いまして」

エイヴィアン伯爵は、あの人の良い笑顔を私に向ける。笑顔の通りの紳士なんだろうと思い、私はその提案をありがたく受けることにした。

「それならぜひ、やらせてください」

「そう言っていただけて良かったです。ただ一つだけ約束してもらってもいいですか?」

「どういった約束でしょうか?」

「バナト商会と商談する商品は、まだ市場に出回っていないものになります。なので、商談当日まで、商品の詳細は話せません」

それは約束ではないのでは?と思っていると、伯爵がですが…と言葉を続ける

「ですが、どういった商品か分からないとセラフ様も商談の必要性を判断できないと思いますので、セラフ様には特別に商談前にお見せしたいと思います。でも、これは特別対応なので、商品をバナトにも誰にも言わないと約束していただけますか?」 

「それは、もちろん約束いたします。大変ありがたいです。いつ頃、見せていただけますか?」

伯爵のお心遣いに感謝しつつ、話を詰めていく。

じゃあ、日時は…と伯爵から説明を一通り受け終えると、伯爵が手を差し出す。

「それじゃあ、私達は今から秘密を共有する同士です。この商談成功させましょうね」

「はい!商談当日に、フェナーラを驚かせてやりましょう」

私はその手を握り、握手を交わす。この商談を成功させ、商会に役立ちたい。そうしたら、フェナーラも私を必要としてくれるはずだ。そう思うとやる気が漲ってくる。

でも、そんな私達の熱意に水を差すように、握手していた私達の手を誰かが叩き落とす。そして地を這うような低く冷たい声で

「なにしてる?」

と私に問いかけてきた。









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